生き残るだけで大変なのです
かなり昔に書きなぐった作品のリファインです。
私は運がいい。
昔から、生まれたときからよく言われた。
私としてはとてもそうは思えない。
最悪を避けられていただけだ。
生まれた時、女だった私は『女などいらない』と間引きされるところだったらしい。
ところが、その直後、姉が急死。
働き手や売り手として生き残ることができた。
女の役割は大きくわけて二つ。
ひとつは誰かの妻。
もう一つは『娼婦』という商品。
顔が美しければ後者。そうでなければ前者。
わたしは前者だった。
しかし幼いうちは妻などなれない。
ひたすらに雑用の毎日だった。
男と女の差は激しい。
特に誰かの妻でない女の価値などない。
食糧が足りなくなれば真っ先に殺される。
文字通り食糧とされることすらあったと聞いた。
私が7歳になるまで、奇跡的に村は飢饉に襲われなかった。
奇跡。そう奇跡だ。
そんなことは、私が村を出る前も出た後も起きなかった。
私が出て行った直後にまた飢饉は襲いかかったそうだ。
たまたまその7年間にいたから生き延びられた。
これも幸運だと言われた。
そして7歳のとき、これが私にとっての最初の転機となった。
7歳にいたるまでで、私は女の人生のなんたるかを知った。
顔が良ければ売り飛ばされ商品とされる。
顔に特徴が無ければ奴隷のように働かされ(いや、正しく奴隷だ)誰かの『妻』になるまで耐え続ける。
『妻』となれば、夫の暴力に耐え、子をひたすら産み続ける、そんな人生。
顔は醜くとも売られた。
見世物として。
私は「可もなく不可もなく」悪くはない。良くはないが。
だから売られなかった。
そして私は憧れた。ある生き方に。
「冒険者」
男の人生も女とさして変わらない。
このような辺境の村の人生に輝きなどない。
しかし、例外があった。それが冒険。
冒険者となれば自由に世界を旅できる。
それを聞いたときに「やりたい!冒険者になりたい!」強く願った。
しかしそれは即挫折した。
女だから。というのもあるが、才能。
冒険者になるためには才能が必要なのだ。
常識外れの筋肉か、魔法の才能。
獣を狩るには常人以上の筋肉が必要となる。
もうひとつが魔法。
女の冒険者は例外なく魔法使いだ。そしてこれは鍛えてどうにかなるものではない。
素質。
生まれたときから備わった素質。
世界に1000人に1人の割合で生まれてくると伝えられている。
百人程度しかいないこの村では一人もいない。
そう、私もだ。
この段階で私は運なんて良くない。
運が良ければ魔法の才能だってあってもおかしくないでしょうに。
それでも私は諦めなかった。
この村にいても人生に光はない。
出ていかないといけない。
私には夢があった。
冒険者にはなれないだろうが、自由に世界を旅したい。
こんな村でずっと過ごすなんていやだ。
そもそも飢饉がおこれば、価値のない私は殺されかねない。
生き延びるためにも、私はこの村から出て行かないといけない。
キャラバンというものがある。
商人たちは、集団で移動するのだ。
獣から身を守るためもあるが、盗賊の害から身を守る方が切実だ。
こんな辺境の村にもキャラバンは来る。
私は人生最初の大勝負に出た。
「…本気かい?」
「お願いします!なんでもやります!掃除はもちろん、馬の世話、糞尿の処分、私は村でそういったことをやっています!お役にたてます!」
キャラバンの一員になる。
キャラバンは世界をめぐる。
ここに入るのが一番いい。
問題は
「女のキャラバンというのもあまりいないよ、道中は大変なんだ。村で過ごした方が幸せだよ?」
キャラバンは男がやるものだ。
重労働で体力が必要。寝ずの番もある。
体力勝負なのに女が混ざるということは、足を引っ張ることになりかねない。
「皆さんの邪魔はしません!ひたすら歩きます!使えないようなら売り飛ばしてかまいません!こんな顔ですが、多少の金にはなるはずです!」
キャラバンの隊長は困った顔をしながらも、思慮めいた顔つきもする。
「…君を引き取るとなれば、当然家の方に、いくばくかのお金を払うことになる。それが合わなければだめだ。私たちは公的なキャラバンだからね。勝手についてきたりしたら罰則が待っている」
「わかっています。家族に会ってもらえませんか」
「…前からそんなことをいっていたが…」
父には前から伝えてはいたが、馬鹿にされていた。
お前なんか買うやつはいないと。
「あまり金は出せませんが、彼女の熱意は本物です」
「まあ、買っていただけると言うなら…」
そのあと私は退出した。
いくら。というのを本人に伝えないほうがいいという配慮。良くも、悪くも。
その結果
「よし、じゃあ着いてこい」
私は希望通り買われた。
メイルは特に貧乏な村出身なのでこんな感じですが、他の街でも似たようなことは頻繁に起こっていました。間引きは日常的に行われている世界です。