『サプレス』
投稿、遅くなってすみません。
読んで戴けたら嬉しいです。
オレは手始めにライヴハウスに通い、腕のいいドラマーとベーシストを探した。
耳にも自信が在ったし、曲にも自信が在った。
テーブルに着いてビールの瓶を握ったまま演奏に耳を傾けていると、見知らぬ男がオレのテーブルに尻を載せて、握っていたビールを取り上げた。
「坊やはベッドでおねむの時間だぜ」
男はオレから取り上げたビールを眺めて言った。
「これは哺乳瓶じゃ無いぜ、お綺麗な顔の坊や」
この手の舐めた連中には慣れていたから、オレは黙って演奏に耳を傾けた。
「シカトとはいい度胸じゃないか」
どうせ、何を言っても絡んで来るんだろうが。
オレは無視し続けた。
男は痺れを切らせてオレの胸ぐらを掴んで立たせた。
しょうがないなあ。
オレは男を見た。
本当に見ただけなんだけど男は言った。
「なんだあ?
その眼はあ」
ほうら言うと思った、お決まりの台詞。
どうして絡んで来る奴は同じような事しか言わないんだろう?
連合会でもあって、決められているのか?
オレが何か言おうとした時、カウンターの方から声がした。
「大の大人がそんな餓鬼相手にみっとも無いぜ」
一人の男がストゥールから降りた。
オレの胸ぐらを掴んだ男は近付いて来る男に言った。
「なんだ、お前」
ストゥールから降りた男が言った。
「餓鬼の癖に襟首掴まれて、もう少しビビったらどうだ」
オレに言ってるようだ。
オレは言った。
「あいにく、この手の手合いは慣れてるんでね」
「なんだと!」
胸ぐらを掴んでいる男が怒っているようだ。
「慣れてるって、お前幾つだよ? 」
「一七」
「へえ、いい度胸してるじゃないか」
自分が無視されている事に憤慨した、オレの胸ぐらを掴んでいる男が言った。
「おい!
俺を無視して何言ってんだ、お前ら! 」
近付いて来た男は通りすがりに、げんこつをオレの胸ぐらを掴んでいる男の鼻っ柱にぶつけてテーブルに手をついた。
オレの胸ぐらを掴んでいる男はあっけなくオレから手を離して崩れ落ちた。
バンド演奏がいつの間にか止んでいる。
オレは崩れ落ちた男を見下ろした。
「あーあ」
男は鼻血を出して気絶していた。
「で、一七の坊やが何でこんな処でビール飲んでる? 」
男は二十代後半と云う処だろう。
服の上からでもいい身体をしているのが解る。
「腕のいいベースとドラムを探してる」
「名前は? 」
「リュシアン
アンタは? 」
「随分、上品な名前だな
俺はジールだ」
ジールはステージに向かって言った。
「おい、誰かギター貸してやれ」
ステージに居た男が自分のストラトキャスターをオレに渡して来た。
ジールは言った。
「腕前、拝見しようじゃないか」
オレはギターを肩に掛けてステージに上がると、チューニングを合わせた。
ストロークでリズムを刻んでオレは吠えた。
日頃の不満と、この国に対する不満を。
ジールは口笛を鳴らすと、ステージに上がって来て、ドラムの前に座りスティックを握ってリズムを取り始め、即興でオレの曲に合わせエイトビートを刻んで来た。
ジールのドラムは、基礎をやり込んだ野太い音をドカドカ立て、オレはリズムをジールに任せてメロディーを走らせた。
この曲のサビはジールのドラムのみで演出した。
「日常の抑圧!
社会の抑圧!
人種の抑圧!
犯罪の抑圧!
フロムユナイテッドステイツアメリカ! 」
と、オレは叫んで両手を掲げクラップさせた。
オレは繰り返した。
「日常の抑圧!
社会の抑圧!
人種の抑圧!
犯罪の抑圧!
フロムユナイテッドステイツアメリカ! 」
オーディエンス達が次々と立ち上がり両手を掲げクラップさせる。
「日常の抑圧!
社会の抑圧!
人種の抑圧!
犯罪の抑圧!
フロムユナイテッドステイツアメリカ! 」
いつの間にか合唱になっていた。
そして演奏が終わると店内のオーディエンス総てがスタンディングオベイションの嵐になった。
ジールがオレの肩を叩いて言った。
「凄いじゃないか、リュジー! 」
「リュジー? 」
「下の名前は? 」
「エヴァースミス」
「今日からお前はリュジー・スミスって名乗りな!
俺がサポートしてやる!
今日から面白くなりそうだ、リュジー・スミス! 」
ジールは酷く興奮していた。
読んで戴き有り難うございます。
本当に有り難うございます。
どうやら、この作品は面白く無いみたいで、読んで下さる人が、日々減って行きます。笑
だから、今読んで下さったあなたは、とても貴重な存在です。
心の底から有り難うございます。
ある程度覚悟していましたが、やっばり現実に目の当たりにするとへこみます。笑
最後まで、お付き合い戴ければ倖せです。




