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誰か友達の作り方を教えてください


「アイ様はどのクラスでしたか?私はBクラスでした」

「Aです。別れてしまいましたね」

「残念です…」


 本当に残念だ。私はこのフレヤとしか挨拶以上の会話をしていない、このままではボッチ確定というやつだ。

 学院の授業は基本的に午前中は通常、午後から専科。朝食をとりながらそんな話をする。

 食堂は寮の1階の半分以上を占拠している広い空間だ。その分入居者も多いのだが、早めに来ているので人は少ない。


「あの…アイ様」

「なんでしょう?」

「よろしければ、私の友人を紹介させていただけませんか…?」


 ああ、特待生仲間か。もちろんです、と言えばフレヤは「少々お待ちください!」と席を立った。

 すぐに食事のトレーを持った女子が二人、若干怖気付きながらやって来た。


「はじめまして、シンシアと申します」

「イリスと言います。ご一緒させていただきます…」

「私はアイです。どうぞお座りください、シンシアさん、イリスさん」


 努めて優しく着席を促すと、二人は安心したように息を吐いた。その横でフレヤが得意げに笑う。


「だから言ったでしょう?さ、食べましょ」


 大盛り上がりでもないが、ポツリポツリと会話する。シンシアは背が高くて大人っぽい印象。イリスは控えめなのか、声が小さくて口数少な目。


「お2人は何科を希望していますか?」

「あたしは騎士科です」

「神聖科です」


 おや、イリスは聖痕持ちか。神聖科は人数が少ないので1、2年合同授業だ。

 祈って神話を読んで、神に捧げる舞の練習をひたすらしていると聞く。反吐が出るわ。


「アイ様はどうされるのですか?」

「私は普通科です」

「では皆バラバラですね」


 更にクラスは四つあるのだが…三人は同じ、私だけA…ボッチまっしぐら。




 ※




「それでは一年間皆様の担任を務めさせていただく…」


 ふわあぁ…退屈だ。担任の挨拶長い…

 教室の中をぐるっと見回す。私は高さのある後ろに座っているのでよく見える。


 ふむ…三十二人で男子の方が若干多いか。

 この中で…私と教室移動を一緒にしてくれたり。二人一組になって〜と言われた時に相手になってくれる人を探すのだ。

 ちなみにこの情報はオバチャン達である。学生であれば必須だ!と他にも色々教えてくれた。


 ここで問題が一つ。私は…友人の作り方が分からない!

 更に言うとすでに、いくつかのグループが出来て和気藹々としてやがる。もしや入学前からの知り合いか?なんてこった。それか上級貴族とその側近かな。


『困った時は、とりあえず近くの席の人に話し掛けるといいわよ』


 ありがとう、ありがとう魔法使いのオバチャン。まず隣は…儀式で聖痕を授かってしまった男子。背中まである長い黒髪が目を引く。

 確かオーウェン様…だったか。貴族間では基本的に、女性は男性に様を付ける。

 はっきり言って、お友達候補に男子は入れていない。体育で二人一組になれないからな。


「初めてまして、僕はオーウェン。これからよろしく、お隣さん」

「私はアイと申します。こちらこそよろしくお願いします」


 ホームルームが終わり、解散後話し掛けてきた。だがそれ以上は特に会話もなく、彼は先に帰寮。

 ん?何やら…周囲の女生徒の視線を感じる。聴力強化の魔法を掛ければ…ふんふん。


『オーウェン様に話し掛けていただけるなんて…!』『何よ、どこの田舎令嬢よ!』『ああ…濡羽色のお髪が素敵…』『はあ…オーウェン様にお近付きになりたいわあ…』


 …なんと。よく分からないが、彼は整った顔立ちをしているらしい。しかも聖痕持ちで将来有望なのだろう。

 これはマズいぞ。クラスメイトからハブられてしまうじゃないか…!オバチャン達も女の嫉妬は恐ろしいって言ってた。

 だが単に偶然席が隣になっただけ。女子達もそれは理解しているだろう、直接何かを言われはしなかった。



 はあ…帰ろう。担任に普通科希望と書類を提出すると…目を見開き小声で訊ねてきた。


「その…マオさん。本当によろしいのですか?」

「構いません。私は勉強をする為に来たのですから」


 ああ、教師は全員知ってるんだったか。そうだよな。ここの騎士科や魔法科を卒業出来れば箔が付くもの。

 担任を適当にあしらって帰寮する。廊下を歩きながら、これまでの事を考えた。


 私は勇者から剣技を。

 聖女から回復や強化、敵弱体化等補助魔法を。

 魔法使いから強力な攻撃魔法を。

 格闘家から筋力強化魔法及び近接格闘を教わっている。

 更に前世…魔王の権能も幾つか使える。ハッキリ言って、父にもサシなら負ける気がしない。


 魔法とは人間ならば誰でも使える神秘である。生まれ持った魔力量は皆平等であり、その後の修練で増やせるのだ。

 私は前世の膨大な魔力量も引き継いでいるので、人間が一生掛かっても到達し得ない領域に足を踏み入れている。

 私の感覚で数値化するとしたら…生まれた時は一としよう。

 一般的な人生を送れば、老いで死ぬ時には三百程だろうか。

 魔法に人生を捧げた人間は二千程に増える。魔法使いのオバチャンは現在千五百くらいかな。

 私は、そうだな…多分一万は超えてる。量は単純に、使える魔法の質と威力に直結する。


 自分で世界最強とまでは言わないが、国一つくらいならサクッと滅ぼす自信もある。



 教師陣はそんな私の能力はともかく、両親の事は当然知っている。なのに普通科…勿体ないとでも言いたいのだろうか。



「…血筋なんて関係ない、前世だって。私は私の好きに生きる権利が…あるはず、なんだから…」



 それとも。前世の罪は消えないのだろうか。

 己の意思ではなかったとはいえ、数え切れない程の人間を殺した。殺した…

 私はその償いに…生涯を人々に捧げるべきなのか?騎士やら魔法使いになって、身を粉にして働くべきか?

 分からない。それでも考えるしかないのだろうか。答えが出るまで、繰り返し。


 窓の外を眺めれば雨雲が。一雨来そうだな…と歩く速度を速めたら…



「…魔王?」



 何者かに呼ばれた気がして、反射的に振り向いてしまった。

 目の前には…かつての敵である勇者パーティの一員。


 暗殺者の男が、呆然と立ち尽くしていた。


 

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