放課後
読んで下さったら嬉しいです。
学校が終わるとオレは心を躍らせながらシヴィルとオレにしか解らない秘密の場所に急いだ。
シヴィルは木立の下で草叢に座って俯いたまま、じっと地面を見詰めていた。
オレに気付くとぼんやりとした視線をこちらに向けて笑った。
「シヴィル…………………」
オレはシヴィルの隣に腰を下ろした。
「時間、大丈夫? 」
「大丈夫」
シヴィルは微笑んだ。
シヴィルの澄んだ緑の瞳にじっと見詰められて、オレは照れて視線を落とし笑った。
本当に成長したシヴィルは素敵だった。
とても綺麗だ。
オレはそれを素直にシヴィルに伝えた。
シヴィルは眼を伏せてはにかんだ。
その仕草が可愛らしくて、昔の幼い頃のシヴィルを思い出させた。
「そんなに見詰められたら恥ずかしいよ」
シヴィルは俯いたまま言った。
オレはそう苦情を言われても見る事を止める事ができなかった。
困り果てて俯いたまま顔を上げられないシヴィルを、オレはたっぷり見詰めてから言った。
「やっと帰って来た、シヴィルのもとに
ずっと逢いたかった」
シヴィルはやっと顔を上げて遠慮がちにオレを見た。
「ワタシも逢いたかった」
シヴィルが真っ直ぐオレの眼を見て言うから、オレはまた照れて、すっとんきょうな声を出してしまった。
「ホントに? 」
シヴィルはクスクス笑った。
「本当よ」
「嬉しいよ!
そう言って貰えて! 」
オレは興奮してシヴィルにイギリスでの話を弾丸の如く話し始めた。
瞳を輝かせ、シヴィルは額に汗を浮かべるくらい、食い入る様にオレの話を聞いてくれた。
「とにかく、サッカーかロックをやれば女の子にもてるって口車に乗せられてロックを始めたんだ
処がキングスクロスに住むオカマちゃんに気に入られちゃって、一度キスを迫られて、あまりの力強さにそのままひっくり返って地面に頭を打って失神しちゃったんだ」
シヴィルはにっこり笑って言った。
「その後はどうなったの? 」
オレは不貞腐れて言った。
「一生に一度の汚点は聞かなかった事にして……………」
シヴィルは小さく声を上げて笑った。
オレは頃合いを見計らって言った。
「実は、今日はシヴィルに二つの秘密を聞いて欲しいんだ」
「二つの秘密? 」
オレは真顔になって言った。
「父さんが蒸発したって、シヴィルも聞いてると思う」
シヴィルは神妙な顔をして頷いた。
「実はあれは、世間体を気にした母さんの嘘で本当は、父さんは今別の女性と暮らしてる
母さんは未だに待ってる
母さんを愛している父さんが戻って来るのを
でも、父さんは戻らない
多分…………………」
シヴィルは眼を伏せて言った。
「ワタシ、なんて言っていいか………………」
「ごめんね、急にこんなヘヴィーな話
でも、お蔭でオレはここに戻って来る事ができた」
シヴィルは困った様に眉を下げた。
「ごめんなさい
エヴァースミスのおば様には、お気の毒なのだけど、リュシアンがそれで帰って来てくれたのは嬉しいの
とても不謹慎だと思うのだけど」
「オレはそう思ってくれる方が嬉しいよ」
シヴィルはやっぱり困った様に笑った。
「二つ目の告白は、少しも気付いて無いみたいだけど…………………」
オレは一瞬口ごもったが、思い切って言った。
「愛してる」
シヴィルは驚いて眼を見開きオレを見た。
「イギリスに行く前からずっと………………」
「リュシアン……………………」
シヴィルの眼から涙が溢れ始め、頬を伝った。
「その涙、自惚れていいの? 」
オレはシヴィルの肩をそっと抱いた。
シヴィルの頬を優しく掌で包んで口付けようとした。
口唇がほんの少し触れると、ハッとしてシヴィルは顔を背けた。
「ごめんなさい………………
そんな資格、ワタシには無い………………
ごめんなさい………………」
オレは俯くシヴィルを抱き締めた。
そして迂闊にも言ってしまった。
「知ってるんだ、どうして夜のパパが嫌いなのか
でもそれはシヴィルのせいじゃ無いよ」
「どうして………………? 」
シヴィルは大きく眼を見開いて、定まらない視線を泳がせた。
「リュシアンにだけは…………………
どうして……………………………」
シヴィルの呼吸が少しずつ荒くなって行く。
オレはシヴィルの異変に気付いた。
大きく眼を見開いたシヴィルは身体を強張らせ両手でスカートの裾を握り締め、人形の様に空を見詰め、激しく呼吸を乱し、肩を上下させた。
どう見ても普通の状態じゃ無い。
「あああああ……………………………………………」
シヴィルは意味も無く声を漏らせた。
「シヴィル! 」
オレはシヴィルの肩を掴んでシヴィルの身体を揺すった。
ガクガクとシヴィルの首が揺れた。
だがシヴィルは眼を見開いたまま身体を強張らせ、上を見上げて意味の無い声を漏らせている。
「ううううう……………………………」
唸りながらシヴィルは身体をくねらせてオレから逃れようとする。
暫く方針状態でその様子を見ていた。
「シヴィル…………………」
オレは突かれた様に、ただ強くシヴィルの身体を抱き締める事しかできなかった。
「シヴィルッ!!
愛してるっ!!
愛してるんだ、シヴィルッ!! 」
シヴィルが急に叫んだ。
「いやああああーーーっ!! 」
シヴィルの眼から涙が溢れ出した。
シヴィルはありったけの力を籠めてオレの身体を引き離そうと暴れ出した。
オレは必死でシヴィルの身体を捕まえていた。
このまま離してしまったら、もう二度とシヴィルを抱き締める事ができない様な気がした。
「シヴィルッ!!
シヴィルッ!!
オレだよ!
リュシアンだ!
リュシアンだよ! 」
一瞬シヴィルの動きが止まった。
「リュシアンだ
リュシアンだよ! 」
「リュシアン……………………? 」
オレがシヴィルの身体を抱き締める腕に力を込めるとシヴィルはオレの眼を見詰め声を上げて泣き出した。
いつまでもオレの身体にしがみついて泣き続けるシヴィルを、オレは力強く抱き締める事しかできなかった。
「もっと泣いていいよ
辛かったろ
ごめんね、早く打ち明けていればシヴィルの苦しみをオレが受け止めてあげられたんだ」
オレは小さな子供をあやす様に、オレの胸に顔を埋めて泣き続けるシヴィルの背中を撫でた。
「卒業したら結婚しよう
そしたらもう、忌まわしい夜は来ない」
シヴィルは大きな眼でオレの顔を見詰めた。
「今までの分、オレがきっと倖せにするから」
オレはそっとシヴィルの頬を濡らす涙を親指で拭って口付けた。
シヴィルは眼を閉じた。
シヴィルの手がオレの背中に回されシャツを握り締めた。
長い時を掛けてシヴィルに根を生やす狂気………………。
今にも破裂しそうなシヴィルの狂気をいつか癒す事ができるだろうか。
何を弱気になってる?
癒してみせる!
読んで下さり有り難うございます。
私、糖尿病になりました。笑
糖尿病って、倖せ病だなって私は思うんですよ。
だって食べたいものたらふく食べてなる病気ですよ。
酷い悩みとかあったら、食欲とか無くなるから食べられなかったりするじゃないですか。
酷い悩みも無くて、食べたいもの食べられるだけのお金もあって倖せですよ。
そして結果として、糖尿病になる。
ああ、自分倖せだったんだなあって思いました。
それでは、また明日。




