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硝子の肖像  作者: 楓 海
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上昇

 読んで戴けたら嬉しいです。

 二万枚ほどプレスされたCDを、とにかく近辺の州の学生主催のラジオ局に持って行っては売り込んだ。


 ジールの考えではまず「サプレス」をカレッジチャートでチャートアクションを起こすと云う事だった。


 学生主催のラジオ局は気に入れば無名だろうとヘヴィーローテーションで曲を掛けてくれる。


 アメリカのチャートに多大な影響力があるカレッジチャートに反映されれば、レコード会社に売り込んだ時、有利に話を進められると云う訳だ。


 ネットにも「サプレス」を演奏するライブ映像をアップした。


 各地のラジオ局からレベルアゲインストの「サプレス」はオンエアされ、「サプレス」はうなぎ登りにカレッジチャートを駆け上がった。


 それを踏まえてジールはレーベル会社に売り込み、レベルアゲインストは小さなレーベル会社と契約を結ぶ事になる。


 お陰でオレは学校に通うどころの騒ぎでは無いほど忙しくなった。


 各地のライブイベントやラジオ局に出演し、「サプレス」のプロモーションに追われアメリカをあちこち飛び回った。


 レーベルと契約する事によってマーケットは広がり、「サプレス」はやがてビルボードでチャートアクションを繰り広げる事になる。


 シヴィルとは毎晩電話で話しているが月単位で逢えなかった。


 オレが傍に居ない分シヴィルが心配だったが、レジーナが支えてくれていて、電話では相変わらずレジーナのお惚気(のろけ)を聞かされた。



 時は巡り、久し振りに行った学校では、女の子たちがプロムの為の、ドレスの生地選びの話に夢中だった。


 廊下でシヴィルがレジーナと話しているのを見掛け、近付くとやはり話題はプロムの事らしい。


「シヴィルはリュシアンと行くんでしょう?

 ドレスはもう決めたの? 」


「リュシアンはきっと無理だと思うの

 バンドの方がとても忙しそうだから………………」


「誰が無理だって? 」


 オレはそう言って後ろからシヴィルを抱き締めた。


 シヴィルは驚いて振り返った。


 オレを見ると輝くような笑顔で、オレに抱き付いた。


「リュシアン!

 こっちに帰ってたの?

 夕べの電話では、(しばら)く帰れないって言ってたのに! 」


「驚かそうと思って内緒にしてたんだ」


「嘘つき! 」


 シヴィルは両手で拳を作ってオレの胸を叩いた。


 レジーナは眉を上げた。


「私、シヴィルが知っているものと思って敢えて言わなかったけど、知らなかったのね

 そんな事なら教えてあげれば良かった」


 オレはシヴィルの耳もとに囁いた。


「放課後、いつもの処で待ってる」


 シヴィルは嬉しそうに笑った。


 オレは久々のシヴィルの笑顔が(まぶ)しくて、とろけそうになった。


 授業開始のベルが鳴って、シヴィルと別れた。


 教室に向かって歩いているとレジーナが言った。


「リュシアンの居ない間に児童福祉士がシヴィルの家に訪問したんだけど、シヴィルは虐待の事実を認めなかったみたい」


「シヴィルはウィスフィールドの立場が悪くなる様な事は言わないだろうな」


「そうね…………………」


 すれ違った女の子がオレを見て言った。


「リュジー・スミス、カレッジチャートナンバーワンおめでとう! 」


 オレは笑顔で手を上げた。


 それを見てレジーナは言った。


「堂に入ったものね

 有名になって行く感想はどう? 」


「いい気分だよ

 成功すれば、シヴィルをあの悪魔の家から堂々と連れ出せるんだ」


「プロムはどうするの? 」


「勿論、白馬の馬車でお姫様を迎えに行くさ」



 放課後、いつもの場所で待っているとシヴィルは息を切らせて現れ、オレの胸に飛び込んで来た。


 シヴィルはオレを見上げ、顔を覗き込むと言った。


「なんだか、とても大人っぽく見える」


「毎日、大人に囲まれてるからね」


「リュシアンが有名になって行くのは嬉しい

 でも時々、リュシアンが遠くへ行ってしまいそうで怖い」


「オレが遠くへ行く時はシヴィルも一緒だ」


 そう言うとシヴィルは嬉しそうに笑った。


「もう少しの辛抱だ、シヴィル

 もう少しでシヴィルはエヴァースミス夫人だ」


 シヴィルは答える代わりに頬をオレの胸に摺り寄せた。


 シヴィルが急に静止したからオレは心配になって俯くシヴィルの顔を覗き込んだ。


「どうしたの? 」


 シヴィルはオレの眼を遠慮がちに見て言った。


「ジール、困って無い? 」


 オレは直ぐにピンと来た。


「借金の事かい? 」


 シヴィルは(うなず)いた。


「大丈夫、レーベルとの契約金でジールの借金は全部返済したから」


 シヴィルは安心した様に笑った。


「それよりもプロムだ 

 最高のプロムにしなくちゃね

 キングとクイーンは勿論、リュシアン・エヴァースミスとシヴィル・ウィスフィールドだね」


「リュシアンは欲張りね」


 シヴィルは嬉しそうに下口唇を噛んで倖せそうに笑った。



 新人の登竜門とも言えるフェスティバルが行われ、オレたちは急きょロスに飛んだ。


 三万人を越える野外ライブでオレたちは演奏した。


 三万人の眺めは壮観だ。


 しょぼい演奏をすれば、中身入りの缶ビールが飛んで来る。


 こっちも命懸けだ。


 他の出演バンドにも負けない最高の演奏を見せつける必要がある。


 オレたちはギリギリまで力を出しきって演奏した。


 ラストの曲は勿論「サプレス」。


 ジールの野太いドラムに合わせ、オレは両手を(かか)げクラップさせサビを叫んだ。


「日常の抑圧!

 社会の抑圧!

 人種の抑圧!

 犯罪の抑圧!

 フロムユナイテッドステイツアメリカ! 」


 そして三万人の民衆は手を掲げクラップさせて一緒に叫んだ。


「日常の抑圧!

 社会の抑圧!

 人種の抑圧!

 犯罪の抑圧!

 フロムユナイテッドステイツアメリカ! 」


 オレはステージを駆け回り民衆に訴える。


 三万人のクラップと叫びが晴れた大空に響き渡る。


 その時、ステージと民衆は一体化して一つになった。


「日常の抑圧!

 社会の抑圧!

 人種の抑圧!

 犯罪の抑圧!

 フロムユナイテッドステイツアメリカ! 」


 演奏が終わり、オレたちがバックステージに引っ込んでも三万人の合唱は鳴り止まず、レベルアゲインストのシュプレヒコールは暫く続いていた。


 高揚が収まらないオレたちに一人のスーツを着込んだ男が近付いて来た。


 男はオレたちの前に進み出ると言った。


「素晴らしい演奏だった

 わたしはMRCの取締役をしているマイケル・ミラーと言う者です

 是非、うちの会社と契約して戴きたい」


 MRCと言えばアメリカの有名な大手のレコード会社だった。





 読んで戴き有り難うございます。

 

 私は今、眠くて死んだ眼をしてます。死

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― 新着の感想 ―
[良い点] 頑張れ、リュシアン。 そして、楓海様、おやすみなさい。
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