何も起こらない
読んで戴けたら倖せです。
モーテルに戻ったオレとシヴィルをまた、気まずい空気が包んだ。
オレは気まずい空気を振り払う様に言った。
「シヴィル、話し合おう」
シヴィルは毅然として言った。
「今は止めよう
リュシアン、この三日間眠って無いもの」
「いや、今じゃなきゃ駄目だ
このままだと、シヴィルを失いそうで怖いんだ」
「リュシアン…………………」
シヴィルの顔が微かに微笑んだ。
「シヴィルを愛してる
その気持ちは少しも変わらない
変えようがないんだ
それがオレの当たり前だから」
シヴィルは祈る様に手を組みオレを見詰めるから、オレはシヴィルに近付いて抱き締めた。
「抱き締められるだけでオレは倖せだから
シヴィルが傍に居てくれるだけで倖せなんだ」
それは本当だった。
確かに痩せ我慢もあるけど、それでもシヴィルを失うより辛い事なんて無かった。
シヴィルは暫くの間、オレの胸に額を押し付けていたが、ゆっくりと腕をオレの背中に回した。
「本当にいいの? 」
「じゃあ、アレちょんぎったら信じてくれる? 」
シヴィルは驚いてオレの顔を見上げた。
暫く見詰め合っていると、どちらからとも無く笑い出して、オレとシヴィルは抱き合ったまま笑った。
その後、オレとシヴィルはベッドの上で抱き合いながら少しの間眠った。
帰りはジールとノヴァが交代で運転した。
ジールが運転したらノヴァが眠り、ノヴァが運転するとジールが眠った。
レジーナの家に着く頃には深夜近くなっていたが、車の音を聞き付けてレジーナが慌てて外に飛び出して来た。
オレがトラックを降りるが早いかレジーナは言った。
「大変な事になったの
リュシアンとシヴィルが一緒なのがウィスフィールドさんにバレた」
シヴィルは思わず小さな声を上げた。
オレはシヴィルの肩を抱いた。
「レジーナ、詳しく教えて」
オレたちはレジーナの家に上がり込んで話を聞いた。
さすが市長の家、家具や調度品がゴージャス。
広いリビングのL字のソファーに座るとレジーナは話し始めた。
「四日も休むのに、何の連絡も学校に入れないから先生から家に電話が行ったのよ」
オレは座っていたソファーに仰け反った。
「そうだった、忘れてた」
ジールが言った。
「リュジー、そりゃまずったな」
レジーナは続けた。
「学校から電話が来たってウィスフィールドさんから私に電話が来た
どう云う事なんだって
私からは事実を伝えるしかなかったの
随分、穏やかな物言いだったけど、あれは可なり怒ってるみたいだった」
オレはすかさず言った。
「だろうね」
レジーナは言った。
「明日、学校に行ったら間違いなく二人共、親が呼ばれて校長室行きね
私も呼ばれる」
「済まない、レジーナ
キミには迷惑掛けるよ」
レジーナはそれどころじゃ無いと云う様にシヴィルを見た。
「シヴィル、大丈夫?
顔色が真っ青よ」
オレもシヴィルを見た。
隣で座っていたシヴィルは自分の肩を抱き、今にも倒れるんじゃないかと思われるほど顔色が悪かった。
「シヴィル……………………」
オレはシヴィルを抱きな寄せた。
「ワタシ、どうしたら…………………
また、取り上げられる
大好きなオモチャも…………………
レジーナも………………
リュシアンも……………………」
シヴィルの呼吸が乱れ始めた。
オレはシヴィルを抱き締めた。
「大丈夫だよ、シヴィル
オレはウィスフィールドになんか負けない」
シヴィルは握った手を口元にあてて低く唸り始めた。
身体をガクガクと震わせ、定まらない視線が空を泳ぐ。
「どうしたの、シヴィル!? 」
レジーナは驚いて立ち上がった。
ジールもノヴァも心配そうに見守っている。
「シーーーーー
大丈夫だよ、落ち着いて
キミの怖い事は何も起こらないんだ
何も起こらない」
「いやあああああっ!! 」
シヴィルは叫んでオレの腕から逃れようとした。
オレはきつくシヴィルを抱き締めた。
「シヴィル!
オレが付いてる!
しっかりするんだ!
オレはもう決してキミを置いて何処へも行ったりしないから! 」
急にジールとノヴァが立ち上がった。
「どう云う事なの、レジーナ!
説明してちょうだい! 」
その声に振り返ると階段の踊場にフォード市長夫妻が立っていた。
「いやあああああっ!! 」
シヴィルは喉が張り裂けんばかりに叫んだ。
「シヴィルッ!! 」
シヴィルはオレを視界に捉えると、オレの腕の中で気を失ってしまった。
読んで戴き有り難うございます。
今日はエルヴィス・コステロを聴いてました。
若い頃は若かったせいか地味で、あんり好きじゃなかったんですが、今聴くと目茶苦茶いい❗
歳とったんだなあ、自分。




