大食い
「お兄様、その首に巻かれている白い魔物がお兄様の従魔ですか?」
「そうだよ。可愛いでしょ?この純粋な白い鱗と満腹中に鱗の隙間から見える真っ赤な皮膚がとても綺麗なんだ。」
「そう…なんですね……それは………私も見てみたいです…」
妹のアンは明らかに無理して笑顔で答えている。
俺はあれから無事あの白い蛇型魔物を従魔にした。
従魔とは特殊な契約魔法により契約した魔物の事である。この魔法はお互いに納得しなくては成立しない為、どうしても魔物に対して屈服か、説得か、をしておく必要がある。
「無理しなくていいよ。アンが蛇などが苦手なのはみんな知っているから」
「ふん!」
拗ねてしまった。
全く面倒である。
「それで、アンの従魔はその肩に乗っている小さい鮮やかな蒼い鳥かな?」
「そうですよ。お兄様、この子はビードのハニーちゃんです。羽の一枚一枚が綺麗な青色をしているのが最大の特徴なんです。何でもここまで綺麗な単色のビードは珍しいようなんです。」
アンはさっきまでの不機嫌を忘れて機嫌良く話し出した。
ビードとは前世でいうハチドリに近い魔物である。ただし、この世界でのこの鳥は別名吹き矢鳥と呼ばれる危険な魔物鳥である。
別名の由来は名前の通り、吹き矢のように敵に小さい身体で突進してくる所からきている。威力は吹き矢とは比べ物にならないほど高い所もある。
「お兄様の従魔はなんて名前なんです?」
「あぁ、言ってなかったな。コイツの名前はヘロンだ。ヘロンは他の個体より感知能力が高くて、知能も高いんだ。だから、舌先で隠れている刺客の方向を教えてくれるんだ。」
俺はそう言うと、お茶菓子として置いてあるケーキを切り分ける為のナイフをヘロンが指し示した天井へ投げた。
「ぐぁぁーー!」
力を込めたナイフは天井をぶち破り刺客を落とした。
「くっ!こ、この、ののて、ていど、どどど、」
「もうまともに喋れなくてうるさいだけだから。喋らないでね。」
「あら、便利ですね。まぁ、その蛇が居なくても気づいてましたが。」
俺も気づいていたが、ヘロンの訓練の為に放置していた。位置が正確に分かっても俺に分からなかったら意味が無いからな。
「モゾモゾとして気持ち悪いですね。ハニーちゃんゴー!」
アンが合図するとハニーは刺客の脳天を正確に貫いた。
「全く、お兄様もどうせ殺すのですから。一発で殺して下さい。」
「ごめん、ごめん。俺だけが従魔の性能チェックするのはどうかなって思ってね。」
アンは刺客の苦しみ方が虫みたいだったせいでまた機嫌を悪くしている。
「貴方達、そこのゴミを片しておいてね。」
「かしこまりました。」
メイドの何人かは一歳足らずの子供が平然と人殺ししているところに戦慄している。多分新人だな。このくらいのこと、半年程度働いていたら慣れるからな。
「いや、片付けなくていいよ。ヘロン。」
死体を片付けようとしている。メイドを静止させてヘロンに許可を出した。
「まぁ!」
ヘロンがあっという間に死体を丸呑みにした。普通のヘビでは不可能だが、ヘロンの種は大喰らいで有名である。相手が自分の十倍はあっても丸呑みに出来るほどの柔軟性を持った肉体をしている。
「おぉ、もう元通りだ。」
「もう消化したんですか?」
ヘロンの身体が元のサイズなったから。アンは一瞬にして消化したと思ったようだ。
「いや、違うよ。正確にはエネルギーに変換したが正解だね。」
「エネルギーに変換?」
「そうだよ。ヘロンの種名はカジヘビ。由来は口から高温の燃えやすい炎を出して広大な森林を焼き尽くした昔話が元だそうだ。」
「燃えやすい炎?」
アンは燃えやすい炎と言う言葉が分からなかったようだ。
そりゃそうだ。炎は燃えているだからな。
「燃えやすい炎ってのは、どんなに燃えにくい物質でも燃えると言う炎だよ。」
「?それは炎が高温という事では?」
「いや違うよ。ヘロンの炎にはさっきの言った変換したエネルギーが混入しているんだ。そのエネルギーはすぐに着火して持続性も高い特性がある上に付着性がもある為、物質自体が燃えるまで燃え続ける事ができるというわけだよ。」
性質としては前世でいうナパーム弾に近いかもしれない。
「それは怖いですね。」
その凶悪さが分かったからか?よりヘロンをヘビとしてだけではなく怖がっている。