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なんだか分からないことを叫ばれる気持ちになりやがれです

その人の第一印象は正直最悪だった。


隠しようがないほど、周りを下にみているのがありありとしていた。

でもわたしはお客さんに不愉快な思いをさせないのが仕事だ。


その人は旅客。キャラバンに帯同して目的地に行く。

道中、本を読むその人に、にこやかに話しかけた。


「あの、白湯飲まれますか?」

旅をする上で、水の確保は重要だ。

そのまま飲める水というものは少ない。

たいていは火を通して飲む。


「…ああ、置いておいてくれ」

喋った。初めて声を聞いた。

「文字、読めるのですね」

「こんなもの、誰でもやろうと思えばできる。読めない人間は怠惰なだけだ」


その人はじっとわたしを見た。

「文字は読めないのか」

「各地の看板とかで覚えています。ザリル語とアルベリア語とメルチェ語なら、文字と発音の比較程度なら…」

「そうか、その年で3言語か、まあまあだな」

その人は、少しうなづくと。


「世の中はバカばかりだ。なぜ、これが、こうなるのか。という原理原則を知ろうともしない。原理原則を知るためには本は必須だ。知識の積み重ねの成果なのだから。その本を閲覧するのに、なんでこんな苦労をさせる必要があるのか。馬鹿ばかりだ」

喋ると止まらないタイプ。


この人馬鹿しか言ってない。

「原理原則ですか」

こういう人の相手も、結構していた。

大抵は、その人がこだわっていそうなことを重ねて聞けば喜んで喋ってもらえていた。


「そうだ。獣の中でも、明確に人間に牙をむく魔物と呼ばれるものたちがいる。あまたの冒険者が魔物に挑み、殺し、殺されている。だが、その魔物の研究を冒険者はしているのか」

研究?首をかしげた。


「魔物にはそれぞれの特性がある。弱点ともいえるな。有名なのは炎に弱い魔物とかな」

なるほどと頷いた。

「だが、その程度の話で終わってはならないのだ。魔物の動いている動力はなんだ?どこだ?」

「…動力?」

聞きなれない言葉だった。


「そうだ、動力だ。しっているか。人間は大量の血を失えば死ぬんだ。人間は常に血が身体の中で巡っていなければ死ぬ。そして大事なのは、その血を循環させている動力があると言うことだ」


難しい話。半分もわからなかった。

「その動力をつぶせば人は死ぬ。他の部位でも死ぬが、そこをつぶせば即死だ。魔物も同じようにあるんだ」

そうなんだ。


「その、部位だけ、攻撃できれば、簡単に倒せると」

「そうだ。とはいえ対策は必要だな。人間だって動力は骨に守られている。普通に戦って狙えるものではない」

滔々と話していた。


ふと思った。

「…動力さえ壊せば死ぬ」

「ああ」

「遠距離攻撃、魔法とかで正確に射ぬければ…」

「弓でも同じだが、普通は骨や固い皮で守られているのだ。直接攻撃はなかな…」

その人の顔が凍った。


「…まて、直接射ぬく?」


つぶやいたあと黙ってしまった。

一生懸命考えているらしい。


この日はずっと考え込んでいた。

私はいつもどおり、笑顔を意識しながら、キャラバンの雑用をこなしていた。


「嬢ちゃんは笑顔がいいね!」

「ありがとうございます!」

「そうだ、顔が笑った方がいい顔になるぞ」

隊長もニコニコしていた。


「拾ったときは氷みたいに冷たい顔をしていたがな。ここにきてから笑顔になってな。ずいぶんいい顔になった」

そうか、笑顔が原因だったのか。良かれと思ったことが裏目にでた。と思ったものだ。


「…動力、保護…だが」

その人はまだ考え込んでいた。

「…なにか、もう少しなんだ、なにかが繋がりそうだ。くそ、図書館に着けば資料は沢山あるのに…」

私はこの時、本当に何気なく言った。


「動力も凍るんでしょうか?」


深い意味などない。

なんとなく単語をつなげただけだ。


しかし、その反応は劇的だった


「動力…、こ、こおる!そうだ、魔法だ!氷の魔法だ!なぜこんな原理原則に気付かなかった!!!凍るんだ!動力を氷の魔法でピンポイントで凍らせれば…」


興奮して私に掴みかかった。

「い、いたい」

「お、おきゃくさん!?」

隊長から見れば、発作的に私を襲ったようにしか見えないだろう。


けれども、その人は一顧だにしなかった。

「だが、可能か?いや、実地だ。距離の問題さえ解決できれば…動力の場所さえわかれば無敵だ。やる価値はある」

独り言。


「そうだ、無敵だ。ドラゴンにすら勝てるぞ」


ドラゴン?ドラゴンにも動力が?

「ドラゴンの動力の場所ってわかるんですか?」

「ああ、というか、ドラゴンはな、その部位全てに価値があるから、一番体内構造が明らかになっているんだ。だから…」


私を掴んだまま話す。

「…ドラゴン、遠距離からの氷魔法…だが、安全か…?」

難しい顔。


「隊長、大丈夫です。この方は少し興奮されただけで」

「…そうか。しかし、お前もそろそろ良い年だ。身の振り方は考えた方がいい。キャラバンにいれば、なし崩し的に襲われるぞ」


そういうこともあるから、隊長は中級娼婦を勧めてくれていたのだ。

中級以上の娼館はキチンと管理される。


少なくとも意思関係なく襲われる事はない。

一方でキャラバンで襲われても殆どの場合は問題にならない。

立場は客や、他のキャラバンの人達の方が上だからだ。娼館の方が安全なのだ。


けれど、私の頭の中は、その人のプランでいっぱいだった。

二ールの言っている「動力」とは「心臓」のことです。

この時点では、臓器という存在は広く理解されていても、臓器の機能まではあまり知られていませんでした

理由は暗殺に使われるからです。意識的に伏せられていました。

これは特権階級と、古代語が読める知識層のみが知っている知識です。

それでも「氷魔法で局所的に心臓凍らせれば殺せるじゃん」という発想には誰もいたっていませんでした。

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