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いつか来世で約束を 01  作者: 朱本来未
絶命因果編
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第003話 業務更新02

 今回の転生者に関する情報はなにかがズレていた。不確定な人的要素であるが故に生じた誤差の範疇と言えなくもないが、どことなく違和感を覚える。それを今あれこれと考えても仕方がないと思考を切り替えて今回の後処理を優先する。

 転生者から切断した四肢の方へと目を向けると私を遠巻きに警戒していた三頭の痩せ細った山犬たちが放置されていたそれらを貪り喰らっていた。

 彼らは私の視線に気付いたのか、食べかけの四肢を咥えて持ち去って行く。遠く逃げ行く彼らは転生者の肉体に内包されていた大量の魔法力を体内に取り込んだことで変貌を遂げ始めていた。

 人間の味を知り、絶大な力を得た彼らは遠からず下流の人里を襲撃するだろう。それは明白だったが、もはや私には何の関係もないことだと頭に着用していたバンダナを外して左手首に簡単には解けないように強く結び付ける。


「標的の駆除と野生動物の魔獣化を確認。リンナ、転送を」


 宙空へと向けて口にした任務完了の報告は凄まじい濁流の音に掻き消される。それでもきちんと音声は補足されていたらしく、ひとつ瞬いた直後には前回の標的を駆除した際に宿泊していた宿の一室へと戻って来ていた。


「おかえりなさい、おねぇさま。お風呂にする? ご飯にする? それともぉ……」

「リンナ。と答えたいところだけど、お風呂かな」


 これで通じるだろうかとも思ったが、リンナは理解していたようで「はーい」と即座に応じ、指をぱちんっと鳴らすと全身の汚れはきれいさっぱり消え去った。広い浴槽での入浴時ほどの開放感は得られないが、ここの環境下では充分過ぎるほどだった。


 それにしても新妻の真似事とはね。


「今回は、あっちの方も覗いてたのね。あんまり任務と関係のない観測はどうかと思うんだけど」

「関係なくないよ、私にとっても重要なんだから。それに今回だけじゃなく毎回見守ってるよ」

「任務中はかなり長いこと待つことになるから他の仕事でもしてるかと思ってたんだけど、そうでもないのね」

「私の仕事は、おねぇさまのサポートだから当然だよ」

「ふーん」

「それで、あのダンナ様はどうするの?」

「どうもしないよ。というよりもどうにも出来ないよね。私はもうあそこにはいないんだから」

「それもそっか」

「まぁ、放っておいても今頃は帰りの遅い新妻を探して嵐に見舞われた山中を駆け回ってるんじゃないかな」

「見てあげようか?」

「だいたい想像できるからいいよ、別に」

「そっか」


 山犬に食い荒らされ骨がむき出しになった誰とも知れぬ人体の一部と付近一帯にぶちまけられた薬草と空になったかごを見つけ、早とちりな彼は犠牲者が私だと勘違いして血の跡をたどって私の救出しようとするだろう。実際、過去に私が山犬に襲われて足を引きずりながら山中を逃げ惑っていたところを助けに来たのは彼だった。

 だけれど今回は相手は単なる山犬ではなく、魔獣化していて普通の人間の手には負えるとは到底思えない。彼が三頭の魔獣の第一犠牲者になるのは必定だった。


 なんにしても終わったことに関してあれこれと想像したところで無意味だと切り捨て、次の任務へと意識を集中する。


「それで次の標的は?」

「64日前の17時15分、ビィク岬から真西に2kmの沖合いだよ」

「船?」

「ううん、海上だよ」

「今回も次回も明らかに転生者が生命の危機にさらされる状況に放り込まれてるけど、向こうは何を考えてるの?」

「危機的な状況を演出してるのかなぁ」

「今回の転生者の能力なら濁流に巻き込まれたくらいじゃ死にそうにはなかったけど、随分と雑な演出ね」

「なにか他に目的があるのかも。次の転生予定者カナヅチみたいだし」

「そんな人間をいきなり海上に放り出したらパニックを起こして転生特典の能力を使うどころじゃなくて確実に溺れるよ」

「私もそう思うんだけど、実際に確かめてみるまでなんとも言えないよ」

「それもそうね」

「じゃあ、そういうことでってことで次回も何かいる?」

「麦わら帽子で」

「わかった。それでそれはまだ使うの?」

「今の所これが一番立ち回りやすいしね」

「りょーかい。それじゃ、また二日後にね。おねぇさま」


 どうやら今回は最後までキャラクターを演じきる気らしい。妹なのか新妻なのかよくわからないなにかを演じていた彼女に対して「はいはい」と投げやりな返答をしたが、それを受けとる前にリンナはさらりと姿を消していた。

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