誕生
マイペース更新
「…へっ」
「見てください、アナタ。マオが笑いましたよ」
苦笑してんだよ。
「本当だ。はは、笑った顔は君にそっくりだな」
うるせえ。
なんだこれは。誰にも望まれぬ生誕をし、世界中から疎まれて生きて。望まぬ殺傷をさせられて。漸く眠れたと思っていたのに。
赤子の私を見下ろす2人の人間。幼さが消えているが間違いない。私を殺した…勇者と聖女だ。
魔王の私がこいつらの娘に生まれようとは…これも神々の戯れとでも言うのだろうか…
それから数年、私は十五歳となった。名前はマオ、ふざけてんのかこの両親は?
「お~い、遊びに来たよっ!」
「マオちゃん、今年入学でしょ?」
…ハア、また来た。私の優雅な読書タイムを邪魔したのはかつての敵、格闘家と魔法使いだ。あと暗殺者もいたはずだが、今世では顔を合わせていない。
「…いらっしゃい、オバチャン達」
「「誰がおばちゃんよー!!」」
あっはっはっ!!と笑い声が響き渡る。やかまし…部屋に逃げよう。
入学とは貴族の子供達が通う学校の事だ。
父親…腐っても勇者は王国から爵位を与えられ、一応私は貴族令嬢なのでな。
今住んでいるのも首都の一等地。私が死んだお陰で、私はこうして裕福な暮らしを…深く考えるのはやめよう。
転生してわりとすぐに、自分の状況を受け入れられたと思う。
勇者達に恨みはない、彼らも神に弄ばれた被害者なのだから。憐みすら覚える。まあ心咎めもしないけど。
私は人間を嫌っていない。殺したいとも、蹂躙したいとも思っていなかった。ただあの時は、魂に刻まれた命令に逆らえなかっただけ。
神の呪縛から解放されて、私は自由となったのだ。ならば第二の人生を謳歌しよう…
「お父様、お願いがあります」
「なんだいマオ?」
私は女性らしい言葉遣いなど出来ない。なので基本的に、誰に対しても敬語を使う。
「私はもうじき貴族学院に入学します。ただ…お父様達の子である事は隠したいのです」
「「え……」」
おっと両親が絶望の表情に。違う違う、そうじゃない。
「私は何をしても、どこに行っても『英雄の子』という名が付いて回るのです。この家の娘である事は誇らしいのですが…親の七光りと言われたくないのです。
自分自身の能力のみで、生きてみたいのです。そしていつか胸を張って、お父様達の娘だと言いたいのです」
「マオ…」
「………」
そうだ、折角転生したのだから。なんの柵もない、ただの女として生きたい!
前世の事は言えないが、私の想いは伝わったようだ。両親とも賛同して、教師に伝えてくれるらしい。
私はマオ。しかしその名は知れ渡っているので…新たにアイという名を貰った。
愛などと、生涯孤独であった魔王になんとも皮肉めいているが…あぁ、悪くない。
今日は入学式。私は制服に着替えて、鏡の前に立つ。
「…見れば見るほど、前世の姿そのものじゃないか…」
鏡の中には…長く伸びた黒い髪に、金の瞳の少女がいる。魔王時代の私は仮面を被っていたから、誰も素顔は知らなかっただろうが…
この顔は。魔王が若返っただけだ。誰にも気付かれないのは…少しだけ、寂しい。
「行ってきます。お父様、お母様」
「行ってらっしゃい!」
「頑張ってね、アイ!」
元気いっぱいの両親に送り出され。私は前に進んだ。
英雄の子でも、魔王の生まれ変わりでもない。アイというただの人間。
これから2年間学校生活か。その間に…私の人生の目標は見つかるだろうか?
全ての能力を駆使して成り上がる?
辺境でのんびりと暮らす?
自由な冒険者になる?
国に仕えて安定した人生を送る?
なんでもいい、自分で納得出来る道ならば。
死ぬ時に…「いい人生だった!」と笑えるならば。それが一番いいのだから…
基本コメディでいきます