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事件

教室の時間はまるで歩みを止めたかのようだった。次郎の片腕でフクの両腕は封じられている。

身動きの取れないフクと目があって、次郎は次の行動を考えた。


――ジェム。


そうだ、ジェムを持っているか確かめなくては。


油断なくフクと目を合わせたまま、右手だけでそのシャツのボタンを乱暴に外す。どの冒険者もジェムは胸に埋め込まれている。それは外典の輩も例外ではない。


フクのはだけた衿から、真っ白い胸元が覗いた。白いレースに縁取られたその胸の谷間に…………


ジェムは無かった。


次郎の目が揺らいだ。ジェムが無い?では自分を狙ったのはスキルでは無かった?それなら何を使って傷を負わされたのだ?


――いやそもそも。


ここに至って次郎は初めて事態に気付く。


無人の教室。

男に組み敷かれた涙目の女子生徒。

その服は乱れて、柔肌はふるふると白く震えている。


「わああ!」


次郎は叫びを上げてフクの上から飛び退いた。


「す…すまん!福来!誤解した!」


ジェムが無い以上、フクは暗殺者ではない。仮にそうだったとして証拠もない。


――つまり自分は劣情を催し、教え子を姦淫しようとした教師そのもの。


フクはのろのろと身を起こし、無言のまま服を整えている。乱れ髪に表情は隠されていて、その心情は読めない。


 華奢なその肢体に改めて、次郎の胸がズキズキと傷んだ。こんな女子生徒のどこに自分を害する力があるというのだ。


「だ、大丈夫か?怪我はないか福来?」


近寄ろうとした次郎に、フクがビクリと震えた。

それを見た次郎が動きを止めると、フクは立ち上がり自分のカバンを拾い上げて早足で教室を出ていく。


後ろ手でドアが閉められ、次郎だけが教室に残された。


西日も沈みかけ、夕暮れは宵闇に追われつつある。

薄暗がりの中で、次郎はがっくりと膝をついた。


――愚か者。


次郎の煩悶の夜はこれからだった。


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