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魔王のプライド



 勇者・聖女・格闘家・魔法使い、そして暗殺者。この五名は魔王を倒し世界中に名を轟かせた。ちなみに全員神の加護を持っている。

 その後勇者と聖女は結ばれ家庭を築き。魔法使いと格闘家は冒険者として活動している。

 そして暗殺者は…私は詳しく知らなかった。両親もオバチャンも何も言わなかったし。


 今私を目が落っこちるんじゃないかという程開いて見下ろす白髪の男。面影がある…間違いなく暗殺者だ。

 なんだか困惑しているようだがこちらも負けてはいない。ここは先に動いた方が勝つ!!


「…初めまして、どちらの先生でしょうか?申し訳ございませんが、私はアイと名乗っております。マオは使わないよう願います」

「あ…え!?君がマオ!?」


「マオウ」じゃなくて「マオ」と呼んだんだろう。そうだろう?あ"?

 何故なら魔王の素顔は側近すらも知らないのだから。寝る時以外仮面を外した事は無いからな。

 私はこの男とは初対面。その体を崩してはいけない。


「…すまなかった。俺は数学を教えるサシュだ。その…アイ君。

 アレグサンダー(※勇者)とキャロル(※聖女)の娘…か?」

「はい」

「……カーラ(※魔法使い)とティファ(※格闘家)も知っているか?」

「はい、色々親切にしていただきました」

「……………そう、か……」

「あの…もしや先生は、お父様の仲間である暗殺者様では…?」

「何か聞いているのか?」

「お名前だけ存じております」

「「…………」」



 沈黙が。付き合いきれん、では失礼しますと逃げる。

 まだ何か言いたそうにしていたが、引き止められる事はなかった。




 ※※※




「アイ様。Aクラスにマオ様いらっしゃいましたか?」

「ブーーーッ!!!」

「アイ様!?」


 おっと失礼、噴き出してしまいましたわ。フレヤが変な事言うもんだから…

 で…なんて?


「勇者様のご息女、マオ様です!今年学院に入学されると聞いていたのに…お会いしたかったです」

「…私の聞いた話では、取りやめたとか」

「そうなんですか!?」


 そうなんです。旅に出た設定です。なので深く突っ込まないで欲しい。


「残念です…あ、でも!なんとこの学院には、かつて勇者パーティに属した方がいるとか!」


 さっき会いました。まさか教師になっていたとは。

 サシュは本当に凄腕の暗殺者だった。何度も魔王城に侵入しやがったし、目立ちはしなかったが影の功労者だった。

 今後父親の友人として接触して来る可能性も大アリか。ま…大丈夫っしょ。




 翌日、私の席に複数の女子が群がっていた。ああ…オーウェン様狙いか。椅子を返してもらおうか。

 挨拶をして笑顔で押し退ける。するとまあ、聞きたくも無い会話が耳に届く。


「えー!オーウェン様、神聖科じゃないんですか!?」


 へー。まあ聖痕持ってるからって、強制じゃないもんな。


「ああ。僕は将来騎士になって、困っている人達の為に剣を振るいたいんだ」


 ほーん。それはまた素晴らしいデスね。


「僕達が生まれる前…魔王軍は多くの人々を苦しめた。側近だったという魔人はまだ死んでいない、必ず見つけ出して討つ!」


 …………あっそ。


 彼の言葉に女子達は目を輝かせて賛同する。はあ…

 分かってはいたけれど、辛いなあ…

 胸が苦しい気がする。私の顔色は悪くなっていないだろうか…背中に嫌な汗が流れる。

 いつの間にか近くの席の生徒達も集まって…魔王許さん、魔人死ね!魔物の殲滅を!!我々には神がついている!と騒ぎ始めた。


 その魔物も魔王も、神が創ってるんだけどな。



 なんとか精神を落ち着かせようとしていたら…続くオーウェン様の言葉が気に掛かった。


「魔物は残虐な生き物だ。僕の実家地域でも…人間をただ殺すだけでは飽き足らず、生きたまま火を放ったり。嬲り殺しにしたり、死体を痛めつけたり…!」


 その言葉に皆苦しそうに顔を顰めて俯く。

 おいまて。それは…違う!


「…オーウェン様。失礼ですが、それは魔物の仕業ではありません」

「え…」


 ずっと無言だった私の発言に、クラス中が注目する。だがそんな事はどうでもいい。


「な、何を言っているんだアイ嬢」

「…魔物は本能で我々を殺すのです。人間にとって睡眠に等しく必要な欲求なのです。魔人であれば己を抑えられますが、それ以上の感情はありません」

「何が言いたい?」


 オーウェン様は額に青筋を浮かべて立ち上がる。

 私も負けじと席を立ち、睨み付けた。



 魔王は人間を殺さずにいられなかったから…一撃で殺すよう全ての魔物に通達した。

 死の恐怖も与えず、苦しめず。慈悲もなく一撃で首を刎ねよ。回復の余地もなく心臓を貫け。

 それが…せめてものシステムへの抵抗。痛みもなく即死させるよう命じた。そんな事、誰にも言えないけれど。



「記録をお読みになっていないのですか?魔物は人間を一撃で殺し、その後死体に興味を示しません」

「適当を言うな。腕をもがれて命からがら逃げ切った者もいるんだ」

「その人が実力者だったからでしょう。圧倒的な力で潰すには力量差が必要ですから」

「だが、確かに無残な死体が多かったと…」

「当時…人間による犯罪も増加傾向にありました。何故かお分かりですか?」

「…?そんなの…まさか。魔物に罪を擦りつける為…?」



 頷く。小さい集落ではよくあった。

「魔王軍が来たぞ!」と嘘をつき、混乱に乗じて住人を殺す。女は暴行し子供は売り飛ばし。金品を盗んで家に火を放ち。

 救援がやって来た頃に…「魔王軍が来たんだ!抵抗したが、皆殺されて数人は連れ去られた…!」と、あたかも生き残りのように振る舞う極悪人共がいたのだ。もちろん魔物は関係無い。


「何を言うか!同胞を疑い敵を庇うなど!」

「…庇っているつもりはありません」

「だとすれば、何故そんな事を知っている!?お前もその極悪人の関係者なのか!

 ああ、それとも神の教えに背く異端者なのか!」


 オーウェン様だけでなく、あちこちから私に憎しみの視線を送られる。あの時代、肉親を殺された人もいるのだろう…それでも!!


「無関係ですよ。私の両親が討伐隊の一員だったのです(嘘は言っていない)。

 熱い正義感は結構ですが、本質を見失うのはいかがなものかと。

 貴方は人間の営みを守りたいのか、ただ魔物を斃して名を揚げたいだけなのか。よく考えてごらんなさいませ!

 動乱の時代に紛れて大罪を犯した連中が、今ものうのうと暮らしているのです!それをなんとも思わないのであれば、貴方に崇高な夢を語る資格があるのでしょうか!?」

「「「…………」」」


 バアン!!と机を叩いてみせればヒビが入ってしまった。それを見たせいか誰も返事をしない。

 恐らく今、相当怖い顔をしているのだろう。口を開こうとした者は、私と目が合うと蒼白になり後退った。



「そこまで」



 !?誰かが私の前に立った。近付かれているのに気付かなかった…この私が!?

 誰だ…と思ったがこの気配、声…


「…サシュ先生…」


 英雄の登場にどよめきが広がる。サシュ先生がパンパンと手を叩くと、即座に静かになった。


「知っている者もいるだろうが。俺はサシュ、勇者アレグサンダーの仲間だ。

 我が女神ユンテリオンの名に誓い、彼女の言葉は真実だと宣言する」


 サシュ先生は私の肩に手を置きながら言い放った。

 聖痕持ちが神の名を出すという事は…命を懸けた発言だ。虚偽を申せば彼の心臓は止まるだろう。

 なんで…そうまでして私を庇う?これ以上ない援護ではあるが、どうして…


 先生のお陰で私を疑う空気は霧散した。数人は「ごめんなさい…」と頭を下げてくれた。


「速やかに席に着きなさい。初回のみ大目に見るが、次回からは減点だ」


 どうやら口論している間に、一限目開始の時間を過ぎていたらしい…

 全員我に帰り、バタバタと席に戻る。まだ気分は収まらないが…学生の本分を忘れてはいけないな。



「あの…」

「あ"?」

「ひい…!」


 おっと。オーウェン様が恐る恐る話し掛けてきたが、思わず素で返してしまった。

 彼は一瞬引くも何か言いたげだ。授業終わったら聞いてやるわ。ふんと鼻を鳴らし、顔を逸らす。


 しかし…やってしまった。これでもう友達は絶望的か…机を修復しながら内心ため息をつく。

 騒ぎを起こし、異端者扱いされて。さぞ敬遠される事だろう…よし諦めた!



 さて、早速教科書を開く。

 ふふ…これでも家でちゃんと勉強してきたからな!通常の貴族のように家庭教師なんかはいなかったが、どこまで通用する…か……?


「ほうてい、しき…?ひれい?はんぴれい…?」


 これ数学?ページをどれだけ捲っても見た事のない記号の羅列…え?

 私が固まっていたら…もう一度隣から声が。


「まさか…解らないのか…?」

「だ…だって…」



『数学?九九さえ出来ればどうとでもなるよ!』

『もう、アナタったら。マオ、割り算も出来なきゃダメよ?』



 あ…あの両親めええ…!!全っ然足りないじゃないか!!

 教科書を握り締めてワナワナ震えていたら、先生が衝撃的な言葉を発した。


「皆の学力を知りたい。今から小テストをやるから…」


 言いながら先生は、魔法でテストを浮かせて全員に配った。

 ……なんで数字の上に数字が?え、何これ。なんで数学に文章問題があるの?証明ってナニ…?


「これには超初歩から応用まで幅広い問題がある。時間は十五分、始め!」


 号令と共に、一斉にペンを取り問題を解き始める。

 遅れて私も…………



 わ か ら な い 。

 教室に時計とペンの音のみ響く。嘘…私以外全員順調…?



「そこまで」


 え、もう!?ああ、テスト用紙が飛んで行く…!


「……ん?」


 サシュ先生が…手元に集まった用紙に目を落とし、私に視線を寄越す。

 その目は慈愛に満ちている…そうか、私のテストが一番上にあるのか…



 何故なら…私は自分の名前と、最初の『13×5=66』しか書いていないのである。



「(…名前は書いてあるから、1点あげようか…)」


数学は中学レベルと思ってください。

ただしマオは小学生低学年レベルです。

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