表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2016年/短編まとめ

行きつけの喫茶店

作者: 文崎 美生

行きつけの喫茶店には、本当にクソほどの愛想のない店員さんがいます。

よく接客業が出来るな、と思ったけれど。

正直自分もそんなに愛想がいい方ではないので、人のことを言うのは止めようと思う。


そんな店員さんのいる喫茶店が大好きなのには理由があって、店員さんも愛想はないけれど雰囲気と容姿は好みだし、出してくれる飲み物も食べ物も美味しい。

後はお店の雰囲気が良くて、割と明るめの明かりにアットホームな感じが落ち着く。


「いつもの、お願いします」


新しく買ったばかりの本を引っ張り出しながら、お店の隅っこの席に座り、注文をする。

最早メニューなんて見ないし、座る席はいつも決まっている。

すっかり常連さんだ。


無口な職人気質のマスターさんとも仲良くはなったが、残念ながら店員さんとは仲良くはない。

挨拶程度はするけれど、所詮は店員と客だから。

うん、一人納得して本を開く。


好きな作家さんの新作ミステリー。

ミステリーなのにどこかしら笑える部分があって、謎解きもしっかりしているから好きだ。

文章も堅苦しくないから、ミステリー初心者の友人にも勧めたことがある。

結果ハマってくれたので大満足。


今回のもきっと面白いんだろうな、とワクワクしながらページを捲る。

耳に馴染むようなクラシックが流れる店内には、芳ばしいコーヒー豆の香りが広がっていて、自分の本を捲る音がダイレクトに聞こえた。

こういうの、好き。


のほほんと、花でも飛ばすんじゃないかって感じで本を捲っていると、ゴンッ、と勢い良く目の前にカップが置かれた。

……置かれたというか、叩き付けられた気もする。

それなのに中身が零れていないのは何故か。


本から顔を上げて瞬きを数回。

愛想のない店員さんを見上げれば、何だよ、みたいな顔をされて少し傷つく。

カップの横にケーキを置かれたが頼んでいない。


「あの、これ……」


「……店長が試作だからって」


ボソボソっと独り言みたいに漏らされた言葉に、私は首を傾げてケーキを見た。

まぁ、確かに見たことないけど。


「食べ終わったら、感想、聞かせろだって」


なるほど、軽く頷けば面倒くさいとでも言いたげな溜息が落ちてくる。

いや、本当、向いてないんじゃない?この仕事。


だって声も小さいから、お客さん多い時なんて聞こえない気がするし。

愛想どうこうの前にタメ語だし。

タメ語に関しては年も近そうだから、私は気にしないけれど。

他のお客さんには敬語なのだろうか。


「……ありがとうございます」


軽く頭を下げれば、一瞬だけ目を見開いてから首だけで会釈する店員さん。

猫背のままカウンターへと戻って行く。

もう少し仲良くなれたらなぁ、なんて思いながらカップの持ち手に指を絡めた。


エスプレッソの深みある香りと、ミルクの甘い香りが混ざり合う。

視線を落とせばそこにはミルクで描かれた猫。

頼んでないサービスに、だから来ちゃうんだよなぁ、と思う。


仲良くなりたいなぁ、そう思いながら店員さんを見れば、目が合って睨まれる。

啜ったカフェラテはいつもより甘い気がして、店員さんに笑いかけた。

じわりと朱が差した店員さんを見て、意外と早く仲良くなれるかもしれないと考え直すのは、数秒後。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ