いきなり仲間が死んでいた、どうしよう
「メイル、この街を出た方がいい」
オルグナが真剣な顔で訴える。
「…そう見えますか」
グノーの教育で、娼婦に対する忌避感が無くなっていたのは自覚していた。
「グランドドラゴン討伐がいい機会だ」
「わかりました。わたしもこの街に未練はありません」
「そうか」
少し黙った後。
「…正直、俺のわがままもある。お前に乗れば俺が儲かる。だが、そういった欲とは別に、お前が娼婦として生きるのはどうしても違うと思ってしまうのだ」
「わたしもそのつもりです。わたしはキャラバンを率いたい。自由に生きたい」
「わかった。手を貸そう。おまえさんには恩がある。必ず成功させよう」
このあとグリー兄弟にも声をかけたが
「もちろんだ」
「よろこんで、いくだよ」
二つ返事で了承をもらった。
そして、魔法ギルドに連絡をし、前回の二人に声をかけようとしたが
「…死んだ…?」
「ああ。つい、この前だが」
ミリアムさんが亡くなった。
「ドラゴンスレイヤーとして名を馳せたあとに、オーガーバスターになった。そして、イフリートを退治しようとして返り討ちにあった。というわけだ」
「イフリート…大妖精」
妖精族なんて動力攻撃にはもっと相応しくない相手だ。
なにしろ、亡骸が残らない。
霧散してしまうのだ。
妖精に動力があるのかどうかなんて、だれもわかっていない。
ニールも妖精は無理だと早々にあきらめていた。
「…なんで、そんな無茶な相手を…」
「ドラゴンを倒して、オーガーを倒したんだぞ。彼女の名声は一気に頂点にたった。それは魔法使いの最大の敵、妖精族にも向けられるだろう」
つまり、調子に乗ってしまった。
ということだろうか。
自分が祭り上げられてしまう。
正直恐ろしい。
わたしはグノーの教育で、劣等感めいたものを植え付けられた気がした。
結果的にそれが、ドラゴン殺しの高揚感をいい意味で遮ったかもしれなかった。
「…ミリアムさんはわかりました。エノームさんは」
「ああ、彼女ならすぐ捕まる。彼女だけでいいのか?」
いや、まずい。エノームさんは遠距離攻撃は不可能だ。
「いえ、ミリアムさんとまでいかなくとも、遠距離で氷攻撃できる方をお願いしたいです」
「…ふーむ、探してはみるが」
「今回は前金で百金出せます」
「そうか、それなら大丈夫かな」
「それと私たちは識都に向かいます、識都で待ち合わせしたいのですが」
「わかった。そう伝えるよ」
準備はできた。
ニールは既に識都で待機している。
向かおう。
識都。華やかだが、荘厳な雰囲気。
ここには大図書館が存在する。
ニールはここにいるのだ。まずは情報からだ。
「ニール」
「よう、メイル」
ニールは相変わらず本を読みながらおざなりな対応。
「まずは残りのお金」
400金を渡す
「…これだけもらって、準備は大丈夫なのか」
「ええ、後は魔法ギルドで合流するだけ」
「既に3体めぼしいのを見つけた。予定通りグランドドラゴン。次にスネイクドラゴン、そして」
言葉を区切り
「アイスドラゴンだ」
「アイスドラゴン!?」
思わず聞き返す
「氷属性では?それとブレスは」
「疑問はもっともだ。そして、その説明は難解を極める。まずは二体を滅ぼしてからにしよう」
「わかりました」
ニールの言うことだ。信じよう。
魔法ギルドに向かった。
「メイルです。バルカーノのギルドからの紹介できました」
「…メイル…、ああ、氷魔法の依頼だね。ウン、どうぞ」
中に案内される。
「前金百金って聞いたんだけど」
「どうぞ」
持ってきた金を見せる。
「ふむ、問題ありません。それで
人数ですが、ご要望の人材は一人しかおりませんで」
一人か。大丈夫だろうか。
前回がうまくいったから今回も大丈夫では、ミリアムさんの二の舞になりそうな気がする。
扉を開けると
「…はい?この娘がクライアント?」
その魔法使いは、わたしを見て呆然としていた。
やはりニールに来てもらった方が良かった。わたしのような小娘には信頼などない
「初めまして。メイルともうします。前回グリーンドラゴンの討伐を行いました。今回はグランドドラゴンを狙います。通常の討伐ではなく、遠距離からの特殊攻撃となります。」
「ま、まって。わたしは遠距離の氷魔法は打てるけど」
「特殊なやり方があるのです。まずは獣で試してみたいのですがよろしいですか?」
「え、ええ。まあ、試しはね」
森に行き、ミリアムさんと同じようにやってもらった。すると
「…はあ?こんなやり方あったの…?」
その魔法使い、ネクリさんはその手応えに感激と言うよりも怯えているようだ。
「こ、こんなの、暗殺しほうだいじゃない…」
ああ、言われてみれば。
全然気づかなかった。
「ドラゴン相手ですから。それ以外にはやらないです」
「まあ、そうよね」
「この知識も商売道具ですから。ご自身が使われるならともかく、あまり人には」
「わかったわ。んで、もうちょっと練習するね」
しばらく見守っていたが
(まずいかも…)
不安がよぎる。
ミリアムさんほど正確ではないのだ。
結構な割合で失敗している。
「…あの」
「…ちょっと、このまますぐじゃやばいかも。数日くれない?」
向こうから言い出してくれた。
「もちろんです。それと、他にお知り合いいらっしゃいませんか?同額出しますよ」
「…うーん…まあ、一人いるよ。」
「本当ですか!?」
「ただ遠いんだよ」
「遠距離の会話と転移はお願いできませんか?もちろん、お金は払います」
時空魔法は難易度が高い。
一回当たりにかかる金が平気で百金はする。
しかも対象は一名。
キャラバンとかには使えない。
魔法ギルドの呼びかけも遠距離会話を使って、各街に届けられる
「…全部で150金はかかるよ?」
「しかたありません」
「…まあ、わたしも呼んでもらった方が気が楽かも。手続きするね」
ニールの知識はこの段階では穴だらけです。
彼なりに一生懸命頑張ってはいますが。
ミリアムは優秀な魔法使いでしたが、ネクリは相当に劣ります。
100金の価値は無く魔法ギルドに掴まされたわけですが、この段階ではメイルは気づいていません。