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社会に出たくない俺は探索者学園に入学した。  作者: 安藤ナツ


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002

 と、下手すれば直ぐにでも飛び出して行きそうな雰囲気ではあったが、俺は二人に荷物を下ろすように言った。まずは荷物と装備の確認をしようと言う算段だ。

 まず、俺達の格好は全員が全員、同じ迷彩のダサいジャージである。結構細かくサイズは分かれているようで、百九十近い俺の身体にジャストフィットするサイズがあるのは当然として、似通った身長の葵と紅蓮ですらサイズが違う。異界探索用の多機能ジャージであり、その機能を十全にする為にもオーダーメイドなのかもしれない。入学前にやたらと詳しく身体測定を行ったし、十分に有り得るだろう。

 足元は、編み上げの安全靴。これも迷彩。下のジャージをインしているので、凄まじくダサい。が、安全の為なので仕方がないだろう。が、手袋は普通に軍手である。これも探索者用だろうから、頑丈さには問題ないが、せめて革のグローブとかにできなかったのだろうか?

 そして首から上はと言うと、特に防護する物はない。が、例え帽子のようなものでも頭に何かを装備すると、技能が使えなくなってしまうので仕方がない。日出国中津葦原皇国人の頭には精霊が宿るとか言われているが、それが真実かは疑わしい。まだ、脳の活動がどうのと説明された方が納得できるだろう。

 要するに、俺達の格好は課外授業中の中学生みたいなものだ。つい一ヶ月前まで中学生だった二人は良いが、二十歳を超えてこの格好は結構きつい。いや、女子二人も凄まじい女子力の低下を招いているし、決して被害がないわけではないだろうが。

 最後に武器である鉄の棒。ハンドガード付きで、某国民的ゲームの初期装備と比べれば、非常に優れた武器である。と言うか、手入れの必要もないし、壊れ難いし、扱いも簡単と、わざわざ刃なんて付けなくても、十分に優秀な武器だと言えるだろう。これも、一人一本。

 出来れば、盾も欲しいのだが、今回は用意されていない。恐らくは、必要になる状況を想定していないのだろう。これも、この授業が強敵と戦うような物でないと判断した理由の一つだった。

 さて一応、互いに自分達の装備に不備はないか確認した後、リュックの中身の確認に移る。

 内容物は大きく分けて三つ。

「水、っすね」

 二リットルのペットボトルが二本。通りで重い筈だ。

 飲み水と言うこともあるだろうが、他にも使い道は考えられる。でも、やっぱり四リットルもいらないだろ。

「これは医療キット?」

 次に場所を取っているのは、赤い十字架がデザインされた白い袋。このシンボルは葦原の物ではなく、確か海外の宗教が元ネタだったはずだ。国際的な医療シンボルとして広く認知されているらしい。が、やっぱり葦原人的には針と糸の交差したデザインが馴染み深い。そう言えば、最近は見なくなったな。

 肝心の中身は、消毒液や包帯、大きな絆創膏や湿布。技術や知識が必要となりそうなアイテムはない。やはり、大怪我を負う可能性は考慮しなくても問題なさそうだ。簡単な応急処置の乗った冊子もあるが、これは頼らない方向を目指したい。

「後は携帯食料か」

 そして最後に、幾つかの食料品。乾パンにドライフルーツ。まあ、今回はおやつみたいな物だろう。小腹が空いたら食べれば良い。適当にジャージのポケットに突っ込んでおいた。

 地図や方位磁石の様なアイテムがないのは意外と言えば意外だったが、俺のように索敵の技能持ちがいれば道に迷うことはないだろうから、不要なわけか。それとも境界線付近で十分に接敵できると言うことか?

 何にせよ、俺の索敵技能だけが現在地を確認する方法だと言うのなら、責任は重大だな。

「ふむ。対して重要そうでもないし、リュックは一つで良いだろ。邪魔になるだけだ」

 リュックに中身を戻しながら提案すると、二人はあっさりと「そうですね」と同意を示してくれた。全部で十キロ近い荷物だ。五十キロも体重がない彼女達にしてみれば、かなりの大荷物だったのだろう。俺だけが荷物を持つことに反対するわけもない。

 結果として、俺だけが苦労しているような気がしないでもないが、これは投資だと思おう。取り敢えず、投資だと思い込むことで、俺は幾つ物不満を呑みこんで来た。

 物資の確認を終えた俺は、早速ドライフルーツを幾つか口の中に放りこんでミーティングを続ける。

「次は技能の確認と行こうか。どうにも教官がバランスを意識してパーティーを組んだみたいだから、役割――ロールの被りは考えなくても良いけど、念の為にな」

 そこまで気合を入れる授業ではないのだが、この二人の信頼を得る為にやっておいても損はないだろう。まるで俺が損得だけで人間関係を構築している嫌な奴みたいな言い方だが、それは違う。

 基本的に、根本的に、俺は働きたくないのだ。まあ、完全に働かないと言うのは不可能だろう。だから、なるべく自分の分も他人に働いて欲しい。最小限の労力で、リターンを得たい。

『勇誠さんの言うことに従っていれば間違いがない』と言う認識が芽生えてくれれば、俺が多少手を抜いたとしても周囲はなあなあに許してくれるだろう。

 つまり、俺は七歳も年下の女子に寄生するつもり満々だった。

 最低度が上がった、いや、下がったのか? 好感度が落ちそうな考え方だ。

「はい! 勇誠先生! 質問っす」

 と、俺の内心を知らないであろう葵が勢い良く手を上げた。うわ、懐かしいな、こう言うノリ。ちょっとおじさんはついていけそうにない。

「ん? ああ、はい、葵」

「役割とかロールってどう言う意味? 技能とかパーティーは覚えているけど」

「お前さ、授業ちゃんと聞いてた?」

「半分くらいは?」

 スポーティーな雰囲気に違わず、あまり勉強は得意じゃないのかも。まあ、運動できる奴が勉強できないと言うのも偏見だけど。頭の良いスポーツ選手なんて幾らでもいるだろう。

「どう? 紅蓮はわかる?」

「は、はい。役割、別名ロールって言うのは、そのままパーティー内でどんな行動をするか、予め一人一人決めておくことですよね」

 これも偏見だが、眼鏡をかけているだけあって、紅蓮が物を教える姿は様になっている。どうして眼鏡と言うのはこうも人を知的に見せるのだろうか?

「『斥候』『前衛』『中衛』『後衛』と言った四つの大きなカテゴリで表現される事が多いみたいですね。もっと詳しく分けると、『軽装戦士』とか『忍』とか『魔道師』とか色々あって、クラスと呼ぶようですね」

「今回は、近接戦闘持ちの葵が前衛。遠距離魔法持ちの紅蓮が後衛。索敵持ちの俺が斥候。これが今回のそれぞれの役割だ」

「ふーん。決めておかないと、どうなるっすか?」

「全員がボールに殺到する小学生のサッカーみたいになる」

 想像して欲しい。敵一体に対し、全員が一斉に攻撃に出る図を。前衛系連中の同士内、魔法のフレンドリファイア、或いは全員が躊躇したが為に全く攻撃に出られず、手痛い攻撃を喰らう図を。

 冗談じゃあない。ぞっともしない。

 そう言ったミスを失くす為にも、個人個人に技能に合った役割を持たせるのは重要なことだ。

「なるほど。了解したっす。って言うか、じゃあ、それで良いんじゃないっすか?」

 納得してくれたらしい葵が、うんうんと頷きながら腕を組む。が、本当に理解してくれているかは怪しい。

「あのね、葵ちゃん。前衛って言われても何やれば良いかわかる?」

 すかさず、紅蓮がそのフォローに入る。誰だって知っていることを喋るのは楽しいし、彼女はどうにも人恋しいようなので俺は黙って二人のやり取りに耳を傾ける。

「へ? あの棒でブン殴れば良いんじゃない?」

「勇誠さんはね、敵に出会った時、どう言う風に動くかも決めようって言っているの」

「へぇ。でも、どう言うことを決めるの?」

「例えば、敵と出会った時、最初に葵ちゃんが攻撃するのか、私が魔法を撃つのか、それとも勇誠さんが戦いやすい場所まで誘導するとか、そう言うことよ」

「なるほど」

 台詞の後に『さっぱりわからん』と続きそうな雰囲気だったが、今度こそ葵は理解をしてくれたようだ。

「そう言うことね。わかったっす、勇誠さん」

「頼りにしてるいから、頼むぜ? 後、紅蓮も説明ありがとうな」

「説明、解説は任せて下さい」

 別に、そんなインフレに付いていけなくなった味方キャラ的なポジションを目指して貰わなくても良いんだけど。

 と、言うわけでそれぞれの能力を開示する。

 まずは、俺。高木勇誠の『索敵』と『付与』。

○索敵――直径五十メートル程度の生命体や魔力を感じることが出来る。

○付与――対象の能力を上昇・下降させる。五十メートル走のタイムなら五%増しの実績。

 完全に正面から戦う為の技能ではない。技能覚醒は魂の持つ力を解放した物なので、俺に文句を言われても困る。元々、高木優勢と言う人間はそう言う人間だと思って諦めて頂きたい。

 次いで、ボーイッシュな少女、相生葵。『近距離戦闘』と『気功術』どうでも良いが、彼女は俺と話す時だけ『~っす』と言った口調になる。聞いてみたら、敬語のつもりらしい。馬鹿だ。

○近戦――反射神経等の能力向上。単純な膂力もやはり五%程増しているようだ。

○気功――体内を巡る気の操作術。体力や回復力等フィジカル面を強化するらしい。

 俺とは違い、葵は完全に近距離格闘戦特化型の技能持ちである。バリバリの前衛タイプで、探索者の花形とも言えるクラスでもある。ロールとしては、軽装戦士とか、遊撃手とか、そう言った小回りの利く方向になりそうだ。

 そして最後に紅蓮。勇ましい名前に相応しく『遠距離魔法』と言う高火力技能と、眼鏡に相応しい(だから偏見)生産技能である『薬物作成』に覚醒している。

○遠魔――射程三十メートル程度の魔弾を放つ。威力は彼女が鉄棒で殴る程度とのこと。

○薬学――魔力により動植物から薬を作成できる。現在は気休め程度の効能のようだ。

 多分、性格を考慮しなければ紅蓮が一番強いだろう。俺達技能覚醒した探索者が鉄棒を本気で振り回せば、コンクリ程度なら粉砕できる。が、内気そうな雰囲気から考えると、薬物作成の技能が彼女の本質ではないのかとも思う。果たして、彼女に敵が撃てるだろうか?

 それから三十分程、俺達はこの一週間で使えるようになった自分の技能を確認し合った。

 結果、まずは俺が討伐の対象を見て来ることにした。本来の意味での、他を知り己を知れば、だ。

詳細は対象の特徴を確認した後で決めることになるが、紅蓮の魔法による先制攻撃は確定だろう。折角の長距離攻撃を生かさない手はない。もし一撃で潰せるようであれば、俺と葵の出番はそこでなくなってしまう。

 綿部紅蓮の遠距離魔法無双! が始まってしまう。

働かなくて良い。最高じゃあないか!

 割と現実的な夢を抱いて、俺は一番近い反応へと慎重に近づいて行く。

 しかし、現実ほど残酷な物がこの世にあるだろうか?


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