もどかしくて
読んで戴けたら嬉しいです。
あれは今年の春の事だった。
夜中に眼を覚まして、どうしてもシヴィルに逢いたくなって、オレはベッドを飛び出して服に着替えた。
こっそり家を出るとシヴィルの家まで猛ダッシュした。
夜風はまだ冷たくて、走って火照った身体を心地よく冷やす。
シヴィルのママはシヴィルがまだ小さな時に病気で神の国へ旅立った。
オレはシヴィルの部屋が見える樹に登って二階にあるシヴィルの部屋を見た。
そしてオレはカーテンの隙間から、それを目撃してしまった。
ウィスフィールドが裸のシヴィルの股間に顔を埋めているのを。
シヴィルの眼には涙が零れている様に、オレには見えた。
オレはあれから何度もシヴィルを連れて家出を図った。
その度に連れ戻され、困り果てたオレの両親はイギリスに居る親戚の家へとオレを預けた。
シヴィルにさよならすら言わせて貰えなかった。
イギリスの、アメリカ英語とイギリス英語の違いや異なる風習よりも、こうしている瞬間もシヴィルがウィスフィールドの玩具になっている現実がオレを苦しめた。
この瞬間もシヴィルは泣いているんだ。
そう思うと一日一日がもどかしくて仕方無かった。
電話や手紙で両親を説得しようとしたが、全く取り合ってくれない。
ある日、苛ついて学校で問題を起こしたオレを、世話になっているテイラー夫妻が夕食後、リビングに呼んだ。
リビングの戸口に突っ立っているオレにテイラーさんは言った。
「リュシアン、何をそんなに焦っているんだい? 」
オレは黙っていた。
「君はいい子だよ
学校の成績も悪く無い、家の手伝いもよくする
ただ、とても怒りっぽいね」
「ジョン・レノンみたい」
そう言ってテイラー夫人は笑った。
「このレスポールを君に預けようと思う」
そう言ってテイラーさんはソファーの陰からギターを取り出した。
オレは驚いて眼を見開いた。
「君には、あり余るエネルギーを傾ける何かが必要だと私たちは判断したんだが、試してみないかい? 」
オレは余りに寛大なテイラー夫妻に、言葉を失くしていた。
レスポールと共に部屋に戻るとベッドに腰掛け弦を弾いてみた。
確かに焦るとろくな事が無い。
焦った末、シヴィルから遠ざかる事になってしまった。
オレは少し冷静になる必要があった。
その日から、オレはギターに打ち込んだ。
ただ大人になるだけじゃ駄目なんだ。
シヴィルを正当にあの家から連れ出すには、それなりの肩書きが必要だ。
それをどうやって手っ取り早く手に入れればいいのだろう?
労働者階級の人々が住むイーストエンドの連中とバンドを組んで、週に一、二度ロンドン周辺のライヴハウスで暴れ回る様になった頃、母さんから長い手紙が届いた。
それは父さんが家を出て行ったと云うものだった。
あれほど苦労して両親を説得してきたオレはあっけ無いほど簡単にアメリカに帰る事になった。
読んで戴き有り難うございます❗
これから先は長いですが最後までお付き合い戴けたら倖せです。
最近、古い洋楽のCDを、安かったので大量に買って聴いてます。
この作品を書いてる間中、洋楽が聴きたくなって仕方無かったです。笑
一話目とラストはマンガでできていましたが、それだけでは余りにあっさりし過ぎているので、この部分からラストシーン前までは、ひたすら創作。
苦労しました。笑




