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24  反省会

「本当に行くの? 大丈夫?」

「大丈夫! もう落ち着いたから。まだ採取依頼残ってるんだし、早く行こう!!」


 あれからエリクが落ち着くのを待ち、森を出たついでに少し早い昼休憩をとって。

 さて午後はどうするか、となった時、エリクもライフェルトも探索続行を望んだ。


 えっ? あんな状態になったのに? エリクは分かるけどライフェルトまで?

 疑問に思ってたら、ライフェルトは隙を見て教えてくれた。


「失敗をそのままにして時間を置く方が不味いと思ったんだ。失敗したけどちゃんと取り戻せた、って思えれば、また頑張ろうって思えるでしょう?」

「納得」


 と言う訳で再び瘴魔の森へ。

 途中だった清指透輝草の採取を終えて次へ。安寧煉果と言う木の実を取りに行く。精神安定効果があり、そこそこ高い木の上に実る。


 シエル一人では手が届かず、かといって梯子を持ち込むのも面倒なのでこれまで採取してこなかった霊草(果実だけど、穢れ関連に効果のある植物は総じて霊草と呼ぶ)だけど、今回はライフェルトに肩車をしてもらい、採取した。

 その際、


「そうだ。エリク、神内の子じゃない僕達でも、霊草の効果を受けられる方法を教えておくよ」

「そんな方法が」


 見てて、と言うとライフェルトは安寧煉果の付いた枝を手元に引き寄せ、その実を枝に付いたまま噛り付いた。


「へ?」

「霊草は、僕達が摘んだ瞬間に効果を失ってしまう。けれど()()()()()そのまま食べればその効果を受けられるんだよ」

「なるほど!」

「そんな手が!」


 穢れで害を受けないシエルでは思い付かない方法だ。

 穢れ溜まり探索中、直ぐにでも霊草を使わなければならない事態に陥ったら、こうしてその場を凌ぐのだそう。へぇ~。


「さ、エリクもやってごらん」

「はい! ……まっず!!」


 尚、安寧煉果はエグみがキッツい。

 エリクは酷い顔になったが、実の効果かその後はスッキリした顔になった。

 おお、なんて自然な流れでエリクに精神安定効果のあるものを摂取させるんだ。

 ライフェルト様流石です。さすフェル。


 依頼はこれで完了。

 余った時間は、森の端で軽い打ち合いをして過ごした。

 シエルも混ざった。エリクは安定したとはいえ、普段より明らかに動きが鈍かったが、シエルは惨敗した。

 むしろいつもより攻撃が鋭かった。普段はめちゃくちゃ手加減してて、森の中ではその加減が上手く出来なかった結果らしい。

 ……うん、知ってた。謝らなくていいんだよ……。


 そして余裕を持って冒険者ギルドに帰還。無事に依頼完了しました。

 そして。


「じゃあ反省会しようか」

「「はーい」」


 大事ですね。と頷いて連れてかれたのは近くの高級なレストラン。なんでや。


「僕の奢りだよ。好きに頼んで」

「そう言われても……」

「ねぇ、サラダ一つで大衆食堂の定食より高いんだけど。ここ貴族用? なんでここなの?」

「この辺りで、個室があってゆっくり話せる店がここくらいだったんだよ」

「……庶民向けの店でも個室付きあるよ」

「そうなの?」


 今度連れて行く事になった。

 それはそれとして、半分はエリクの訓練の一貫だそう。

 神殿騎士は公式な場で護衛する事もあり、お偉いさんと会食する機会があったりする。なので少しずつ慣らして行こうというライフェルトの気遣いだ。


 ……と言うか、本来なら優れた祝福によって学園に入った平民には、指導役の生徒が付いてその辺を教えてくれる筈なのだとか。

 エリクの場合は、ジャイン男爵かその寄親になる貴族が誰かしら手配してる筈なのだが、そうした生徒が見当たらず、ライフェルトが手を出す事にしたと。

 面倒見良いねぇ、フェルさん。


 隣のエリクが『有り難い。けどごはんは気楽に食べたかった』という顔をしている。

 頑張れ。


 シエルはいい機会だからこの世界のマナー覚えるかー、と気楽に挑戦した。

 それに釣られたのか、最初はガチガチだったエリクも、後半は普通に食事を楽しめたと思う。


 食後、ライフェルトが優雅に紅茶に口を付けてから言う。


「さて、お腹も膨れた所で反省会を始めようか」

「あ、そうだった」

「シエル……」


 急な高級店にうっかり忘れる所だった。

 あ、料理は美味しかったよ。


「二人は、自分で思う所はある?」


 ライフェルトの問いに、シエルとエリクは目で順番を探る。

 なんとなくシエルからになった。


「俺は、やっぱり穢れの中で精神状態悪化させる真似をしちゃった事。って言うか、俺、穢れの脅威をイマイチ分かってなかった」

「そうだね。シエルは本で得られる知識は豊富だけど、そういう人との関わりの中で得られる経験に乏しい所があるね」


 グサッ。


「い、今まではそれで問題無かったもので……」

「うん、そればかりは一人の努力では出来ない事だもんね。これから三人で瘴魔の森に入るんだから、僕達が教えるよ」

「うん! シエル、なんでも聞いてね!」


 エリクが張り切っている。

 普段教えられる側の自分が教える側に回るからか、森での事を引き摺っていて「役に立つ」事に拘ってるのか。要注意。


「エリクはどう?」

「おれは……う〜ん、穢れ溜まりに入る事自体初めてなので、何が良くて何が悪かったのかもさっぱりです……」

「『分かっていない』自分を自覚する、というのも大事な事だよ。そうだね、エリクは……」


 ライフェルトは細かい注意点や、次に向けての課題を出した。この辺はシエルにはさっぱりだった。

 最後にライフェルトは自分の至らなかった所を出し、二人にも気になった点はないか聞いてくる。

 いや、立派なリーダーでしたよ。森初心者とパーティー行動初心者の面倒を良く見てくれましたよ。

 ……リーダーと言うより保護者かな?


「――こんな所かな。それで、シエル。反省からは離れるんだけど、聞いてもいいかな?」

「ん? 何?」

「森の中で言ってた、神罰を受ける親の話」

「……ああ」

「どうして、あそこであんな話を始めたの?」


 ライフェルトの言葉に、エリクも気遣わし気な顔でシエルを見た。

 う~む、フェルさんも気になっちゃうか……。あれは本当に失敗だったな。


「どうしても気分の良い話にはならないよ?」

「分かってる。それにこういう気掛かりは、早めに解消したいんだ。エリクも引っ掛かってるでしょう?」

「……はい」


 エリクも頷いて、複雑そうな顔でシエルを見ている。仕方ない。

 ――しかし、どう話したものか。

 シエルは紅茶を一口飲んで、切り出す。


「……子供に危害を加えてはいけない、虐待してはいけない。破れば神罰が降る。そう知れ渡ってるのに、虐待して神殿に運ばれる親子は常に一定数居る。なんでだろう、って思った。観察していて気がが付いたのはね、親は自分の言動が虐待に当たるって自覚が無いんだよ」

「……そんな事あるの?」


 ……エリクは、本当に親御さん恵まれたようだ。


「例えば、森でモノマネしてみせた母親。あの人はね、あれで『普通に話し合いしてる』つもりだったみたい」

「え」

「どう見ても脅迫だよね? あ、ちなみに相手の子供は六歳の女の子だったよ」

「「…………」」

「同席してた神官さんも、やっぱり『これじゃ脅迫だ』って思ったようで、言い方を変えようとか、もっと笑ってとか色々言ってたんだけど、母親は意味が分からないみたいだった。『そんな事より、なぜ自分が神罰を受けたのかちゃんと説明して』って詰めよってた」


 結局、神官も最後には匙を投げ、その母親から親権を取り上げた。何が問題か、教えても分からないのでは、更生のさせようもなかったのだろう。

 ちなみに、子供は父方の親類に引き取られたそうだ。それ以上の情報は無い。


「あの母親は強烈だったけど、子供の意識を尊重してるつもりで、親の要求を強制してたってパターンは多いよ。『なんで言ってくれなかったの』『もっとハッキリ言ってくれ』なんてしょっちゅう聞くよ。――言わせなかったクセにね」

「「…………」」


 エリクもライフェルトも、沈痛な面持ちで話を聞いている。普通はこんな家庭のデリケートな話、知る機会無いもんね。

 シエルも孤児院育ちでなければ、知らないまま一生を終えていたかも知れない。


「あとは、単純に親になるのが早かった人?」

「どういう意味?」

「えーとね……。例えば、子供が熱を出して苦しんでる時に、友達に遊びに誘われて出掛けちゃう、とか」

「は?」

「なっ……」


 ライフェルトは怒りを宿した低い声を出した。エリクは絶句する。


「あと、小さい子供が居るのに、友達連れ込んで朝までどんちゃん騒ぎするとか。寝れる訳ないよね。子供の健康を阻害する行いだ。だけど、さっき出した人もだけど、こう言うんだよ『友達を大事にしてなぜダメなんだ』。あとは『子供か出来たからって自分を犠牲にするのはおかしい』なんてパターンも」

「……つまり、親になる意味を理解しないまま親になってしまった人、か」

「あ、それそれ、そんな感じ」


 あとは、子供には手を上げていないだけで、子供の前で暴力振るったり怒鳴り散らしたり――親が暴力を振るう様を見せられて悪影響が無い訳がない――……などとこれまで見てきた親子の例を幾つか上げる。

 一通り語って、シエルは紅茶に手を伸ばした。

 長く喋って喉が疲れた。はちみつを追加して一口。うむ、美味い。


 ……あれ、なんで自分、こんな話したんだっけ?

 ……ああ、そうだ。


「あのさ、エリク。孤児院には、そういう思いをして来た子が来るんだ。そして、神殿騎士になったら、仕事で子供達と関わる機会もある」


 シエルのように、神殿騎士に突進していく子も居るし。


「だから、孤児院の子と関わる機会があった時、『なんでちゃんと言わないの?』なんて言わないよう気を付けて欲しい」

「っ、あ……」


 その言葉に、サァッと青くなるエリク。

 うん、そうなる気はした。でも、後先考えると、これはちゃんと言っておくべきだ。

 何せ敷地が広く遭遇する可能性が低いとはいえ、同じ神殿に住んでるのだ。何の拍子に顔を合わせるか分からない。


 その時、何ら悪意の無い言葉で双方が傷付くような事にはなって欲しくない。


 もっとも、少し話しただけで大人に恵まれて来たと分かるエリクは、孤児院に来ざるをえなかった子供達には存在自体が毒になりかねない。

 接触させない方が無難だろう。

 ……学園でエリクを虐めてる子達も、親に恵まれなかった子が一定数居るんだろうな。


「いや、あのね、エリクに悪気無いのは分かってるよ。単純に疑問だっただけだよね」

「そうだね。普通だったら言っても何の問題も無い言葉だよ」


 ライフェルトと二人、なんとフォローしようとしたが、その日はエリクの顔から強張りが取れることは無かった。


 こればっかりはなぁ、難しいなぁ……。

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