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お題シリーズ3

記憶に残らない物事

作者: リィズ・ブランディシュカ



 何かを覚えようとしても、すぐに消えちゃう。


 おかしいわ。


 まるで私の頭がぽんこつになってしまったよう。


 今も、覚えたはずの事が分からない。


 目の前で親しげにいる人が誰だか分からなくなってしまったの。


 さっき自己紹介してくれたみたいだけど、すごく申し訳ないわね。


 誰だったのかしら。


「うちのおばあちゃん、やっぱりぼけちゃってるわ」


 それに何を言っているのか分からない。


 話しかけてくれているみたいだから、理解してあげたいのはやまやまだけど。


 せめて、ちょこっとでも意味が分かればいいんだけど。


 何について言っているのかちっとも分からないから、どうしようもないわ。


「こうなったら、施設にあずけるしかないわね。少し心苦しいけれども」


 どこに行こうとしているのかしら。


 そこって私も行かなくちゃいけないところなのかしら。


 私には毎日行かなくちゃいけない所が他にあるの。


 やめて、つれていかないで。


 あれ、でもそれってどこだったかしら。


 分からない。


「毎日やっていたあれは、私達がかわりにやっておくから、今日からここですごしてね」


 どうしよう、忘れてはいけない事だったのに。


 それと一緒についもってきてしまったこれはなにかしら。


 これはどういった物なの?


 世界ってこんなに分からないものだらけだったのかしら。


 とても不便だわ。


「いつも目を離したすきに外に行こうとするんです。困ったものですよ」


 でも分からなくても探しに行かなくちゃ。


 だって約束だもの。


 約束って誰に?


 それも、分からないけれど。


 でも、しなければ、行かなければならない事があったのは確実だから。


 探しているうちに思い出すかもしれない。


「いい加減にしてください。ここから出ないでくださいよ。いいですね」


 ああ、ああ。


 お願い。私をあの場所に行かせて。


 あの人が待っているはずだから。







 一緒に駆け落ちしよう。


 彼がそうさそってくれた。


 私は良い所のお嬢様で、彼は貧しい家の人だった。


 だから一緒にはなれない。


 誰も祝福してくれない。


 けれど、私達は誰にも祝福されなくてもいいから、一緒になる道を選ぶつもりだった。


 けれど、私は約束の場所へ向かう途中に事故にあってしまった。


 目を覚ました時にはすでにおそくて。


 彼はどこかへと旅立った後だった。


 私は以前彼が送ってくれた、花の髪飾りをにぎりしめて、わんわん鳴き続けた。


 それから何十年経った。


 今の夫にめぐりあえて、娘がうまれて、孫も生まれていた。


 一抹の残しながらこの世を去るのだと思いながら過ごしていたら、あの人の手がかりが舞い込んできたのだ。


 やっとあの人の居場所が分かった。


 だからどんなに遅くなっても約束を果たそうと思ったのに、もうなくなってしまっていた。


 それから私はずっと墓参りをしていたの。


 もう遅れたりしないから。


 だから教えてほしい。


 知りたい。


 あの日、約束の場所に現れなかった私について彼はどう思っていたのだろう。


 それから彼はどんな気持ちで残りの人生を過ごしていたのだろう。






「まったく外に出ないでっていったのに、どうしてこのおばあさんは言う事を聞いてくれないのかしら」

「そう怒るものじゃないわよ。仕事なんだし、それに……泣いているじゃない。きっと何か大事な思い出が外にあるのよ」




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