対決
読んで戴ければ倖せです。
市長の運転する車に乗っている間、シヴィルとオレは無言だった。
オレはウィスフィールドに逢って謝らなければならない。
気分は最悪だった。
シヴィルの家が見えて来ると、車が止まるまでシヴィルは自分の家をじっと見詰めていた。
「オレも謝りに行くから…………………」
シヴィルは驚いた様にオレを振り返った。
「大丈夫、余計な事は何も言わない
ただ、謝るだけだから」
シヴィルは不安そうにオレを見詰めた。
車を降りてチャイムを鳴らすと、ウィスフィールドは直ぐに出て来た。
ブロンドの髪をオールバックに固め、シヴィルと同じ緑の眼をしたウィスフィールドはシヴィルを見ると言った。
「シヴィル、入ってなさい
わたしは彼に話がある」
「パパ、リュシアンは…………………」
ウィスフィールドはシヴィルの言葉を遮った。
「大丈夫、少し話すだけだから」
シヴィルはオレを振り返ると心配そうな視線を向けて、家の奥に入って行った。
ウィスフィールドは、ちらりとオレの後ろに止まっている車を見てから、オレを見て言った。
「お前だったのか……………………」
「……………………………」
オレは軽蔑を籠めた眼をウィスフィールドに向けた。
ウィスフィールドは静かに言った。
「シヴィルはとても真面目な子で、親に嘘をついて学校を四日も休むような子じゃ無かった」
オレはいきなり言われて返す言葉が浮かばなかった。
「お前はいったい何がしたい?
舞い戻ったと思ったら、真面目なシヴィルに学校までサボらせて
また、シヴィルを振り回す気なのか」
「それは………………」
「シヴィルに纏わり付くのは止めろ
お前の都合でシヴィルを惑わせるのは止めろ
わたしとシヴィルの細やかな生活を乱すな
無遠慮に割り込んで荒らすのは止めろ」
オレはウィスフィールドを睨み付けた。
「割り込まなければならない原因をアンタが作ってるんだ」
「わたしは何時でもシヴィルに寛大だ
そして、わたしは親としてシヴィルを守らなければならない
お前の様な危険物資からだ」
ウィスフィールドは忌々しそうに指をオレの胸に突き立てた。
オレは言った。
「アンタがシヴィルを苦しめているのが解らないのか
オレが支えているから、シヴィルは笑っていられるんだ」
「お前にシヴィルの何が解ると言うんだ
母親が死んでから娘の面倒を見て来たのは、このわたしだ
お前は何をした?
ふらりと現れて徒にシヴィルを連れ出し、振り回しただけだ
お前がした事は親に嘘をつかせ、通うべき学校へ行かせなかった」
「アンタこそ、シヴィルの何が解る
シヴィルは苦しむ余り、精神を病んでいる
アンタがそうさせてるんだ」
「わたしが何をしたと言うんだ
お前は自分の欲求を満たす為に、市長の娘にまで嘘をつかせてシヴィルを連れ出した
自分のやった事を冷静になって考えてみろ
誰が悪い
わたしはシヴィルに学校をサボらせる事も、友達に嘘をつかせる様な事もしていない
それをしたのはお前だ」
オレは眼光に力を籠めてウィスフィールドを睨んだ。
「尤もらしい事をいってるが、アンタはシヴィルに何をしている
自分の娘に、人に言えない事をしているだろ
そのせいでシヴィルの心は壊れかけている
アンタの欲求を満たす為にシヴィルが、どれほど苦しんで来たか、アンタは考えた事はあるのか」
「まだ、そんな言いがかりを付けて来るのか
そう騒ぎ立てているのはお前だけだ
実際、誰もお前の言う事など信じなかった
昔も今もだ
ただの高校生の言う事と、社会に貢献している大人の言葉と、どちらの言う事が民衆に受け入れられるのか、よく考えろ」
後ろから車のドアが閉まる音がした。
「やあ、夜遅くすまない
君がシヴィルの父親のウィスフィールドくんだね
私はレジーナの父の、市長をしているフォードだ」
フォード市長はウィスフィールドの前に進み出ると手を差し出した。
「フォード市長……………………」
ウィスフィールドは驚いて握手するタイミングが遅れた。
「いえ、お逢いできて光栄です
フォード市長」
ウィスフィールドは慌ててフォード市長の手を握った。
「今回の事は娘のレジーナと、このリュシアンが考えてやった事らしい
娘を持つ父親として君の怒りは理解できるが、シヴィルとリュシアンは心から愛し合っている
君も若い頃に経験したろう
若さと云うものは待ったが利かない
だがリュシアンは誠実な青年だ
今回の事は若気の至りと云う事で、大目にみてはくれないか」
ウィスフィールドは爽やかに笑ってフォード市長に誠実な視線を向けた。
「勿論ですよ、フォード市長
わたしは理解ある父親です」
「君なら、そう言ってくれると思っていたよ
それで明日、校長には承諾の上だったと? 」
「ですが、こんな事を何度も繰り返されては収拾が付きません」
「それに付いては彼も反省している
リュシアン、そうだろ? 」
フォード市長はオレを振り返った。
フォード市長に言われては仕方ない。
オレは頷いた。
「だ、そうだ
どうだろう…………………? 」
フォード市長は笑顔を貼り付けたまま少し鋭い眼でウィスフィールドを見詰めた。
「今後、この様な事が無ければ、わたしは同意しますが」
「それは良かった
これで三人は停学を免れそうだ
前途有望な若者に理解を示すのは、我々大人の大事な役目ですからな」
フォード市長は高らかに声を上げて笑った。
「では、これ以上遅くなっても何なので、我々は失礼するよ
ウィスフィールドくん、明日は宜しく頼む」
フォード市長は再びウィスフィールドと硬い握手をすると、踵を返し車に乗り込んだ。
オレは勝ち誇った笑みをウィスフィールドに向けた。
ウィスフィールドはオレを睨み付けていた。
オレが車に乗り込むとフォード市長は車を発進しながら言った。
「こんなもので、どうだい? 」
オレは笑って言った。
「ジャベリンをぶっ放した気分ですよ」
読んで戴き有り難うございます。
皆様、コロナウィルスが蔓延してますが、大丈夫ですか?
こんなに大事になって、心配が尽きませんね。
手洗い、うがいを忘れずご自愛下さい。
皆様が、感染などしないように心から祈っています。




