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 金を稼いでいるとわかると、それに群がる者がいる。


 最初は情報屋だ。

 情報を取り扱うだけあって、ゾルド達が何をしているのかを知っているからだった。

 そしてなによりも、彼ら自身の情報を使って獲物を探している。

 情報を探った相手が次々に財産を剥ぎ取られているのだ。

 馬鹿でも気付く。


「それで、今まで情報料が一件あたり20万エーロだったのが、200万になったってわけか」

「俺らが急に稼ぎ出したんで欲が出てきたんですよ。スラムの人間だからって舐めてやがる! やっちまいましょう!」


 情報屋との交渉役だったテオドールが、両手を机に叩き付けて怒りを表す。

 ようやく人生が上がり目になったのだ。

 その出鼻をくじくような真似を許せない。

 短絡的な解決方法をゾルドに提案してしまう。


「まぁ落ち着け。楽に稼げたのは情報屋のお陰だ。考えてみろ、貴族と付き合いのある商家に手を出してしまったらと思うと、ぞっとするだろ? それを考えると、200万くらいなら大人しく払ってもいい。……だが、面白くないな。払ってやるから、情報屋の元締めと話をさせろと伝えておけ」


 テオドールは複雑な表情をしたが、ゾルドの言葉を情報屋に伝えに出かけた。


(ここで支払いを渋って、偽の情報を流されるよりはマシだ)


 そう思って心を落ち着かせるが、ゾルドも心中は穏やかではない。

 テオドールの前だから、大物ぶって冷静なフリをしていただけだ。

 そうでなければ、感情のままに殺しにいくのに賛同していただろう。


「ノルド社長! 大変です、奴らが来ました!」


 テオドールの手下だった一人の若者が、ゾルドの元へ駆け寄ってくる。

 意識を高く持ち始めたテオドールと一緒に、レジーナやホスエから文字を教えて貰っているラウルだ。

 彼はコアラの獣人で、若いという事もあり動物的な可愛らしさを持っている。

 それと、数少ない”社長”と呼んでくれる人物だから覚えていた。


「報告する時は”どこの、誰が”来たのかをハッキリと言え」

「スラムに住む人間のグループです。40人くらい居ます」

「まったく、面倒だな」


 いつかはこの日が来ると思っていたが、情報屋の値上げ話しと同じ日というのが怪しい。


(値上げに了承しなければ、このまま他のスラムの奴に教えて嫌がらせをするという無言の圧力か? いや、それともこれくらいは切り抜けられるかどうかを試すつもりか? どっちにしろ不愉快だ)


 ここは、今後の事を考えてインパクト勝負。

 舐めた真似を、二度と考えられないようにした方が良いだろう。

 ゾルドは事務所内を見回す。


 基本的に5人1組の計4班が受取証にサインを求めたり、獲物探しに街中をうろついている。

 今はテオドールの班が事務所内にいるだけだ。

 そして一番強そうなテオドールは情報屋のところへ行っていない。

 他の奴等は戦力として計算できないだろう。


「オスエ、戦う準備をしろ。入口付近で待って、合図をしたら頭を傷つけないように殺せ。ラウル達は書類を机の中に入れて、机を事務所の端に運べ。レジーン、付いてこい」


 ゾルドは命令を出すと、事務所の外に出る。

 そこには、初めて会った時のテオドール達のように、身なりの汚い者達がいた。

 ドアを開けただけで臭ってくるので、もしかしたらもっと酷いのかもしれない。


「俺が社長のノルドだ。代表者はいるか?」

「俺だ」


 二列目にいた人間の男が、ゾルドの前に出る。


「何をしに来た?」

「ハッ、わかりきってんだろ。金だよ金。なぁ、みんな」


 男の声に合わせて、背後に居た者達が声を上げる。


「ペットを飼う金があるなら、人間様にも回せる金があるよなぁ?」


 男はニヤニヤしながら、ゾルドに正面切って金を要求する。

 テオドール達は獣人のグループだった。

 そして、この集団は人間のグループだ。

 種族ごとに縄張りとかがあるのかもしれない。


 獣人のグループだけ金を稼いで、人間が稼いでいないというのが不満だったのだろう。

 いや、もしかしたら金を強請る理由に使っているだけかもしれない。

 額に汗して金を稼ごうという努力をしない人間のクズを相手に、ゾルドは折れたりはしない。


「なるほどな。だが、ここはスラムに近いとはいえ平民の住む区画だ。中で話そう。もし、仕事が貰えると聞いて付いて来ただけの奴がいるなら、彼女のところに集まっておいてくれ。話が終われば仕事について話をしよう」


 ゾルドは入口横にレジーナを立たせ、真面目に働きたいという者のための逃げ口を作ってやる。

 今の商売は派手にやれないから、人手が多すぎても困る。

 だが、真面目に働きたいという気持ちのある少人数なら、雇ってやってもいいと思っていた。

 雑用係くらいはいても困らない。

 ゾルドは先に中へ入り、事務所の様子を見る。


「社長、机の移動が終わりました」

「ご苦労。それでは外に出ておいてくれ。危険があったらいけないからな」


 言われた通りにラウル達が出ていき、入口から集団が入ってくる。

 彼等はここが屠殺場だと気付いていない。

 大事にするのにビビって、ゾルドが折れたとすら思っていた。

 彼等が中に入ると、入口が閉められる。

 そして、その脇にはホスエが剣を腰に下げて立っていた。


「金を持っている割りに貧相なとこだな」

「そんだけ溜め込んでそうだな」

「まぁまぁ、皆さん落ち着いて」


 倉庫の奥側からゾルドが声をかける。

 20人が仕事をする場として、かなり余裕のある広さの倉庫を借りていたが、さすがに40人もいれば息苦しいように感じる。


「ここにいる皆さんは、仕事ではなくお金だけが欲しいんですよね?」

「そうだ!」

「働かずに金が欲しいんだよ!」

「これからもずっとなぁ!」


 倉庫内に男達の笑い声が響く。

 数が多いという事で調子に乗っているのだろう。

 前にはゾルド、背後にホスエがいるという事を理解できていない。

 テオドール達はゾルド達――正確にはホスエとレジーナ――の強さを感じ取っていた。

 獣人には、動物的直感があるのだろう。

 人間と獣人の差が、ここで致命的になって出てきてしまった。


「お前らは大人しく金を差し出してりゃいいんだよ」

「じゃあ、お前達は命を差し出してりゃいいんだよ。殺せ!」


 ゾルドは不遜な態度を取る男達に、不穏な言葉で返した。

 その言葉を合図に、ホスエが男達の首を次々に切り落としていく。

 ホスエにしてみれば、この集団を切る事にためらいはない。


 ゾルドが始めた商売であり、スラムの者達が真面目に働きだして成果を出し始めたところだ。

 それを邪魔する、ゆすりタカリの連中など、生かしておく価値は無い。

 さっさと片付けてしまう方が世の中のためだとすら思っていた。


「てめぇ! ……いやいや、なんだあいつは! おかしいだろ!」


 集団のリーダーがゾルドに掴みかかろうとした時には、すでに10人が切り殺されていた。


「凄いだろ? 正直、俺も驚いている」


 神教騎士団と戦っているところは見たが、チンピラ相手だとここまで素早く殺せるとは思ってもみなかった。

 試しに腕相撲をした時、ゾルドはホスエに勝てたので、単純な力ではホスエに負けはしない。

 だが、戦いではまったく勝てそうな気がしない。

 工場の流れ作業でもしているかのように、黙々と首を刎ねていく。


 ゾルドは努力を積み重ねてきた男の実力を見せつけられた。

 それに触発されて”よし俺も!”と、目の前にいる男の股間を蹴り上げる。


「ヒギィ!!」


 ゾルドの脚力で股間を蹴られた方はたまったものではない。

 睾丸が破裂し、悶絶しながらその場に崩れ落ちる。

 あまりの痛みに、気絶する事も悶え苦しむ事もできなかった。

 ただ、股間を押さえながら痛みに耐えるだけだ。


 突然の殺戮劇。

 ほとんどの者が足がすくんでいる内に、ほぼ全員切られてしまった。

 逃げようにも倉庫の入口は一か所。

 他には明かりを取り入れるための天窓だけだ。

 倉庫の隅に逃げようとした者も、すぐに追い詰められて死んでいった。


「終わりました。ゾ……、ノルド社長」


 ホスエは仕事中にゾルド兄さんとは呼ばない。

 仕事とプライベートは分けて対応するようにしている。


「悪いが、こいつの首も切り落としておいてくれ」

「構いませんが、首をどうするんですか?」

「見せしめに使うのさ」



 ----------



「オェェェ」


 ラウル達、テオドール以外の班員はゾルドに駆り出されていた。

 事務所にいたせいで、先ほどのグループの縄張りに、見せしめを飾らされているのだ。

 これには、真面目に働きたいとレジーナの元で待っていた三人の男も含まれている。

 雑用係の晴れやかなるデビューだ。

 色鮮やかな赤と茶色で彩られたステージで、お披露目中だ。


「服が血で汚れようが、ゲロを吐こうが気にするな。後で綺麗にしてやるし、特別報酬も出すんだから頑張れ」

「そうは言っても……」


 人間の腸を壁に釘で打ち付け、その腸に生首の髪をくくって晒し首にしている。

 パーティの輪飾りを飾る気分で、ゾルドも率先して飾り付けている。

 そのせいで、他の者は放り出して逃げるという真似ができない。


「いいか、何事も最初が肝心なんだ。俺達に手を出したらどうなるか、それを思い知らせるんだ。映画……。いや、本ではこれが有効だって書いていたからな」

「でも、真っ昼間からこれをやるのはどうも……」


 スラムにまで衛兵はめったに来ない。

 だが、近隣の住民に遠巻きに見られるというのは、なんだか落ち着かない。

 後ろめたい事をしているから、なおさら気まずい。


「人に見られるのが良いんじゃないか。広めてくれるんだからな。ほら」


 ゾルドはマジックポーチから腸を取り出して渡す。

 最初は本人も気持ち悪がっていたが、今では慣れたものだ。

 どうせ洗浄の魔法で綺麗になると、開き直っていた。

 それに服も平民用の物だ。

 気持ち悪いと思えば捨ててしまえばいい。


「ほら、そこ。サボるな。さっさと済ませりゃ、嫌な時間はすぐ終わるぞ。腸詰めウィンナーの美味い店があるから、帰りに一杯奢ってやるよ」

「オエェェェ」


 今は人間の腸で飾りをしている最中だ。

 こんな時にそんな事を言われたら、今後腸詰めウィンナーを食べる時に思い出して食えなくなってしまう。

 ゾルドの人望がイマイチなのは、どこか近寄りがたい雰囲気を持っている事だけではない。

 時折見せる、どこか感覚のズレた冷酷な一面が皆に一歩引かせるのだ。


 初めての顔合わせでスラムのメンバーを殺したのはホスエも同じだ。

 だが、穏やかな性格をしているので、今では親しまれている。

 テオドール達がホスエに文字を教えてもらっているのは、同じ獣人だからという理由だけではなかった。


 ちなみに、レジーナもスラムのメンバーに姐さんと親しまれている。

 愛想は悪いが、意外と面倒見が良いからだ。

 もっとも、本人は結局”姐さん”と呼ばれるようになって、少し不機嫌だが。


 この世界の環境、文化の違いの差は大きい。

 そのせいで、ゾルドは部下の人望を得にくいのだろう。

 そう、全ては社会が悪いのだ。

親知らずをヌいて痛みで書く時に集中できません。

読んでくださっている方には申し訳ございませんが、おそらくこれから1週間か2週間程度は更新が遅くなると思います。

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