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いつか来世で約束を 01  作者: 朱本来未
絶命因果編
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第001話 業務更新01

 返り血で汚れた衣類を脱ぎ、それで事切れた男の顔を覆い隠す。その瞬間を待ちわびていたかのようにノックの音が響く。


「終わってるよ」


 私の声に応じるように恐る恐るといった様子で扉が開かれる。扉向こうに居るのは日中に今しがた絶命した男に殴り飛ばされた大柄な男だった。

 

「姐さん、着替えをお持ちしました」

「どうも。これが今回の品だから勝手に回収してって」


 着替えを受け渡した男は胸元に大穴を開けられた屍を目にし、少しばかり渋い顔をした。


「さすがに無傷というわけにはいきませんでしたか」

「無駄に生命力があったものだから復活阻止も兼ねて仕方なくね。それでも他の部位だけで充分元は取れるだろ。これの性能に関してはお前も体感済みなんだしな」

「えぇ、それはもう骨身に染みるほどに」


 男は殴られたであろう箇所を大げさにさすってみせる。


「あー、それに関してはすまなかった。まさかここまで理性に欠けているとは想定出来ていなかった。多少の減額には応じるよ」

「いえ、金額はそのままでかまいません。むしろ増額でもかまいませんので、その……ご教授いただけないものかと」


 ねっとりとした視線が身体を這うのにうんざりとし、ため息を吐く。


「なんだ。不能になりたいのか?」


 蔑むように目を細め、そう告げる。すると男は途端に顔面を蒼白にして即座に否定した。


「滅相もありません。そうではなく業魔ごうまを見分ける特徴のひとつでもと」

「外見的な特徴はないとしかいいようがない。あれはそういうものだ。そもそも私がほぼ独占してやっている業魔狩りの商売敵を増やすことになりかねない情報を安々と教えると思うか?」

「ごもっともで」


 見え透いた言い訳に続く応酬を早々に切り上げると男は屍を回収して逃げるように部屋を出ていった。随分と怯えられたものだと苦笑いを浮かべ、今後の取引に支障がなければいいけれどと嘆息する。扉が閉まり、ひとり残された部屋で虚空に向けて「任務完了」と呟く。それからふた呼吸ほどをしてから天井を仰いで姿の見えない相手に話しかける。

 

「もう居るんだろ、リンナ」


 直後、なにもなかったはずの天井に染み付いた暗闇と視線が合う。そしてそこからじわりと少女にじみ出る。奇妙な出現をした彼女は重力を感じさせない動きでくるりと体勢を整え、ふわりと降り立つと額と額が触れ合う位置にまで顔を寄せ、にんまりと笑うと話が出来る程度に身体を離した。


「お呼ばれしたから出て来てあげたよ、感謝してね」

「ハイハイ。次の標的の場所は」

「ありがとうは?」

「ありがとう。で、場所は?」

「感謝が足りない」

「不足分は後で清算する」

「延滞分は追加請求するからね」

「で?」


 雑な対応にリンナはふてくされたように頬をふくらせてみせてから淡々と情報を告げる。


「2日後エイ渓谷上流第2蛇行点午前7時42分転生」

「前後の状況は?」

「転生時の天候は曇り。1時間半後には土砂降りに移行し、転生者は午前9時56分に濁流に巻き込まれる」

「8時半前後に介入するのが無難か」

「だったら中流の適当な位置で待ち伏せするといいよ」

「未来予知・精神感応・空間跳躍等の異能を取得している可能性は?」

「生前の人格的に限りなく低い」

「大体把握した。リンナ、私に五衰除けの加護を施してくれない」

「えー、まだ負債を精算してもらってないんだけど。そもそもなんで五衰除け?」

「リンナは嗅覚情報を取得してないだろうからわからないのは仕方ないけど、今の私って臭いんだよね。今回の標的対策で奴隷演じるためにわざと全身汚してたりしてるけどさ、ここ数日水浴びすらしてないから余計にね」

「ふーん。お風呂代わりに五衰除けの加護を使おうってことね。いいよ、それならこれは必要経費ってことで無料でサービスしてあげる」

「どーも」

「感謝が足りない」

「サービスなんでしょ」

「そういう問題じゃない」

「……茶番はもう充分でしょ」


 呆れたように言うとリンナは、ふっと表情を消した。


「まーね。今回はこれで満足だよ。このキャラクターは改善が必要ね、台詞の使い回しが多いもの」

「まぁ、そこがそれの肝なのかもね。次は清純派にでも挑戦したら?」

「演じて見せてもらったことあったかな?」

「どうだったかな。次の標的で試せそうなら試してみようか?」

「んー、次の転生者の人格から判断するに最善の選択かもしれないかな」

「そう。なら次回は薬草摘みの少女でも演じてみるよ。リンナのセンスでバンダナのひとつでも用意してくれない?」

「いいよ。似合いそうなの準備しとく」

「期待してるよ」

「存分に」


 その言葉を言い終えるのに合わせて指をぱちりと打ち鳴らすとリンナは暗闇の中へと姿を消す。そして彼女の残していった音が身体に染み入るとベタつく肌とぱさついた髪はスッキリとし、さらりとした清潔さを取り戻した。

 これでようやく着替えられると抱えたままになっていた衣類に袖を通した。

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