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33 【直感】

途中からライフェルト視点

 時は少し遡り、シエルとエリク、神殿騎士組、シラー親子とグライデル伯爵が夕食を終えてレストラン前で別れようというところ。


「ではまたね、シエル君。今度うちにいらっしゃいな。お茶をご馳走するわ。エリク君もね」

「はい、是非」

「えっ、は、はいっ!」


 シラー夫人の言葉に、シエルは一応社会人だった頃のスキルを引っ張り出し卒なく応え、エリクは『えっ? 貴族の家に? あ、でも先輩の家と思えば……』とでも考えてるんだろうな、と丸わかりな顔で頷く。


 それにグライデル伯爵も続いた。


「うちにも遊びにおいで。お詫びを兼ねてご馳走しよう」

「……すみません、それは遠慮したいです」


 シエルは発掘したばかりの社会人スキルをポイッと捨てて、本音を口にした。

 固まるグライデル伯爵。

 プッと吹き出すシラー夫人。


「い、嫌かね?」

「や、だって数日もしたらお嬢様が帰って来るでしょう? 流石にまた顔を合わせる気はしませんし、あの侍女さんも会いたくないです」

「そうよねぇ、酷い目に遭ったばかりで、その相手の家に行く気はしないわよね」


 くつくつと笑いながら、シラー夫人が何故か援護射撃をして来る。

 グライデル伯爵は、はぅ、と溜め息を付き、チラッと夫人を睨み付けてから言う。


「これは配慮に欠けていたな。だが、お詫びしたいのも本当だ。娘にも――可能ならば謝罪させたい。神殿か……ああ、シラー家に集まるというのはどうかね」

「うちは構わないわよ」

「グライデル伯爵、そういった件であれば、申請して頂ければ場所をご用意出来ます。神官の立ち会いも望めますよ」


 グライデル伯爵の提案に、シラー夫人は了承し、セスが別案を告げる。

 いずれにせよ、シエルが望むように、で話は終わった。






 そうしてそれぞれが帰宅の途につき、シラー親子も待機させていた自家の獣車に乗り込んだ。

 シラー親子が座席に着くと、間もなく獣車は走り出す。そのまま沈黙が降りる事、数秒。


「……っ、あっははははははははっ」

「……ふっ、ふふふふふふふふふふ」


 突然笑い出す親子。


「見た!? あのリカルドの顔! 最高! シエル君さいっこう!! あははははは」

「いや、あれは驚きました。あの流れでサラッと断るなんて……ふふっ」


 シエルがグライデル伯爵の誘いを断ったくだりの事だ。

 オリヴィエはその場でも笑っていたが、あれで抑えていたのだ。

 一頻り笑って、ようやく笑いの発作が収まって来たオリヴィエは切り出した。


「あー、おっかし……。凄い子ねぇシエル君。アリシアに睨み付けられても『何か?』って顔で呑気にクッキー囓ってるし。肝が座ってること」

「率直な物言いをする子ではありましたが……僕達が相手だからと思ってましたよ。ベルテット夫人にもですが、まさか初対面の、それも貴族の当主相手にまであんな態度を取れるとは」

「その点、エリク君は普通に萎縮してたわね。横でポリポリクッキー囓られて、気が抜けたみたいだけど。ふくくっ」


 ライフェルトはシエルと付き合い、それなりに性格を把握していたつもりだったが、また新たな一面を見た。

 物怖じしない子だとは思っていたが、あれほどとは。


「でも、鈍い訳でもない。あの子、アリシアの態度が神官の心象を悪くしてるだけって事も、リカルドが早々にアリシアに見切りを付けた事も理解してたわね」

「ええ。不思議そうにはしてましたが。母上と伯爵が連携していたのも察してましたね」

「神官の問いにも、場の空気に流されず、キチンと自分の考えを示していた。……いいわ、とても良い」


 うん、と一つ頷き、オリヴィエは息子に訊ねる。


「ねぇライフェルト、シエル君は、うちで引き取りたいと申し出たら受けてくれるかしら?」

「は、……えっ?」


 予想外の提案に、ライフェルトの反応が遅れた。


「それは、養子に? それとも後見人になると? そんなに気に入りましたか?」


 母親がシエルを気に入ったのは見ていて分かった。将来有望な孤児に貴族が特別に支援する事はよくある事で、おかしな事はない。けれどそこまで言うのはどこか釈然とせず、問い返す。

 そこで、ふと、オリヴィエは真面目な顔になる。ライフェルトは空気が変わったのを察し、反射的に背筋を正し思った。

 どうやらここからが本題らしい、と。

 オリヴィエはライフェルトの疑問には直接答えず、再び訊ねた。


「ライフェルト、忌憚無い意見をちょうだい。……今日のグライデル伯爵の様子、可怪しいと思わなかった?」

「……思い、ました」


 ミュリエルとの婚約話、拗れたのは何もミュリエルだけが問題ではない。

 グライデル伯爵本人も、なんとかこの婚約をまとめようと食い下がってきた。強引に纏めても不和が生じるだけと理解しつつも、どうしてもそうしたいのだ、と言うように。

 最終的には「伯爵家で全面的に支援するから、ライフェルト君を跡継ぎに据えてはどうか」とまで言い出したのだ。

 その時はオリヴィエがガチギレして伯爵が引いたが。


 それ程にミュリエルとライフェルトの婚姻に拘っていたのに、今日は拍子抜けする程あっさりとシラー家側の要求を呑んでくれた。

 あれは、ミュリエルが失態を犯したからというより……。


「妙な話ですが……憑き物が落ちた、ような。伯爵自身も己の変化? に首を傾げているような気がしましたが……」

「ええ、『今日、様子が可怪しかった』と言うより、『これまで可怪しかったのが正常に戻った』。そんな印象ね」

「はい」


 元より、グライデル伯爵は娘にそんな甘い父親では無い。伯爵は貴族である事に誇りを持ち、位に相応しくある事を己にも周りにも求める人間だ。

 金に飽かせた派手な装いも、舐められない為の威嚇の意味でしてるもの。成り金趣味など無く内面はシビア且つ堅実。貴族として、経営者として尊敬出来る男なのだ。


 本来ならミュリエルの我儘だって、もっときつく戒め、最低でも貴族としての心構えを説くくらいの事はする人間なのだ。

 それが、ことミュリエルとライフェルトの婚約……『ミュリエルの我儘』ではなく、『ライフェルトとの婚約』に限ってらしくない態度を取っていた。


 そしてそれは。


「私も、この件に関しては可怪しかった。そうね?」

「……はい」


 そう、オリヴィエも、それは同じだったのだ。

 どんなに伯爵が可怪しくても、普段のオリヴィエならば「有り得ない」とキッパリ跳ね除け、それで終わる案件だった。

 ライフェルトは容姿に優れ、能力もあり、女性にモテる。シラー家側にミュリエルに拘る理由など無い。いつものオリヴィエだったら、頭のおかしな小娘なんぞさっさと見切りを付け、条件の良い令嬢を見繕ってる場面なのだ。

 なのに、そうハッキリと言えなかった。何故かこの件になると曖昧に濁してしまっていた。


 それはライフェルトも、シラーとグライデルそれぞれの他の家族も、おそらく同様だ。


「それも、変だと自覚したばかりよ。これまで、厄介な事だと思ってはいても、そこで思考が終わっていた。なのに、今日、突然霧が晴れたように頭がスッキリして、自分の異変に気付けたのよ」

「……当主代理、もしや、何者かから精神攻撃を受けているとお考えで?」


 いつの間にか、母親で息子はなく、当主代理との仕事の顔になって話していた。


「ええ。そして、急に思考が晴れたのは、場所が神殿だから、では無いと思う。根拠は無いわ。ただ、【直感】のみで出た結論よ?」

「……当主代理、もしや」


 ライフェルトはこの話の始まりの話題を思い出す。

 まさか、と言う顔をするライフェルトに、オリヴィエは一つ頷いて言った。


「シエル君。あの子が居る場だったから、私達は正気に戻れたのだわ。……実はね、私にはシエル君が恐ろしく強大な“何か”に見えるの。まるでドラゴンと相対してるような気分だったわ」


 もちろん、実物なんて知らないけどね。

 そう言うオリヴィエに、ライフェルトは考え込む。

 オリヴィエの【直感】については、ライフェルトも良く知っている。


 先代までのシラー家は、地方のしがない貧乏領地だった。立地は良くも悪くもなく、痩せてはいないが豊かでもない土地。特産になる物も無く、うだつの上がらない、と言うのが似合う領だった。


 けれど今は、繊維産業の一大産地であり、この地方の経済の中心地である。

 そうさせたのが他ならぬオリヴィエだ。オリヴィエは【直感】と【商才】の祝福(ギフト)を持ち、それ故にシラー子爵(当時はシラー子爵子息)に乞われ、嫁入りした。


 嫁入り当初はオリヴィエの容姿に残念な目を向けられたそうだが、土地に合う産業植物を見出し、着々と領地を豊かにしていったオリヴィエを領民一堂崇拝している。

 シラー子爵は、親類が集まる席では必ず「オリヴィエ様を捕まえたのが、お前の人生最大の功績だ」と言われる程だ。最低十回は言われる。


 それら功績は、【商才】もあるが何より【直感】の力が大きいとライフェルトは思う。

 何せ、天候不順や事故、予測不能な災害などが起きても、事前に備えがあったり異様な程的確な指示で被害を最小限に抑えるのだ。

 それこそ予知能力かと思うようなレベルで。けれど本人は「何も知らないし、分からない。ただなんとなくそうした方が良い気がしただけ」と言う。


 それが【直感】の効果。

 何の情報も無い所から、唐突に正解だけを引き摺り出す祝福(ギフト)

 その威力を幼少期から目の当たりにして来たライフェルトに、オリヴィエの言葉を疑うなんて選択肢は存在しない。

 けれど。


 ――シエルが、ドラゴン? 小さくて可愛いシエルが? 顔立ちは理知的なのに、中身はやんちゃ可愛いシエルが?


 疑いはしないが、直ぐには飲み込めずにいるライフェルトに、オリヴィエは笑みを向ける。シエルの言う所の、黒幕のような笑みを。


「と言う訳で、シエル君について詳しく話しなさい、ライフェルト」

・ドラゴン

 この世界におけるドラゴンは、半精霊体の生物と霊体の中間存在で、自然現象を具象化したような存在でもある。

 肉体的にも強靭で魔力も無尽蔵。事実上の最強生物であり、人間の前に滅多に姿を現さないが、その規格外さから一部では神と同一視されているほど。


 尚、シエルはフィジカルこそポンコツだが、ドラゴンも余裕で倒せる。

 創世神謹製魔法チートは伊達じゃない。

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