救助
「シロ、牙出す。」
「わかった。サポートは僕に任せて。」
クロは外套の下に隠した巾着を取り出すと、中身を地面に撒き散らした。そして印を描き、呪文を唱えた。すると、地面から真っ白なスケルトンが湧き出た。
「このくらい…かな」
ずらっと並んだスケルトンの数は25体。それも竜牙兵と呼ばれる竜の牙を触媒に生み出した、強力なスケルトンであった。
「ゴブリン…、駆逐して。」
クロが命令すると、竜牙兵はまるで兵隊のように隊列を組んでゴブリンの群れに奇襲を仕掛けた。
「聖壁。」
シロの錫杖がしゃんと鳴り響いた。すると重武装の男性に襲い掛かっていたゴブリンが透明な壁に弾き飛ばされる。ギギッ?と何が起こったのかわかっていないゴブリンたちは、何度も男を攻撃しては、その都度弾き飛ばされる。
そこに竜牙兵が襲い掛かった。無防備なゴブリンたちは竜牙兵に串刺しにされ、次々と命を散らす。
「間に合って!聖壁」
シロの叫びと共に再びシロの錫杖が鳴り響く。だが間に合わず、ゴブリンの棍棒が剣士の男を打ち据えるのが見えた。ただ追撃は聖壁に防いでいた。
「シロ!あと一人!」
「うん。…聖壁。」
悲し気な表情を浮かべていたシロにクロは指示を出す。シロは抱えた気持ちを振り払うように三度聖壁を展開する。
その間にクロは小柄の身体を生かしてするするっと馬車に近づく。
「お姉さん、大丈夫?」
突然目の前に現れたクロに驚き、魔法使いのお姉さんが尻もちをついた。
「ええ、大丈夫よ。…っ、後ろ!」
クロの背後に今にも飛び掛かろうとしているゴブリンがいた。だが、クロは瞬時に振り向き、ナイフを投げる。見事、心臓部に突き刺さったゴブリンは即効性の麻痺毒によって地面に倒れた。
それが最後の一体だったようで竜牙兵たちは戦いを止め、その場で小さな骨へと崩れ消えた。
シロは小走りでクロの下に駆け寄ってきた。
「き、君たちは?」
「私たち…、旅人。たまたま通りかかった…だけ。」
「そうだよ。それよりおねーさんの仲間を助けてもいい?」
シロに言われ、キャディはハッと気付く。
「ニール!デリー!」
キャディは倒れた二人の下に駆け寄る。二人とも意識がなく、大怪我を負っていた。
「あなた助けれるの?」
「うん、任せて!」
「本当?お願い。仲間を助けて。」
シロはすぐに重症なデリーの下に駆け寄り、治癒魔法で治療を始める。
「クロ、あの人をこっちに運んで。」
クロは、言われた通りにゆっくりとニールを移動させた。シロはしばらくすると、デリーの隣に寝かされたニールに治癒魔法をかけ始めた。
「凄い…。」
キャディはただ目の前の現実に圧倒されていた。治癒魔法は高度な魔術魔法と言われ、更には二人同時の治療となると、非常に高い技能が必要とされていた。それをいともたやすく行う彼女に、ただただ驚くことしかできなかった。
「キャディさん、これはどういう状況なのですか?」
「あ、ゴードンさん。えーと、彼女たちが助けてくれたの。」
「そうでしたか。私はゴードン・セグリエルと申します。この辺り一帯に商店を構えているセグリエル商会の商人です。」
ゴードンはキャディの隣にいたクロに手を差し出す。
「あ…、うん。」
クロは軽く握手をして、すぐに手をひっこめた。
「貴方方は行く予定でしたか?」
「クレディア…。花畑を見に。」
「そうでしたか。我々も実はクレディアに向かう予定でして…、もしよろしければご一緒に行きませんか。」
「別に…、いいよ。」
「ありがとうございます。僅かばかりですが、村に着いたときに報酬も支払いましょう。」
ゴードンは機嫌よく話を進める。
「一つ…、約束。」
彼の雰囲気を無視するように、クロは話す。
「彼らにも…、契約の報酬…全額払うなら。」
クロの眼は隣のキャディとまだ目覚めない二人に向いていた。
「ええ、いいでしょう。よろしくお願いします。」
そうして商人は馬車の様子を確認しだした。そして、アッと叫んだ。
「そうだ!どうしよう、馬が殺されているのだった…。」
悲嘆にくれるゴードンにクロが近づく。
「私が…何とかする。」
「…お願いします。」
クロの言葉にゴードンはしょんぼりとした表情で感謝を口にした。
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