俺の腕はカニ風味
「…………………………………………………」
メイドが黙々と俺の焼き腕を食べている。人は蟹を食べた時、あまりの美味しさに無口になると言うが、これはそれと同じだろうか?
それを知ろうにも、俺には自分の腕を食う趣味はないから。一生分からない事だが、他の事を一切無視して自分の腕を食べてられている光景は独特な風景である。
既に満潮になってきた。さっきまでオレが居た場所が座っていたら胸の高さくらいまで海の中なのにある。
つまり、今あの場所で一心不乱に俺の腕を食べているメイドも余裕で下半身が沈んでいると言う訳だ。
「………………………………………………………………………………」
一切気づいていないのか、気にしていないのか?食べることを止める気のないメイドは大部分の肉を食べ終わると骨をしゃぶり始めた。
このままいくと、骨まで食べる勢いである。
肉は食べれる様に調整したが、骨まで食べる事は想定していなかったから。一切食えないのだが、そんな事関係なく、無理矢理食ってしまいそうである。
「おーい、おーい。」
「………………………………」
呼びかけても一切返事が返ってこない。名前を呼ぼうにもあのメイドの名前を俺は知らない。
まぁ、見た感じ完全な満潮になっても首から下までしか沈まないから。溺れる事はないから。気がすむまでほっておこう。
ピックはそう考えると、やることも無いので、寝ることにした。
「……ぐっ!……………がっ!」
ピックが寝ていると自分の近くで声が聞こえた。おそらくメイドの声であろうが、様子が変である。
「がっ!がぶっ!」
「何してるんだ?」
ピックが起きてみると、メイドが自分の腕に噛みついていた。
「がっぐ!」
メイドは、文字通りピックの腕に歯が立たなくて悪戦苦闘していた。
「そんな事してもおまえで僕の腕に噛みつくのは不可能だよ。」
その声が聞こえたのか、それとも、腕を食べる事を諦めたのか?今度は腕ではなく、柔らかそうで腹に噛み付いた。
「がっ!がっ!がっぶぶ!」
だが、柔らかそうな腹はメイドが噛んだ瞬間鉄の様に硬くなり、離すとまた柔らかくなった。
「だから、無駄だよ。僕の肉体は反射的に攻撃されたら、硬くしなやかな肉になる。おまえの咬合力では、噛み跡一つもつかないよ。」
ピックの肉は何もしなくても小型なら竜だろうと傷一つつかない硬度を誇るお肉である。
「……………がっぶしゅ!」
「はぁ?」
なんと、メイドはピックの肉を噛みちぎったのである。さっきまで一切歯もたたなかった肉を今は咀嚼して食っている。
「もぐもぐ……………」
既に咀嚼音は消え、明らかにやっと食えたピックの肉を味わいに味わっている。
「どうなっているんだ?」
ピックは自分の肉が食べられているのに、その事には全く気にせず、明らかに実力以上の力を発揮しているメイドを不思議がった。
「がっ!」
ピックはピックの肉を食べ終わったメイドがまた襲いかかってきたので、首を掴んで静止させた。
「うーん、骨が自分の力に対応出来てなくて、折れているね。特に顎の骨なんてボロボロだ。よくこれで食事できていたね。」
ピックは掴んだメイドを詳しく観察して見たところ。
本当に力が増しているようだ。それも急激に増大したせいで骨が自分の力で破壊されている。
それに最も増した咬合力のせいで顎の骨は一番の重傷である。これでもピックを食べようとするって事は痛みを感じていないか?痛みが気にならないくらいの欲に襲われているか?の二択である。
「多分、後者だな。」
明らかに、首を持つ手の力を強めたら一瞬だが、苦しそうにした。それは痛みを感じていると言う証拠である。
痛覚が麻痺していたら、こんな反応はしない。
まぁ、生物には反射行動があるから。痛みが無くとも首を絞められた=苦しいになったと思って表情を浮かべたとも考えられるが、そんな事を言っていたら話が進まないのでそこは考えない。
「それよりなんでこんな強くなっているんだ?」
食欲が暴走しているなど、ほかに気になる点はあるが、一番気になるのはそこである。
明らかにこの島で来たから変になった。そして、島に来てした事は食事である。
まぁ、俺の肉を食ってこうなったんだろうな。もしくは、肉を焼く為に燃やした物の中に麻薬みたいな物があり、その煙を吸ったからこうなった。俺も一緒に吸っているが、俺には効かず、メイドには効く薬物なんていくらでもあるだろうし、正直分からないが、この可能性はあるだろう。メイドの目や雰囲気は薬物でラリった人に近い。
薬物でこうなったのなら、俺だけを狙う意味が分からない。俺の肉は美味しいようだが、食欲だけを満たすのに味は関係ない。とにかく、何か食いたくなる。なので、普通は食うのに苦戦したら禁止している海に潜り海洋生物を食べにいくはず。
と言う事は、メイドの食欲プラス薬物中毒者が薬物を前にしているような雰囲気から俺の肉自体が薬物である。
「これしかないか〜めんどうだな。」
俺の肉には人体が悪くする成分は悪影響を出す程入っていない。と言う事はこの症状は悪い成分で起こった事ではないな。
つまり、内臓などへの負担や癌などの病は起きないと言う事だ。
「仕方ない、このまま首絞めて気絶させるか。」
ピックはそう言うとメイドの首を握る手の力を強めた。
「起きてもこれならまた考えるか。」
メイドが寝たのを確認すると、ピックもまた夢の世界に旅立った。




