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 マリーと遭遇後、ローゼマリーが狼狽していた。

 自分のせいで、俊夫がマリーに対してあんな事を言ってしまったと思っていたからだ。


「申し訳ございません。私のせいでゾルド様にご迷惑を……」

「いいんだよ、ローゼマリー」


(この国しかないわけじゃない。プローインとかいう国もある。そちらと友好的な関係を築けばいい)


 俊夫はすでに新しい国に思いを馳せていた。

 失敗した国にこだわっていても時間の無駄だ。

 今まで俊夫が詐欺にかけてきたように、交渉に失敗したら引きずったりせずに新しい場所へ向かう。

 それが契約数を稼ぐ基本だ。

 いつまでもくよくよしていても、何も変わらない。

 行動あるのみだ。


「細かい事は気にしなくていいだろう。まぁ、なんとかなるさ」


 俊夫の言葉に、ローゼマリーは呆気に取られたような顔をする。


「ゾルド様はとても胆力がある方なんですね」


 そういって、ローゼマリーはクスリと笑った。

 しかし、胆力があるというよりも、考える事を放棄しているだけだ。

 その事は褒められたものではない。


 二人は気を取り直して、美術館での鑑賞を楽しんだ。



 ----------



 問題は帰る時に起こった。


 久しぶりに美術館に来たローゼマリーが楽しそうにしていたので、俊夫もそれに付き合ってゆっくり鑑賞していた。

 俊夫が、ふと腕時計を見ると昼を大分過ぎている事に気付いた。

 そこで昼食にしようと俊夫が提案して美術館を出た時、派手な出迎えがいた。


「そちらの方、一緒に来て頂けますか」


 先ほどマリーと共にいた護衛の1人がいた。

 20人ほどの兵士を連れて、美術館の前で俊夫が出てくるまで待っていたようだ。

 ご丁寧に馬車まで用意している。


「殿下からランチのお誘いかな?」


 笑みを浮かべる俊夫に、ローゼマリーは顔を青ざめさせて首を振る。

 ランチのお誘いなどではない事は、マリーとの別れ方でわかっているはずだった。


「呼び出されているのはあなただけです、ゾルドさん。それとランチのお誘いではありません」


 俊夫は名前を呼ばれた事に驚いた。

 館内を回っている間に、ホテルに確認を取っていたのだろう。


「そうか、それは残念だな。ローゼマリー、先にホテルに戻っておいてくれ」

「ゾルド様、大丈夫ですか……」


 心配そうな顔をするローゼマリーに、俊夫は優しく微笑みかける。


「大丈夫だ。昼食は先に食べておいてくれ。夕食は一緒に食べよう」


 俊夫は待たせていた馬車にローゼマリーを乗せると、ホテルへと向かわせた。

 そして俊夫は用意されていた馬車に乗る。

 対面にはマリーの護衛が座り、逃げないように監視していた。


「良い度胸していますね。この後どうなるのか不安なのでは?」

「殺すつもりなら、もう殺してるだろ。少なくとも、呼び出した者は話をしようとしているはずだ。それが死刑宣告だとしてもな」


 護衛は俊夫の肝の据わり方に圧倒され、思わず唾を呑み込む。


 なぜ、ここまで俊夫が堂々としているのか。

 それは神教騎士団の指輪の存在が大きかった。

 俊夫は使える物はなんでも使う。

 それが、敵対組織の権威であろうとも。

 俊夫はそっと、指輪が入っているローブの内ポケットのある辺りを押さえる。


 そう、ローブの内ポケットに指輪が入っている。

 そしてローブはホテルのクローゼットの中だ。


(あっ、ヤベッ)


 俊夫は心の中で慌てふためく。


「身分を証明する物をホテルに置いてきたんだが、一度ホテルに寄ってくれるか?」

「大体の事はわかっていますので、大丈夫ですよ」


(こっちが大丈夫じゃねぇんだよ!)


 表面上は変わりがない。

 しかし、その内面は先程の言葉とは打って変わり、刑場へ運ばれる死刑囚の気分だった。



 ----------



 連れて来られた場所は、城にある庭園だった。 

 俊夫を連れてきた男が道中にした説明では、これは非公式での面会となる。

 だから、城の中の応接室などではなく、庭園で偶然出会ったという形式にしているそうだ。

 俊夫を裁くだけならば、こんな面倒な事をしなくてもいい。

 

(お小言だよな? 生意気な事言いやがってとか、そういう内容であってくれ)


 手元に切り札が無い俊夫は弱気になっていた。


 単純な力なら、負けるつもりはない。

 だが、首都の城に配備されている兵士だ。

 オストブルク内での精鋭が配備されているだろう。

 戦闘の得意な者が大勢いる事を考えれば、逃げる前に殺されるかもしれないと心配してしまう。

 それでも、精一杯の見栄を張って怯えを隠していた。

 怯えているという事を相手に知られると、交渉をするにあたり不利になるからだ。


「お連れしました」


 たどり着いた先は、庭園で少し背の高い生垣に囲まれた場所だった。

 そこにあるテーブルに、2人の人間が座って待っていた。

 1人はマリー。

 もう1人はマリーとよく似た顔付きの年配の女性だ。

 おそらく母親だろう。

 食後のティータイムだろうか、2人は優雅に紅茶を楽しんでいた。


 ――俊夫が来るまでは。


 マリーは俊夫の姿を見ると、椅子から勢いよく立ち上がり何かを言おうとするが、それを母親が落ち着かせて、また椅子に座らせた。


「マリア皇后陛下とマリー皇女殿下です」

 

 俊夫の耳に、護衛がそっと耳打ちする。

 つまり、目上の相手だから挨拶しろという事だ。


「お初にお目にかかります。ゾルドと申します。何分にも冒険者でございますので、無礼な振る舞いが御座いますでしょうが、何卒ご容赦くださいますようお願い申し上げます」


 以前、ヒスパンでマヌエルと会った時のように、先に無礼を働いた時の予防線を張る。


「本当に失礼な人よね!」


 だが、それはマリーに取っては逆効果だったようだ。

 すでに無礼な振る舞いをされているマリーからすれば、何をいまさらという気分だろう。

 それに対して、皇后マリアは笑みを張りつかせたままだ。

 他の感情を見せない事が不気味に思えた。


「さぁ、お掛けになって」


 マリアの言葉に合わせて、マリアの正面の椅子を執事が引く。

 そして俊夫がその席に座ると、メイドが紅茶を注いでくれる。


(何が狙いだ?)


 俊夫からすれば、この状況は不可解だ。

 呼び出して罵声を浴びせかけ、鞭打つ。

 それくらいの事はしてくると思っていたのだ。

 客人を招いたかのような対応に、俊夫は戸惑う。


「あなた、ゾルドっていうのね」

「はい、そうです」

「美術館でマリーに失礼な事を言ってくれたそうね」

「皇女殿下とは知らず、失礼な事を申したと慚愧の念に堪えません」


 そこでマリアはジッと俊夫の目を見る。

 交渉事で目を逸らすのはあまりよろしくない。

 俊夫は申し訳なさそうな顔をしたまま、見つめ返す。


「何か理由はあったの?」

「殿下が私の連れに”魅力が無い””体で男を釣る”と侮辱なされましたので、ついムキになってしまいました。皇女殿下とは知らなかったとはいえ、女性に言うべき事ではありませんでした」

「マリー、本当の事なの?」

「だ、だってあれはローゼマリーが――」

「マリー」

「ごめんなさい、お母さま」


 マリアの視線に負け、マリーが謝罪する。

 だが、マリアはそれに満足するというよりも、安堵の表情を浮かべた。


「そう、そういう事なら良かったわ。ゾルド、あなたには他の意図はなかったのね」

「他の意図とは?」

「マリーを挑発する事をきっかけに、ガリア王家との婚姻を妨げようとするとか」

「滅相も無い」


 大きく首を左右に振り、そんな恐れ多い事考えていないということを示す。

 俊夫は、ただ”ブサイクが生意気な事を”と思っただけだ。

 国家間の婚姻問題なんて知るはずもなかった。


「では、ローマは関係ないの?」

「ローマですか?」


 マリアの言葉が、俊夫は理解出来なかった。


「あなたはローマの関係者なのでしょう?」

「さて、何のことでしょうか」


 マリアは何を言っているのか。

 俊夫にはさっぱり意味不明だった。

 ここでローマが出てくる理由がわからない。


「最近ミラノ公国でクラーケンが現れたそうね」

「みたいですね」

「大きなクラーケンで、オストブルクでもその素材を買い取ったわ。そして、クラーケンを倒した人物の情報もね」


 そこでマリアは一口、紅茶を口に含んだ。


「クラーケンを倒したのは、魔神信奉者のような恰好をした男。そして、事件発生から2週間ほどしてからウィーンに、その魔神信奉者のような恰好をした男が現れた。ミラノから来るにしては遅い。事後処理で時間がかかったのかしら?」

「何の事でしょう?」


 俊夫はクラーケンを倒した事など覚えていない。

 そして1週間ほど眠っていた事も。

 マリアが何を言いたいのか、様子を見る事しかできなかった。


「とぼけるのね。でも、あなたの事は大体わかっているのよ」

「何をでしょうか?」

「ポート・ガ・ルーで最初に魔神発見の報告をしたのは、あなたよね。姿恰好と名前の一致がしているわ」


 この時、俊夫はピクリと体が反応し、動揺が表れてしまった。

 それを見て、マリアは満足そうに続ける。


「そしてヒスパン。あの国はオストブルクと緊密な縁戚関係にあって、フアン王子の婚姻問題にも深い関心があってね。アサーニャとモラ、双方に監視をしていたのだけど、アサーニャ側のホセという男と接触したわよね。そこからアサーニャと面会もしている」


(アサーニャって誰だっけ)


 俊夫は真剣に思い出そうと考える。

 マヌエルと言われれば思い出せたかもしれないが、一度会っただけのNPCのフルネームなど覚えていない。

 だが、話の流れ的に”覚えてません”というのはマズイ気がする。

 どうしようかと迷い、考え込んでいる俊夫の姿が”やはり、この事は事実なのだ”とマリアに勘違いさせた。


「そしてその後、船でローマへ。10年もの間、歴史の表舞台に立たなかったのに、なんでクラーケンが現れた時に出てきたの?」


”海底に沈んでいました”


 例え俊夫が沈んでいた事を覚えていても、そんな事は言わなかっただろう。

 誰も信じないからだ。

”ロードが終わったら、10年後でした”というのも無理だ。

 それはユーザー側の都合で、NPCには関係ない。


 とはいえ、俊夫も何か言わないといけないような気がしている。

 だが、マリアが何を聞きたいのかイマイチわからない。

 マリアが何かを警戒しているようにも思える。

 適当な事を言ってお茶を濁そうとしても、それが逆鱗に触れては意味がない。

 今は苦笑を浮かべ、肩をすくめるだけしかできないのだ。


「魔神を発見し、要人に接触するあなたは一体何者なの?」

「……一介の冒険者ですよ」


 魔神ですと素直に白状して、味方に付いてくれとお願いできればどれだけ楽だろうか。

 当然ながら、そんな事はできない。

 冒険者だと言うのが精いっぱいだ。


 俊夫は紅茶を一口飲む。

 ここが警察署の取調室じゃなくて良かったと、俊夫は思った。


 以前、俊夫が取り調べを受けた際に――


”白状する前の奴に飲ませるお茶は無い。お茶と一緒に、吐きそうになっている言葉を飲み込んでしまうからな”


 ――という無茶苦茶な論理で飲み物を貰えなかった。


 それに比べて、ここは良い。

 暖かい日差しの下、柔らかい香りの紅茶を飲めるのだ。

 こんな状況で無ければ、景色を眺めながら楽しんでいただろう。


「嘘ね。本当に一介の冒険者なら、ミラノ公王直筆の身分証明書なんて貰えない。――あなた、神教庁の関係者でしょ。それも、噂になっている魔神探索の任務に就いているという騎士団員」

「えぇぇぇ」


 マリアの言葉にマリーが驚きの声をあげる。

 周囲の執事やメイドといった者達も、驚きは隠せない。

 話の邪魔をしないように声を上げないところを見ると、よく訓練されているようだ。


 このマリアの問いのお陰で、俊夫の疑問は溶けた。


(なんだ、宗教関係者だと思っていたのか。深読みし過ぎだろ、このババア)


 神教庁の関係者だと思われたから、こうして無事にテーブルに付けている。

 おそらくさまざまな情報を集めて精査する内に、勘違いしてしまったのだろう。

 俊夫が使っていた”魔神探索をしている神教騎士団員”という嘘も、どこからか混ざっているようだ。

 今まで積み重ねてきた嘘が、ここで役に立つとは思わなかった。


 マリアが勘違いしているとわかったので、俊夫は安心した。

 理由もなく、客人のような扱いをされている方が落ち着かないのだ。


「答えられる立場ではありません」


 俊夫は、わざとこう答えた。

 肯定するのでも、否定するのでもない。

 問いに答えられないという、ヒントを与える。

 物事を深読みするような相手には、これで十分効果的だ。


「そう、否定はしないのね」

「ッッッ!?」


 マリアの言葉に俊夫は”しまった!”という表情をした。

 当然ながら、これは演技だ。

 しかし、それがマリアの考えに確信を持たせる。

 図星を突かれた時のような反応を見せて”やはりそうなのだ”と思わせた。


 これらの演技は、俊夫が営業マンとして働いている時に身に付けた。

 相手が”やっぱり、そうなんだ”と思いたい方向へと、思考を誘導する。

 この演技のお陰で大分稼がせてもらった。

 芸は身を助けるというやつだ。


「でも、なんで今ウィーンに来たの? 婚姻の邪魔をしに来たんじゃないならば、そこのところを教えて欲しいのだけれど」


 マリアの問いに、俊夫はしかめっ面をする。

 そして、渋々といった感じで話し始めた。


「そこの君、名前は」

「私ですか? クルトと申します」


 俊夫は近くにいた騎士に名を聞いた。

 周囲の者達は、何を始めるのかと様子を見守る。


「そうか。では、クルト。少し目を瞑って想像して欲しい」

「はっ」

「今、君は王宮で騎士として働いている。それはとても名誉な事だ。では、配属先が変更されたらどうだろう」


 クルトは目を閉じたまま、軽く首を傾げる。


「下町で小さな魔物が発見された。しかも、それは非常に危険な魔物だ。君は一人でその魔物を探しだせと下町に送り出された。ここまででどう思う」

「私ならやれると信じて送り出された事を、誇りに思います」


 そうクルトが胸を張って答えたのを確認すると、そうだなと呟き俊夫は続ける。


「だが、その魔物はどこにいるのかわからない。魔物を探すために下町のドブをさらい、泥に塗れ安宿で暮らす毎日。それが何年も続く。それも、いつ終わるのかもしれないままに。そんな状態に君は耐えられるか?」

「わかりません。ですが、重要な任務であれば成し遂げるまで諦めません」

「そうだな。だが、休みもなく毎日続けるという事はとても大変だ。泥を洗い落とし、正装して良いホテルに泊まる。そして美女に囲まれて、世俗の垢を落としたくなる。たまの休みくらいは遊びたい、そう思わないか?」

「まぁ、少しは……」


 俊夫は魔神の捜索をドブさらいに例えた。

 世間一般の魔神に対する感情を考えれば、それくらいした方が良いだろうと思ったからだ。

 俊夫とクルトのやり取りを見て、マリアは俊夫に問う。


「つまり、あなたは魔神探索の任務という重責に疲れて、ウィーンには休暇で来ていた。そして気に入った女の子がマリーにコケにされたから、つい罵倒してしまったと?」

「魔神探索に関しては何の事だかわかりませんが、皇女殿下に関してはそうですね」

「そう、仕方ないわね。あなたもそれに関しては明言できないでしょうから」


 マリアは喋りながら席を立ち、俊夫の横に歩いてきた。

 そして、俊夫の頬に痛烈なビンタを叩きこんだ。

 戦闘モードではないので、普通に痛い。


(このババア!)


 とっさに殴り返そうかと思うが、ここは我慢する。

 今はまだその時ではない。


「神教庁と事を構える気はありません。ただ、一人の母として許せません。今のは甘んじて受け取って頂戴」

「こちらもハメを外し過ぎたようです。誠に申し訳ございませんでした」


 俊夫は心の籠っていない形だけの謝罪をする。

 心の中では申し訳ないという気持ちよりも、やっと終わったという安堵感の方が大きい。


(この国はダメだな。早めにプローインとかいう国に行こう)


 俊夫はこの国に見切りをつけた。

 俊夫の事を神教庁関係者だと思うのはいい。

 それは今まで俊夫が利用していた事だ。


 だが、そのために追求が緩くなるのは論外だ。

 そんな詰めの甘い奴を味方にすれば、共倒れになりかねない。

 魔神の味方といえば、反社会的な側だ。

 警戒は最大限にしなければならない。

 こんなヌルイ相手ではなく、もっと信頼できる相手を見つける事が先決だ。


「下がってよろしい」

「それでは、失礼致します」


 下がって良いと言われたのだ。

 長居する理由は無い以上、早々に退席するのがいい。

 もう、この国で無理に説得しようとしなくてもいいのだ。

 エーロピアンで1、2を争う大国を、つまらぬ理由で説得が失敗したのは残念だった。

 だが、それでくよくよしている暇はない。

 次の選択肢があるのならば、そちらに向かうだけだ。


 俊夫は大人しくその場を離れ、ホテルへと戻った。



 ----------



「よくご無事で」


 ロビーで待っていたローゼマリーが俊夫に飛びついてきた。


「ゾルド様、私のせいでご迷惑を……」

「そんな事は無いさ。俺が悪かったんだ。つい、ムキになってあんな事を言ってしまった」

「でも――」


 私が悪いと言いそうだったローゼマリーの口を、俊夫自身の口で塞ぐ。

 自分に好意を抱いてくれている女を黙らせるには、これが手っ取り早い。

 キスをされたローゼマリーは、突然の事に硬直していた。

 だが、嫌がる素振りは見せずに、俊夫に身を任せている。


 しばらくして、ローゼマリーが静かになったと判断した俊夫は口を離すと、顔を真っ赤にしたローゼマリーが俊夫に聞く。


「本当に……、私が可愛いと思いますか?」

「思うさ。そうじゃなかったら、キスなんてしないよ」

「でも私、今までそんな事言われたことないから」


 まだ、後ろ向きな事を言うローゼマリーを、俊夫はお姫様抱っこで抱き上げる。


「本気で可愛いと思っている事を理解してくれないのは悲しいな。そんな物分かりの悪い子には、ベッドの上でしっかりと教えてあげよう」

「えっ、えっ」


 俊夫はローゼマリーを抱き上げたまま、部屋へと続くリフトへと向かう。

 まだ昼過ぎ、女を連れ込むには早い時間だ。


 だが、俊夫は吹っ切れた。

 開き直ったと言ってもいい。

 ほんの少しの躓きで計算が狂ってしまった。

 今の状況で、人の良い金持ちの演技なんてやっている気分にはなれない。

 ストレスは発散するものだ。

 金を使ってまで溜め込むものじゃない。


 この日から10日目まで人生を楽しむ事を優先し、俊夫はホテルを出る事は無かった。

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