婚約者は回避を希望しない
婚約者になるはずだった男視点です。
とても暗いのでご注意ください。
俺は決して認めない。
お前が俺のそばにいないことなんて絶対に。
俺、藤堂冬樹は所謂前世の記憶というものを持って生まれた。
前世の俺は、自分で言うのもあれだが、イケメンでお金持ちというものだったと思う。
周りに女が群がっていたし、周囲にはいつも人がいた。
しかし俺はその中の誰にも興味がわかなかった。
俺の興味を引いたのはただ一人。
俺の幼馴染だった。
幼馴染は平凡な顔立ちだったが、雰囲気がほんわかしていて、周りにいつも人がいた。
俺はそれが許せなかった。
だから、俺は幼馴染を俺の部屋に監禁した。
そのころには俺と幼馴染はもう親元を離れて一人暮らしをしていたので誰にもばれなかった。
「いや!やめて!”--”っ。」
パシンッ
「っ!」
「うるさい。お前は俺のもんだ。俺の言うことだけ聞いておけばいいんだ。」
幼馴染が言うことを聞かないときはお仕置きをした。
幼馴染が口答えをする回数が減りそして・・・。
自殺をした。
俺はそのことに愕然とし、幼馴染のいない人生に興味なんてなく、死んだ幼馴染の手から包丁を手に取り、後を追った。
そして、俺は転生をした。
思い出したときは、また幼馴染のいない時間を生きることに絶望した。
しかし俺が6歳のとき、とあるパーティでのことだった。
「ゆき、これも食べる?」
「うん、おかあさま!」
遠くのほうで楽しそうに話をする親子。
母親にうれしそうに返事をする女の子は間違いなく前世の幼馴染だった。
ふっと幼馴染が俺のほうに視線を向けた。
そして、その瞬間、幼馴染と俺は倒れ、意識を失ったのだった。
目が覚めた瞬間、飛び込んできたのは親父の姿だった。
どうやら俺は自分の家へと帰ってきていたらしい。
「冬樹。目が覚めたか。」
「親父。」
「お父様だ。何回言っても覚えないな。」
「誰が言うか。」
「お前なぁ・・・。まぁいい。医者を呼んでくるから待っていろ。」
「とっととでてけ。」
「・・・・っ」
親父がバタンッと荒々しく出て行く姿を見送りながら、俺は思い出したことを考えた。
この世界は幼馴染が前世でやりこんでいた乙女ゲームの世界で、俺は攻略対象者、幼馴染は俺の婚約者でヒロインのライバルだということに。
それを思い出したとき、俺は驚喜した。
だってそうだろう。
前世ではかなえられなかった思い。
それが今世ではこのまま進めば、幼馴染は、俺の婚約者になるのだ。
これが喜ばずにいられるだろうか。
安心しろよ。
俺とお前が婚約したそのときからお前を誰にも触れさせない。
ヒロインなんかに踏み込ませはしない。
檻を作ってそこに入れて俺だけを見て俺だけしか眼に入れさせない。
今度こそ間違いはしないから。
お前は俺だけのものだ。
そうだろう?“--”。いや、雪姫。
結果。
いつまでたっても婚約の機会は訪れなかった。
なぜだ?確かゲームでは俺が13歳、雪姫が12歳のときに婚約をするはずだ。
今、俺は18歳。
つまりゲームはもう始まっており、ヒロインも転入してきている。
「冬樹ぃ。どぉしたの?」
ヒロインが俺にしなだれかかる。
正直言ってうざい。
どうやらこのヒロインも前世の記憶があるらしい。
そして他の攻略対象者を落とした。
俺?俺は前世から雪姫一筋だから落ちていない。
むしろうざい。
「杏はやさしいですね。いいんですよ。こんなやつに優しくしなくっても。」
「そうそう。そんなやつにくっつかないで俺にくっつきなよ!」
「・・・俺も。」
今しゃべっているのは生徒会役員でこいつらも攻略対象者だ。
そう。ここは生徒会室で、お金持ち学校の名に恥じず、とても豪華な部屋となっている。
豪華なソファに豪華な机、テレビに冷蔵庫にミニキッチンまで完備しているからな。
そして、そのつけっぱなしだったテレビから声がした。
“さて、続いてhomeの皆さんです!今回の新曲は西浦さんが主役のドラマ主題歌とのことですが聞いてどのように感じましたか?”
“そうですね。薫が出演するドラマが爽やかな青春恋愛ドラマで、この曲もそれに沿った非常に爽やかな恋愛ソングですね。”
“雪姫さんはどうですか?”
!!
ゆ、き?
テレビのほうに視線を向けるとそこには長く艶やかな黒髪のかわいらしい少女が4人の男と並んで座っている姿が映し出されていた。
間違いない。彼女は雪姫だ。
俺の婚約者になるはずたった少女。
「あー。homeだ。」
「・・・home?」
「あれ、会長知らないの?今人気のアイドルグループだよ。ほら、主に男性アイドルが所属しているRAIKAの所属なんだよ。」
「あぁ、知っています。・・・でも、この子は女の子ですよね?」
「主にって言ったでしょ?女性がいないわけじゃないんだよ。少ないだけで。活動も少ないだけで。
でもこの女の子、葛西雪姫ちゃんはそんな中でもすっごく人気のある子なんだよ。
ファンクラブも普通はグループだけなんだけど雪姫ちゃんだけは個人ファンクラブもあるぐらいだし。」
「・・・詳しい・・・。」
「だってファンだもん。あっ、もちろん一番の俺のアイドルは杏ちゃんだけどね!」
「・・・ありがと!」
“そうですね。とってもかわいらしくって、どきどきして、こんな恋したいなぁって思いました。”
“じゃあ、俺とする?”
“れー君と?”
“うん。”
“あ、すみませーん。この二人は無視してかまいませんので続けてくださーい。”
じっと見つめあう二人にイライラしていると茶髪のイケメンが間に入った。
それにほっとしつつ、またイライラが蘇る。
なんでお前は俺のそばにいない?
なんでそんなやつのそばにいる?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!
わからせてやる。お前が誰のものなのか。
テレビの向こうで笑顔で笑いあう彼女と彼らを見ながらうっそりと笑った。
雪姫は、前世の幼馴染の彼のことだけ覚えていません。
よっぽど苦しかったんだと思います。
しかし、他視点も書かないと暗くなる一方かも・・・。
活動報告に雪姫と冬樹の人物紹介を掲載します。
よろしければ読んでください。