二つのサプライズ
読んで戴けたら嬉しいです。
プロムは最高に盛り上がっていた。
将来ダンサーになると言っているウィリー・バークレーとキンバリー・ジョンソンが中央でグレイトなダンスを披露し、校長までもが恰幅のいい身体を揺すり踊り出していた。
ライブもいよいよ終盤だ。
オレは言った。
「そろそろ、アレを演りたいんだけど、みんなの意見を聞きたいと思うんだ
みんなを代表してレジーナ、意見を言ってくれないか」
レジーナは悪戯っぽく笑って言った。
「まだ焦らすつもりなの、リュシアン」
「おっとー、ミスプレジデントは待ちくたびれて、おかんむりのようだ」
フロアから笑い声が湧いた。
「処でみんなに知らせたいニュースがあるんだ
オレたちのバンド、レベルアゲインストはMRCと契約を結んだ」
アメリカきっての大手レコード会社との契約のニュースでフロアは沸きに沸いた。
オレは叫んだ。
「聴いてくれ!
サプレス! 」
イントロが始まると同時に、みんな興奮して拳を振り上げ始めた。
オレはギターを掻き鳴らし吠える。
この国で起こり得る直ぐ傍の不幸を。
オレは訴える。
この国の歪んだ抑圧を。
そしてオレは叫ぶ。
「日常の抑圧!
社会の抑圧!
人種の抑圧!
犯罪の抑圧!
フロムユナイテッドステイツアメリカ! 」
みんなのクラップと叫びが一つになってプロム会場内が破裂しそうな勢いで響き渡った。
「サプレス」の演奏が終わって、オレは暫くみんなの興奮が冷めるのを待った。
それからオレは言った。
「実はもう一つ、みんなに聞いて欲しい曲が在る
それは、オレが初めて書いたバラード
聴いてくれ
独人の少女…………………」
オレは熱の籠った眼でシヴィルを見詰めた。
切ないメロディーを爪弾きながら、月の下をシヴィルの小さな手を引いて、ここではない何処かを目指して夜通し歩いた事を想い出していた。
「独人の少女
キミに恋をした
独人の少女
彼女は孤独
独人の少女
雷鳴が聞こえる
オレたちは月が綺麗な夜旅立った
ここでは無い何処かへ
傍に居て
決して離さないで、この手を……………
オレだけのただ独人の少女
キミが心を失くしても
いつでもオレはここに居る
キミが笑顔を取り戻すまで
オレはおどけ続ける
独人の少女
キミは恋をした
独人の少女
その男は
独人の少女
キミしか映せない」
やっと再会して、愛し合うようになって次第にシヴィルの笑顔が増えて、必死にここまで登り詰めて来た。
本当のシヴィルの笑顔を見る為に。
いつでもオレの人生の中心にシヴィルは存在していた。
身体で愛し合う事はできなくても、シヴィルが倖せなら、オレはそれでいい。
オレにはそれが今、できる事に最高の喜びを感じてる。
だからシヴィル、そんなに泣かないで……………。
「何を犠牲にしても愛し続ける
海の壁が断ち阻んでも
心はそこにある
決して忘れたりしないで………………
オレだけのただ独人の少女
キミのコンパスが狂っても
いつでもオレは傍に居る
キミが行く先を想い出すまで
オレは手を繋いでいる
例えキミがオレを解らなくなっても
迷わない様に抱き締めている
そしてまた、最初から恋を始める
キミが心を失くしても
いつでもオレは傍に居る
キミが笑顔を取り戻すまで
オレはおどけ続ける」
もう直ぐだ。
もう後少しでオレは本当の意味でシヴィルを守る事ができる。
もう直ぐだよ、シヴィル。
もう直ぐでシヴィルはオレだけのシヴィルになる………………。
「キミのコンパスが狂っても
いつでもオレは傍に居る
キミが行く先を想い出すまで
オレは手を繋いでいる」
オレは最後の一音を響かせるとステージを降りて、雨みたいに涙を零してるシヴィルの前に進み出て言った。
「来て…………………」
オレは手を差し伸べた。
シヴィルはボロボロ泣きながら、そっとオレの手に手を重ねた。
オレはタキシードのポケットから、シヴィルの瞳と同じ色をしたエメラルドの指輪を出してシヴィルの薬指に嵌めた。
口笛とヒューヒュー言う声が聞こえた。
オレは、驚いてオレの顔を見詰めるシヴィルを抱き上げステージに上がった。
「リュシアン…………………?」
そしてオレは、みんなに言った。
「リュシアン・エヴァースミスとシヴィル・ウィスフィールドは今ここに婚約を交わした!
ここに居る総ての人に証人になって欲しい! 」
フロアから拍手が沸き上がり、ブラボーと言う歓声が轟いた。
誰もが皆、笑顔でオレとシヴィルに惜しみ無い祝福の拍手を贈ってくれた。
オレはシヴィルに言った。
「聞こえる?
みんながオレたち二人を祝福してるんだ」
シヴィルはオレの首にしがみついて言った。
「夢なら消えないで……………………」
「大丈夫、消えたりしないさ……………」
祝福の拍手はいつまでも止む事無く鳴り続けた。
読んで下さり有り難うございます。
残す処、後一話になりました。
25話だったのですが、一話だけ凄く短いのがあって合併させたんです。
結果、24話になりました。
長い様な短い様な。
いつの間にか、後一話。
ここまで、お付き合いして下さった皆様、有り難うございます。
m(_ _)m




