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1 最早、異世界転生してない魂の方が少ないのではあるまいか

 前略、異世界転生しました。


 トラック転生ではない。病死だ。

 子供の頃から持病があって、それが悪化して死んだ。四十代だった。

 そんな私の前に現れた、"何か"。


『ナッツ・ココさん、直接会うのは初めてですね! 私、『✡世界創造の意思✡』です!』


 ナッツ・ココとは私のペンネームだ。

 私は漫画、アニメ、ゲームの類いが大好きだ。いわゆるヲタクという人種。ほぼ消費型だが、創作界隈への憧れから作品を書いたりもした。ネット上の小説投稿サイトに載せているだけのアマチュアだが。とにかく、私は小説を書いていたのだ。

 そして『✡世界創造の意思✡』は、私の小説に熱心に感想を送ってくれた……自分で言うのは恥ずかしいが、私のファンだ。


 唐突に現れた、私のファンを名乗る"何か"。

 彼(?)は、この地球と交流のある世界の創世神で、以前から地球(と言うか日本)のヲタク文化に傾倒していたそうな。

 ヲタクな創世神て何。地球の神に勧められた? え、何してんの地球の神。他所様の神をヲタク沼沈めるとか、バチ当たるんじゃ……勧めた方も神か。


 まぁ、そんな訳でその文化の一つ、web小説も嗜んでおり、見つけた私の小説を大層気に入ったのだとか。


 死んだ感傷に浸る暇も無くこの超展開。

 ついて行けません。


 放心する私に何を思ったのか、『✡世界創造の意思✡』は一緒にアニメ観賞会やったりネットゲームしたりコミケ行ったりして遊んだ。


 ゲームはなぜか登録出来て魂だけの状態なのに普通に遊べた。

 コミケは流石に幽霊状態。状態と言うかマジモンの幽霊だ。人混みに酔ったり順番待ちとかしないで満喫させていただきました。

 ただ、なんでか他にも神々なのか、人間には見えていないらしい参加者(?)が結構居てカオスだった。

 この地球の細かい神々(妖怪か?)も居れば『✡世界創造の意思✡』と同じ世界から来た神、全く別の世界の神とか、なんかあちこちから来日してるそうな。


 待ってコミケってそんなグローバル(?)なの? なんでそんな幅広く認知されてるの? 地球の神に布教活動してるのが居る? そういや『✡世界創造の意思✡』も勧められたって……。

 ……神が神に布教活動?

 ……考えるの止めよ。


 お代は金銭ではなく、運気を良くしたり、悪縁を遠ざけたりといったご利益だそう。


 ほうほう、それは良――待ってそこ、その作家さんから何を取り上げようとしてるの。

 恋愛運? やめてあげて。恋愛に現抜かして創作意欲が落ちたら嫌? いやそこは個人の自由だから。……変わりに仕事運アップ? う、う〜ん。

 取り敢えず変な操作は止めてあげて。


 ……コミケに参加してる作家の皆様、どうかお気を付けください。(どう気を付けろと)




 とかなんとかやってる内に、私も落ち着いていつの間にか現状を受け入れていた。

 そして『✡世界創造の意思✡』から「うちの世界に来ないか」と招待され、応じたのだ。


 いやさ、これってアレじゃん? 異世界転生ってヤツじゃん? 乗るでしょ?

 異世界転生モノだと文化の差から生活辛かったり、今より過酷な状況に置かれたりと落とし穴もある。

 しかし、今回は創造神たる『✡世界創造の意思✡』が味方として付いている。

 人間と神の価値観の差に注意する必要はあるが、チートものんびりスローライフも選べて「話が違う!」なんて展開も心配要らない。

 乗るしかないでしょう! むしろ拒否するなんて選択肢は無いのだ、ヲタクとして!


 私は喜々として新しい自分のキャラメイクに思いを馳せた。

 そして。


『転生の際は何卒こちらの設定で』

「お前それが目当てか」


 見せられたキャラクターは、青灰色の髪に緑色の目の十代前半の男の子。美しくもなく醜くもなく。凡庸な顔立ちながら、利発そうで、同時にどこかいたずらな雰囲気の小柄で細身の少年。

 それはナッツ・ココが書いた小説の主人公、『シエル』そのものだった。


 いやまあ、『シエル』として産まれる事自体は良い。構わない。『シエル』はこう在りたいと言う理想を詰め込んだキャラ。拒否する理由は無かった。

 しかし、理想とはつまり、私自身はそう在れなかったと言う事。

 外見や能力だけ沿わせても、中身が私では『シエル』とは別物になるだろう。

 それならば、神の能力で性格から何から作った方が『シエル』を再現出来る筈だ。

 そう告げると『✡世界創造の意志✡』は「中身が作者様って所がポイントなんですよ!」と主張した。


 ※以下の長台詞は読み飛ばして構いません。

『いえ、それではシエルきゅんを模した私の世界の住人になってしまいます。確かに私は繰り返し小説を読み込みシエルきゅんに詳しいと自負しております。しかし産みの親たるナッツ・ココ様には到底及びません。小説に書かれなかったシエルきゅんの姿も有ろうと愚考します。ええ分かっています、シエルきゅんはあくまで架空のキャラクター、実在はしないのだと。ですがだからこそ! これから産まれる『シエル』きゅんに正解は無いと思うのです! 何も『シエル』きゅんらしく振る舞えとは言いません、シエルきゅんはシエルきゅん、ナッツさんはナッツさんですから。しかしやはりシエルきゅんの核とナッツさんの核は共通してると思うのです。その内側から自然に溢れるものにこそ真実はある……シエルきゅんそのままではなくともそこにはシエルきゅんの魂があると(以下略)』


 なんか熱く語られた。


 うん、まあ、『シエル』と別物で良いなら構わない。

 『シエル』はゲーム風に言えはINT特化の純魔ビルド。運動神経は並み以下だが、魔法が潤沢に使えるならそれくらいは――あ。


「この世界って魔法ある?」

『あるよ。普通に人族に普及してる。冒険者ギルドもあるよ』

「っしゃあっ」


 私はガッツポーズを取った。

 流石ヲタク仲間。ヲタクの願望を良く理解している。


 そんなこんなで、私は自分作った小説の主人公の姿で異世界に転生する事になったのだ。

 ちょっと寄り道したり変な所で躓いたりしながら準備を進めて、いざ現世へ。






 『シエル』は孤児設定だ。

 だから『私』も孤児からのスタートとなった。不満は無い。親は居れば良いというものではないし、この世界の児童福祉は手厚いようなので。


 なので、何も無い所から赤ん坊が突然出現する形になった。


 早朝特有の澄んだ静寂の中、とある孤児院の前に唐突に籠が出現する。目撃者は居ない。

 間もなく清掃の為に職員の一人が出て来て、門の前に置かれた籠を発見する。


 籠の中身は産まれたての赤ん坊。すよすよと眠る赤子に、職員は籠を抱えて建物の中にトンボ返りする。


 ――こうしてシエル()の人生は始まった。

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