成長した。
あれから、数ヶ月経った。
まだ、喋れないが、あれから、積極的にメイドや執事達が話しかけてくれたおかげで何となく言葉を理解する事が出来る様になってきていた。
そして、何より、立てるようになった。早くない?いくら何でも、生後数ヶ月で直立歩行出来るって明らかに早い。
この家系の伝説では産まれてきた瞬間に出産後の弱った母親を狙った暗殺者を殴り飛ばしたという、いや、嘘やろと言いたくなる伝説がある。
そんな家計のため、これでも遅い方らしい。
その証拠に、俺の後に産まれた異母兄弟の妹は産まれて数日で歩いて俺の部屋に来ていた。
因みに、俺が産まれてから外が騒がしかったのは妹が難産だったからで、両親が来なかったのも、妹の母親の為に、色々と薬の材料や精のつく食材を採りに行ってたからと初めて会った時に言ってたらしい。殴り飛ばされた父親は頭から血が流れていたが、ピンピンしていた。
俺が歩行するのに遅れた理由は産まれつきの大きく太い身体のせいのようだ。
そのせいで、遅れたとみんなからは思われているが、実は違う。
本当の理由は…………
「あい。」
「ピック様、失礼致します。」
コンコンコンとノックする音が扉から鳴った後、俺が返事すると、メイドが入ってきた。
言ってなかったが、俺の今世の名前はピックと言う名前だ。
「朝食の時間です。」
メイドは朝食を持ってきてくれた。
この家は滅多に家族で食事をする事はない事をこの数ヶ月で知った。
家族それぞれが忙しいようだ。そもそも家にいねぇ。あれから会ったのは数回だけ。まだ見ぬ兄弟もいるらしい。
この国自体内外共に敵が多い上にこの家は戦闘狂の好戦的な気質な為、常に戦闘に明け暮れていると聞いている。
ちなみに、俺も一歳の誕生日に狩りに連れて行かれるの聞かされている。馬鹿だろうこの家、伝統かなんか知らないけど、一歳の子供に狩りをさせるか普通……あぁ、普通じゃなかったこの家系…
「今日の朝食のメニューは、山脈嵐の針フライ、こちらは彼岸植物に位置付けられているゾンビ草から作られたこの特製ソースを付けてお食べください。悪魔小麦を使ったパンにさまよいイチゴのジャム、デザートには幸せチーズのチーズケーキ、ドリンクとしては我が領であるモンセン伯爵領特産の死紅茶であります。」
名前から分かる通り全て毒料理である。
この家は外交が苦手なと共に戦闘が好きな為、敵が多い。
だから、過去の当主が最も恐れたのが、暗殺である。正面からの戦闘から奇襲まで強い我が家は毒殺にも強いと思われたが、ある代で一族の者が毒殺事件が起きた。
そこで当時の当主は毒殺されてもいいように幼少の頃から毒に慣れさせる為に死ぬまで毒料理を食べるように領地全体で執り行なう事にした。
普通、相手への報復をした後は外交なりなんなり力を入れようとするのが普通なのだが、この家は毒を食らわば皿まで食べて毒を制する事を選んだ。
しかも、領民全部を巻き込んで行った。勿論、我が家より弱い毒ではあるが、毒は毒である。これは強制ではないが、領民は従い、今も続いて伝統になった。
うん、馬鹿だろう!いや、美味しいよ!はっきり言って貴族なだけあって全ての料理は食が進んだ前世並みに美味しい!でも、毒である。
その為、同じ国でも我が領以外では我が領の郷土料理が振る舞われる事は無い。
この毒料理のお陰で侵略でも、食糧には困らなかったと言っていた。侵略されている側の作戦として逃げる時に食糧に毒を仕込んだりする作戦があるらしいがそれが完全に無意味な上に、どんな毒草だろうと、毒動物だろうと食べる為に知らないものを毒を気にせず食べる事が可能なのである。
「美味い。」
「それは良かったです。」
俺の新しい1日はこれで始まる。