ごめんなさい………………
読んで戴けたら倖せです。
朝、レジーナの家にシヴィルを迎えに行くと、シヴィルは山の様な荷物を引き摺ってレジーナと現れた。
オレは挨拶も忘れて言った。
「シヴィル、どうしたのその荷物!?」
シヴィルは汗ばんだ額を手の甲で拭いながら言った。
「四日も家を離れるからって考えたら、あれもこれもって…………」
レジーナが肩を竦めて言った。
「シヴィルは凝り性なのよ」
オレは言った。
「ハイ、レジーナ
協力してくれて有り難う」
「ええ、プロムが今から楽しみよ」
トラックに凭れていたジールが進み出て言った。
「プロムは任せてくれ
俺はジール
リュジーのバンドでドラムを叩いている」
ジールが手を差し出すとレジーナは応えた。
「ハイ、ジール
よろしく」
「こっちはベースのノヴァだ」
トラックの傍で仁王立ちしているノヴァをジールは親指で示した。
ノヴァは手を差し出しながら進み出て言った。
「やあ、素敵なお嬢さん
お目にかかれて光栄です」
レジーナはそれに応えた。
「こんにちは
レジーナ・フォードよ」
すかさずオレは突っ込んだ。
「相変わらず、女の子には愛想がいいんだな」
ノヴァは、当たり前だと云う様にオレを見てニヤッと笑った。
オレはシヴィルにいいとこ見せようと、シヴィルの荷物を肩に担いだ。
う、重すぎる!
いったい、何が入ってるんだ?
オレは涼しい顔で笑って荷物を、レンタルしたトラックの荷台に載せたが、内心は腰が折れるかと思った。
「後の事は安心して私に任せて」
レジーナと車の窓越しに握手を交わすと、トラックは発進した。
運転席にはジール。
その隣にノヴァ、シヴィル、オレとぎゅうぎゅう詰めで並んで座ったが、気分は最高だった。
少なくともこの四日間、シヴィルの悪夢な夜は訪れない。
数十マイル離れたアナザーシティーまで、ほぼ半日車を走らせ、着いた頃には太陽が随分傾いていた。
それでもオレたちは直ぐレコーディングスタジオに入り、ジールのドラムセットを運び込んだ。
シヴィルもオレのギターやノヴァのベースなんかを運ぶのを手伝ってくれた。
スタジオに落ち着くと途中で買ったビールを開け乾杯した。
勿論、シヴィルはジュースで。
オレはソファーに座って指を組み言った。
「できれば、ラップのバックみたいにシンプルな音でヴォーカルを乗せたいんだ」
ジールが頷きながら言った。
「音数が少ない分、歌詞が際立つな
だが、音数が少ないって事は、可なりいい音を出さないと、ショボくなるぜ」
シヴィルが話の邪魔にならない様にそっとオレの隣に座った。
「それはミキシングで、どうにでもなるんだろ?
もっとも、そんなのに頼らなくても、オレたちはいつもいい音を出してる」
ノヴァがにやりと笑った。
「エンジニアはレコーディング経験者の俺とノヴァにまかせてくれよ
取り敢えず今日はドラムを録る」
オレはジールの吸っていたタバコを取り上げて言った。
「さすがタフガイだね」
ずっと黙っていたシヴィルが言った。
「タバコはダメよ、リュシアン
身体に悪いよ」
「え? 」
シヴィルはオレの手からタバコを取り上げるとジールの手に戻した。
ジールとノヴァが笑い出した。
「ママは厳しいな、リュジー」
オレは頭を掻いて笑うしか無かった。
ドラムを録り終えると、その日は移動でみんな疲れているだろうと言う事で、各自モーテルで休む事にした。
オレたち四人はレストランで食事を済ませ、モーテルに着くと宛がわれた部屋に、オレはシヴィルの物凄い荷物と自分の荷物を四苦八苦しながら運んだ。
モーテルの部屋に入ると、二人きりになったシヴィルとオレは一気に緊張した。
「取り敢えず、汗かいたろ
シャワーでも浴びたら」
オレがぎこちなく言うとシヴィルは大きなバッグを開いて着替えやらを持ってバスルームに入って行った。
オレは深い溜め息をつくと、シヴィルの荷物をベッドの上に運んでから自分の荷物を開いた。
多分、シヴィルも意識しているんだと思う。
オレは単純にシヴィルと愛し合いたいと思っている。
シヴィルがそれを望んでいるのなら、最高の夜にしたい。
シヴィルがそれを望んでいるのなら。
バスルームからドライヤーの音がして、暫くしてシヴィルがTシャツとホショートパンツ姿で出て来た。
オレはベッドに寝転がり、テレビを観ながらポテトチップスを食べていた。
「シヴィルも食べない? 」
オレが言うとシヴィルはホッと安心した様に笑って、ベッドの上の荷物を開き始めた。
何と無くだけど、オレを見ない様にしている気がする。
何だか、この空気はくすぐったい。
しかし…………………………。
「シヴィル!
その本の山は何? 」
シヴィルが鞄から次々と本を出し始めてオレは驚いて訊いた。
「えーとね
読み掛けの小説とか、四日分の授業の教科書と、で、これは急に読みたくなったら困るなあって持って来た小説たちとレポートの資料、
それから絵の本
これが傍に無いと安心できなくて……………………」
道理で重い筈だ。
「シヴィル
レコーディングスタジオで勉強する気なの? 」
「だって、授業に遅れたら困るでしょ
昨日、レポートの宿題も出てるし」
オレは呆れて瞳を回した。
「シヴィルぅ、レポートをスタジオでかくの? 」
シヴィルは困った顔をして言った。
「いけなかった? 」
オレは溜め息をついて言った。
「オレもシャワー浴びて来るよ」
振り返るとシヴィルは眉間に皺を寄せて教科書を見ていた。
オレは首を振って笑い、バスルームに入った。
オレがシャワーを浴びて出て来るとシヴィルは、車の長旅で疲れたのだろう、ベッドの上を本だらけにして教科書を持ったまま、壁に凭れて眠っていた。
オレは、これでは眠りずらいので本をひとまとめにして床に置き、シヴィルが手に持っている教科書をそっと取り上げてナイトテーブルに置いた。
それからシヴィルの隣に脚を伸ばして座り、シヴィルの肩を抱いた。
ふわりといい匂いがした。
シヴィルがゆっくりと眼を覚まし、寝ぼけて掠れた声で言った。
「リュシアン
ワタシ、上手く愛し合えるか不安なの」
「無理しなくていいよ」
「でも、上手く愛し合えたら倖せよ」
シヴィルはオレの頬に指で触れて、オレに口付けた。
何度も口唇を重ね合わせて行く内に、オレは身体が熱くなるのを感じた。
そっと舌を絡ませるとシヴィルは不器用に応える。
だんだん興奮して行くのが自分でも解る。
ずっと夢見ていた事だった。
イギリスに居た頃、派手に女の子と付き合っていたのは、シヴィルとこの日を迎える為だった。
シヴィルに最高の夜をプレゼントしたかったから……………。
シヴィルを抱いた手を背中に這わせてキスに熱が籠って行く。
シヴィルはオレにしがみついてシャツを握り締めていた。
シヴィルの首筋に口唇を這わせた。
シヴィルは感じているのだろうか?
オレはシヴィルの顔を見た。
シヴィルは怯え切った眼でオレを見ていた。
瞳を震わせて、下口唇を噛んでいる。
そして、口唇をほどくと消え入る様な小さな声で言った。
「ごめんなさい……………………………」
オレは、それが総てだと思った。
読んで戴き有り難うございます。
だいたい、半分来ました。
これからもリュシアンとシヴィルを暖かく見守って戴けたら、嬉しいです。
この「硝子の肖像」も、大分昔に描いたマンガなのですが、何故マンガを描くのを辞めたかと言いますと、頭悪くてパースの取り方が取得できなかったんですよお。(T△T)
背景のパースの消失点とか、それ専用の本を買ったりしたのですが全く解らなくてですね、断念するしか無かったんです。涙
母ちゃん!
何でもっと頭のいい子に生んでくれなかったんだよおおおっ‼️
そもそも数学、赤点と零点しか取った事無い私が図形書ける訳も無くなんですよ。
とほほほほ。




