前世
俺、柊 美鶴には前世の記憶というものがある。
前世とはいっても、その記憶は碌でもないものばかりだった。
前世の俺の両親は世間でいうところの屑だった。
父親は働きもせず家で酒を飲み、母を殴って手に入れたお金でパチンコやギャンブルをする。
気に入らないことがあれば俺や母に当たり、暴力をふるった。母親は、どこぞで知り合った若い男に大量の金をつぎ込み、俺は碌なごはんを与えてもらえずに、時に母親からも暴力を振られていた。
餓死しそうになる済んでのところでアパートの大家さんに助けてもらったりして、俺は高校生になるまで生きてこれた。高校からは両親に無断で家を出て、身元保証人には大家さんになってもらって一人暮らしを始めた。
生きるためにアルバイトを始め、勉強もまじめにこなしていた。
そんなある日、俺のもとにいかにもな感じのヤのつく自由業の方が現れた。なんでも、父と母が大量の借金と俺を好きにしていいと書置きを残して、どこかに行方をくらませたらしい。
俺は特に驚かなかった。特に働いているわけでもない母親がなぜあんな大金を持っていたのかと疑問に思ったこともあったし、あの父親が闇金と呼ばれるところに世話になっていないわけがないとわかっていたからだ。
そこから先はもう地獄だった。当然、高校なんて行っているお金があるわけがないので、中退し仕事に就いた。
中卒で雇ってくれる所などブラックしかあるはずもなく、俺は借金のために働いて働いて働き続けて、その末に20歳の時に過労死した。
精神的な意味ではたぶん俺はもうとっくに死んでいた。中学校に入るころには俺の人間嫌いは治らないほどに侵攻していて、暴力を振られるごとに感情も消えていった。
それでも体は俺のことを楽になどしてくれなくて、みじめに生きながらえた。
最後に残ったものなど何もなく、俺はそのまま一人死んでいった。
それが俺の前世での記憶。