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生と死の天使の箱庭の旅路  作者: 神無月てん
時の国
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クレディア防衛線 前編

「クレディアは元々この辺りにいくつか作られた開拓村の一つですね。百年ほど前にクレディア周辺で大規模な調査が行われ、その結果、付近の山中に良質な大理石が発見されたんです。その採石するためにクレディアをはじめとした開拓村が作られたのです。

 ですが、周辺には危険な魔物や妖魔の住む白結の森がありまして、スタンピートや強大な魔物によってクレディア以外は壊滅してしまいました。今も規模は縮小されましたが、クレディアは採石場から周辺の町に運ぶための中継地点として利用され、数は減ってしまいましたが石工職人によって作られた工芸品が特産品として、販売されています。」


 シロとクロはゴードンの馬車の御者台にゴードンと一緒に乗っていた。その三人の目の前で馬車を引く馬は、クロが召喚した骸骨馬(スケルトンホース)だった。最初のうちはゴードンも戸惑っていたのだが、すぐに慣れていた。

 この馬車を護衛していた冒険者三人は、体力を回復させるために馬車の中で休んでいた。

 そんな彼から二人はクレディアについて、聞いていた。


「ボクたちクレディアにあるお花畑を見に行くのだけど、わかる?」

「花畑ですか、それでしたら東門の先の採石場に続く道沿いにありますね。今の次期だときれいに咲き誇っていると思いますよ。」

「お花畑でなにがしたい?クロ。」

「冠は…どう?」

「いいね!それ、楽しそう。」


 三人はその後も馬車に揺られながら、和やかに会話を続けたのだった。




「ねぇシロ、あれ見て!」


 クロが珍しく声を上げて、指を指す。シロとゴードンはその指の先を見た。

 小高い丘の奥から黒煙が上がっていた。それも一本ではなく何本も。


「クロさん、馬のスピード上げることってできますか?」

「わかった。」

「ニールさんたち、馬車を飛ばしますので、注意してください。」


 クロは馬車の車軸が折れないギリギリの速さで、馬を走らせた。



「これは…、どうなっていやがる?」


 眼前に見えるクレディアの村。元が開拓村であり、危険な森が近くにあるため、石造りの大きな城壁が村を囲っていた。

 その村を三百体以上のゴブリンが取り囲んでいた。

 黒煙は村の奥側、東門周辺で上がっているようだった。


「ちょっと待って、(クラス)持ちだけでなく、上位職(ハイクラス)までいるんだけど。」

「村人たちは大丈夫なのか?」

「まだ…、城門は破られていない…。だけど…、負傷者多そう…。」


 遠視の魔法で城壁周辺を確認していたキャディと、骸骨烏(スケルトンレイブン)を召喚し、憑依してより細かく情報を取っていたクロが報告する。


「助けないと!」

「シロさんの気持ちはわかるが、そもそもどうやって村へ入る?」


 逸る気持ちを抑えきれないシロに、デリーが冷静に訊ねる。


「強行突破しかないな。」

「私も…、そう思う…。それも…時間…かけないで。」


 ニールとクロは結論を出す。


「強行突破ですと。いかがなさるつもりですか?」


 ゴードンは怯えた声で作戦を促す。


「クロ、スケルトンだけどどのくらい召喚できるんだ?」

「竜牙兵…五十くらい。素材があれば…、もう少し出せる…。」


 クロの言葉に冒険者三人は少し顔を引きつる。


「…そうか。なら竜牙兵を最大数用意してほしい。」

「わかった…。準備してくる…。」


 クロはそう言って一人馬車のそばを離れる。


「えっと…。何をするか教えてほしいのだけど。」


 キャディが手を挙げて、改めて訊ねる。


「まず、クロさんの竜牙兵を東門に突撃させて、馬車が安全に通れるくらいのエリアを作り出す。次に馬車でこじ開けたスペースに突撃。そして門が開くまで城門周辺にゴブリンを近づけないようにして、城門が閉まるまでゴブリンが入ってこないように防衛する。」

「本気で…。」

「なら、ボクの結界魔法使えない?」


 ゴードンの悲鳴はシロの言葉にかき消される。


「なに⁉そんな魔法まで使えるのか?」

「ボクの得意魔法の一つだよ。」

「そうか。…もしかして、馬車で移動していても使えるのか?」

「うん。いけるよ。」


 シロの自信たっぷりに答えるのを見て、ニールはより作戦の成功を確信していた。


「準備…できたよ。」


 クロも召喚を終え、みんなのもとに戻ってきた。

 その奥には竜牙兵の隊列が見事に出来上がっていた。


「分かった。全員馬車に乗ってくれ。…突撃!」


 その号令と共に、クロは竜牙兵を西門に屯っているゴブリンたちに向けて突撃させた。



 竜牙兵の軍勢は、手薄なゴブリン軍を容易くこじ開けた。シロの障壁を纏った馬車は、勢いよく竜牙兵が抉じ開けたスペースに突貫する。すぐに門の前にたどり着くことができた。そこまでは順調だった。


「誰か、門を開けてくれ。」


 ニールの声は虚しく消えていく。

 中で立て籠もっている村人達にとって、急に現れたスケルトンはゴブリンに代わる危険な存在。易々と開けることはまずありえない状況であり、そこに突撃してきた馬車を気に掛ける余裕はなかった。


「誰か、開けてくれ。頼む。」

「名を名乗れ。」


 何度も叫んでいると、ようやく低い声で返事があった。


「俺はニールだ。東の石工職人の息子のニールだ。仲間のキャディとニールもいる。」

「おぉ、ニールか。馬車は何を積んでいる。」

「セグリエル商会の若頭が積んできた商品だ。それと旅人が二人、同行している。」

「このスケルトンはその旅人のものか?」

「ああ、完全な制御下にある。」

「そうか。中に入れてやる。ただし、スケルトンは中に入れることは出来ない。」

「ああ、わかっている。」

「門を開けろ。」


 開門を指示する声が門の奥から聞こえ、ガタガタと音を立てながら門が開いていく。ゴブリンが徐々に殺到しだす。


「門が開いたぞ。早く中に入れ。」


 ニールの言葉で、まず馬車に乗ったゴードンが我先にと中に入る。少しずつ前線を後退ながら、キャディ、シロが順々に中に飛び込んでいく。


「門を閉めるぞ。」


 中から声を掛けられると同時に、ゆっくりと門が音を立てる。クロがふと城門の上を見ると、キャディとシロが援護してくれていた。


「閉じるぞ。」


 ゴブリンたちが抜けてこないように様子を伺っていた三人は、急いで門の内側に入る。ガコン、という音と共に城門が閉まった。


「怪我はないか。」


 髭を蓄えた四十ほどの男性が梯子から降りてきた。髭の下には古傷が見え隠れし、いまだに鍛え抜かれた筋肉から、その男が元冒険者だったことが分かる。ニールは見知った相手なのか、少し安堵の表情を見せた。


「アレックスさん。ああ、大丈夫だ。」

「俺もない。」


 クロも小さくうなずく。


「そうか。それはよかった。ニール達には申し訳ないが、すぐに東門の防衛を手伝ってくれないか。」

「もちろん。故郷が襲われているのに、手伝わないわけがない。」

「ファーブルに指揮を任せている。彼の指示に従ってくれ。」

「わかった。」


 ニール、キャディ、デリーは駆け足で、東門に続く道を駆けていった。


「ゴードンさん、道中も大変な事件に巻き込まれたようだな。戦闘のできない村民は教会に避難してもらっている。あなたもそちらに避難してくれ。すまないが俺は東門に戻らないといけないから、案内は出来ない。」


「わかりました。私は大人しく教会に避難しています。クロさん、ありがとうございました。」


 ゴードンは馬車を邪魔にならないところに止め、一人教会に向かっていく。


「さて、君たちだが…。」

「ボクたちも手伝うよ。」

「ん。当然。」


 シロとクロはすぐに答えた。


「そうか、助かる。続きは移動しながら話そうか。」

「少し待って…、竜牙兵…回収したい。」

「うん?ああ、そうか。いいぞ。」


 クロの触媒を回収し、三人は東門に向かった。


来週と再来週にも投稿します。

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