閑話~探索配信者とろたん~
説明回
⚠️勘違い発生
「はい、どもー!皆様にドキドキなワクワクをお送りする探索配信者、『とろたん』でーす!」
探索系配信者とろたん。
1元々は声優を目指していた女の子。しかし、家が貧乏な為に声優育成学校の学費が必要であった。高校入学当初からバイトを掛け持ちし、妹が将来大学に行かせる為の学費も稼いでいた。
父親は家庭を捨て他の女に。そして母親は二人の娘を育てる為に仕事を頑張っていた。しかし、無理が祟り身体を壊すこともあり、それを見ていた彼女は母を少しでも楽をさせたいと考えた。そして異能として開花していたこともあり、ダンジョン探索者になったのだ。
ダンジョン探索で得られた鉱物や薬草に宝石、更にはモンスターの素材はモノにより買い取りがまちまち。それが毎日得られるという保証もない。【探索者ギルド】の依頼も、報酬が高いものは大体ベテラン探索者と契約しており、その他は依頼主やその会社が報酬額をケチっていることも多い。
そこで彼女は考えた。
ダンジョンとは誰でも潜れる・登る訳ではない。ならば、普段見れない景色を配信してお届けしようと考えたのだ。
探索者ギルドの許可を得て、新人探索者の授業でも使用される程に彼女の動画は人気になる。動画の収益だけではなく、探索者ギルドとの契約を結んだり、探索者向けの商品企画や提案など多くの仕事をしている現状だ。
見た目は大学生くらいだが、既に20歳は過ぎており妹も無事に大学に入学。母親は探索者ギルドで出会った男性と再婚して、新たに弟妹が誕生しており、もう小学生になる。可愛い可愛い小さな弟妹達。母親からは、もう自分達のことは良いから貴女自身の為に生きなさいと言われたりするのだが、生憎今更の話だ。勿論、母親は娘の幸せを願っているのは理解している。大学生の妹も心配の電話などがあり、最近はちょっとウザったい。
そして今回、京都のある市外に存在する「京多鍋」に存在する大型ダンジョンの探索だ。
ダンジョンとは、"モンスターの巣"である。
ダンジョンにも種類があり"承認ダンジョン"と"非承認ダンジョン"が分けられる。
"承認ダンジョン"とは、国家又は都道府県がダンジョンというモンスターの巣の主、通称"コア"と意志疎通をし、協力関係となった公認ダンジョンのこと。
"非承認ダンジョン"とは、承認ダンジョンとは逆に国や都道府県の承認も無い、又は未登録や未発見のダンジョンの事を指す。
ダンジョンの主"コア"と協力関係とは何ぞや?と疑問に思う者も多いのだが、ダンジョンの主は己の巣に他のモンスターが勝手に住み着く事が多い。大型のダンジョンになれば尚更だ。しかも好き勝手するから余計に達が悪い。コアの殆どは知性は高く、ドラゴンだったりアンデットだったりなど様々だ。彼等は自分達の巣に勝手に巣喰うモンスターの退治をしてくれるのであればダンジョンの侵入とダンジョンにある鉱物や薬草の採取。更には巣喰っていたモンスターの亡骸の取り扱いも探索者・ギルドに許可し、任せている。
ダンジョンでの死亡例はあるのだが、それはコアの管轄外の話。巣喰っていた害モンスターやダンジョンの地形によるもの。ダンジョンを複雑化させているのは巣喰らう害モンスター、中には探索者自身である。
複雑化しているダンジョンに"コア"自身も気付かないこともある。中には強力なモンスターや非常に危険なモンスター、厄介なモンスターだ。
ここまで長々と説明したが、要約するとダンジョンの主コアは探索者ギルドと共生関係である、ということ。そして探索者ギルドは地上ではまず手に入らない鉱物や薬草に液体、モンスターの素材を探索者ギルドという大きな市場の競りに出したり、加工又は販売する事で世界のエネルギー問題に大きな変化をもたらす。
ダンジョンそのものがエネルギー資源となったのだ。
今まで他国に依存していた国もダンジョンを保護し、そこで得られるエネルギー源を得ることが出来た。殆どの世界各国が、自国でエネルギーを賄える様になったのである。
しかし、良いことだらけではない。
まるで夢物語の背景には、その夢から思わず覚めてしまう程の悪いことも起こっていたのだ。
まず第一に、世界中の都市の崩壊だ。
日本であれば、首都の東京や大都市の大阪がダンジョンの出現と同時に、陥没したのだ。後にこれはダンジョンの出現と直接的な関係は無いと研究結果で発表されている。さて、原因は何か。
それは、地盤陥没である。
しかも巨大なもの。
その地盤陥没が起こってしまった真の原因はダンジョンではなく、人工によるものだ。地下にある給排水管が老朽化し、空洞化してしまいそれを対処しなかったが故。この様な理由などで各国の大都市は陥没してしまった。
日本の都道府県も47あったが、その内の幾つかは地盤陥没によって東京や大阪以外にも日本地図から消えてしまった場所もある。今では日本の首都は"京都"となり、大都市は"北海道"というのが現在の状態。
既に十数年は経つものの、その被害にあった国民達はダンジョンの壊滅や政府に責任追及を未だに続けている。しかし、ダンジョンを壊滅させてしまえば、今の生活基盤やエネルギー問題が発生してしまうが故にその様な案を受け入れる訳がない。仮にダンジョン破滅をしようとするならば、逆に反撃されて滅びる可能性が高いのは国そのもの。
現にダンジョン出現時に、そのダンジョンの存在を危険視した国が壊滅に乗り出したが、逆にダンジョンのコアの眷属達によって国を半壊させてしまった事例もある。その後、ダンジョン壊滅を指示した当事の国の代表やそれに指示し協力した政治家や軍の上層部は批判を受けた。そして、暗殺されたのである。勿論暗殺した相手は不明。
ある者はダンジョンのコア、その眷属か。又はコアとの関係者か。ダンジョンの有益だと理解したマフィアなどによる組織の犯行ではないかとも言われている。
更には、先進国らは自らの最終兵器までも奪われてしまった。
各国がその最終兵器が奪われた事を隠しているものの、既に一般人達にも噂で広まっている。しかもそれはその最終兵器を保有するその国の民達にとっては衝撃的だ。
何せ、"核兵器全て"を奪われてしまったのだから。
「ま、私はコアの方に直接会ったことは無いですケド。コアと直接取引してるのは政府じゃなくて、ギルドの方々ですし」
―――――――実質、政府よりもギルドの方が権力が高い件について
―――――――けどギルドの従業員ってバカ強いよなぁ
―――――――頭おかしい奴も多いし
―――――――世紀末なやつらしかいない件について
―――――――けど、大人気の職業なんだよな
「ギルドの人は強いよー。一度手合わせしたけど、何も出来なかったし」
―――――――ふぁ!?
―――――――とろたん結構強かったよね!?
―――――――何も出来なかったって
―――――――やば
―――――――とろたんって確か探索者階級、上から三番目だよね?
「あーうん。まず【探索者階級】は上から《デューク》・《マーキス》・《アール》・《バイカウント》・《バロン》の五つに分かれてるの。まあヨーロッパの貴族の称号だね。探索者成り立ての子の新人や見習いの意味を込めて皆は《ナイト》って読んでるかな。因みに《デューク》よりも更に上、日本には四人しかいない《グランドデューク》って人がいるんだね。ホントにいるかわからないけど……あ、あとコメントにもあったけど、私は《アール》だよー」
―――――――一騎当千レベルじゃん!
―――――――ナイトってだけでもチヤホヤされるのに
―――――――ナイトでも心折れて辞める奴って多いよ
―――――――バロンになるだけでも大変だから
―――――――階級上げるにはどうしたら?
「階級の上げ方、ね。一般的には成果を出すことだよ。ギルドや企業の依頼とか。要するに貢献度だけなら、《バロン》になれる。けど、そこから上は実力と経験、そして知識がものをいう世界。《マーキス》とかのレベルになれば超一流、《デューク》になれば人外、バケモノ。多分は、その気になれば国滅ぼせるんじゃない?」
―――――――企業のイメージキャラクターでマーキスの人いるけど
―――――――デュークの人って公表とかされてないよな
―――――――探索者で名前を公表しているのは、大手企業のだぞ
―――――――まあ個人情報だし
―――――――けど、《バロン》とかなれば普通なら偉そうというか傲慢になると思ってたけどそんな探索者が少ないのに驚き
―――――――海外はどうなんだろうな
「ああ、それ?理由は簡単。調子乗ってたら先輩探索者にボコられるから。最悪ギルドの守護者に半殺しにされるぜ?」
―――――――うわぁ
―――――――わ、わぁ
―――――――まあ調子に乗らなければいい話
―――――――ギルドはホワイト。けどバカすればブラックに
―――――――そう言えば今回は何してんの?
「ん?今日はねー!ダンジョンの探索さー!ダンジョンの地形は外来モンスターの侵入とかで新しく通路が出来るからね。稀に外来モンスターは"結晶"を体内にある場合もあるし……偵察も兼ねてだよ」
とろたんは依頼などではなく、個人で探索していた。コメント欄は彼女の腕につけられていた小型モニターで腕時計を視る様にして確認している。しかし、彼女は《アール》。例え闇の中であろうと彼女の眼は昼間の地上と変わり無い。
「っ!?」
だが、彼女は瞬時に察知した。
「ぁ、ゃば。マジか」
―――――――とろたん?
―――――――どったの
―――――――ヤバいかんじ?
コメントは流れるが、今のこの状況にとろたんは視ることもコメントを返すことも出来ない。
彼女には聴こえていた。そして、遠くから視える外来モンスターの存在を。
「……」
彼女はこれ以上物音を出さぬ様に、忍者のごとくアクロバティックな動きで後退する。そして開けた場所まで駆けるのだ。そして、身を隠せる岩陰を見つけ、そこへ身を隠す。
彼女は腕のモニターの光を消し、息を殺して警戒していた。只でさえ彼女は登録者数700万人の有名配信者だ。しかも探索者としてかなりの実力者。そんな彼女が息を潜め、配信にも関わらず一切話さない状況に視聴者は只ならぬ状況だと理解する者達が心配の声を上げるのだ。
そして―――――――。
「!」
現れたのは、巨大な骸骨だ。しかもドラゴンの頭部に胴体は蠍の様な歪で恐ろしい姿。特にムカデや黒い影など虫が苦手な人であれば一溜りもない。しかも巨大な空間であるこの場所が半分埋まってしまう程の巨体。
イレギュラーな外来モンスター。
しかも己の実力では対処できないと瞬時に理解した。
ここまま隠れてやり過ごし、この件をギルドに報告しようと考えた刹那。
「は?」
凄まじい金属音、抜刀音が響き渡ったかと思った刹那、外来モンスターの身体が真っ二つに切り飛ばされたのである。
ドシンっ!と絶命し、左右に分かれてしまう。
「は……はぁ!?」
驚くのも無理はない。
とろたんは、あの外来モンスターが自分と同じ《アール》やその上の《マーキス》の探索者が複数人居たとしても対処は難しいと踏んでいたのだ。万が一、ダンジョン外に出てしまえば被害がどれ程になるのかと、冷や汗を流していた程。
その脅威が、たった一閃で斬られた。
「……」
「!」
誰が―――――とその斬擊を放った主が何者なのか確認した時、彼女は思わず息を飲んだ。
その斬擊の主は異様な雰囲気を放っていた。
漆黒の鎧を纏った人。その鎧の繋ぎ目や隙間からゆらゆらと火の様なものが揺れている。禍々しく感じはするものの、その鎧の人が立った位置から外来モンスターに向けて斬擊の跡が一閃残っている。間違いなくその者が仕留めたのだろう。
「ま、さか……《デューク》?」
人外染みた芸当が出来るのは、探索者階級の最上位の存在。しかし、それはあくまで実在するとは思っていなかった。実際に彼女はこれまで《デューク》の探索者と会ったことも話したこともない。実力もだ。
しかし、この結果を―――――芸当が出来るのは《デューク》しかいない。
とろたんは意を決してその鎧の人に近づいていくのであった。
そして彼女は気づかなかった。
配信の切り忘れをしていたこと、鎧の者の後ろに素顔を布で隠した少女が終始ビクビクしていたことを。
Q.黒い影とは?
A.Gだよ♥️
次回、誤解発生