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リナリア   作者: チカ
3/3

02

じっとりと汗ばむ背中とは対象的に、冷え切ってしまった指先を握りしめる。

(どうしてここにいるのさ....)

横目で捉えた姿は何度見てもやはり百瀬萌香、彼女だった。

ほんとうに今日は運が無い。

このくそ暑いのに加えて、謎の同級生とふたりきり、だなんて。

蝉時雨が軽やかで、腹が立つ。

「すわらないの?」

突然話しかけられて、肩がはねた。

まったく、本人は涼しい顔だ。

「....すわる。」

どきどきとうるさく早鐘を打つ心臓。

コンクリートの壁に背中をもたらせかけたけど、一瞬触れたYシャツの感触が気持ち悪かったから、やめた。

モモの隣にしゃがみこむ。

ちらりと顔色を伺うと、風が彼女の髪をなびかせた。

あらわになった横顔は、息をのむほど綺麗で、見惚れる。

初めて間近で顔を見た気がする。

彼女はいつも俯いているか、窓の外を見ているからだ。

おかげでこの艶やかな黒髪は見慣れたものだ。

視線に気づいたのか、ゆっくりとこちらを向く。

どくんとひときわ大きく跳ねる心臓。

ただでさえ何を話したらいいかわからないというのに、見つめられてわたしがどこにいるのかさえ忘れそうになる。

「佐々川涼は、いつもここにいたんだね。」

いつもここにいたんだね、ぼおっとしながら脳内で復唱して、気づく。

「知ってたの、わたしが抜け出してたの。」

うん、と顎がひかれて、言う。

「しんどいならぬければいいのにって、思ってた。」

淡々とした声は相変わらずなのに、こんどはわたしの心にちくりと刺さった。

「....うん、わたしもそう思うよ。」

そう返すのがやっとだった。

目を逸らしたわたしを見て、再び彼女のくちびるが動きかける。

それ以上が怖くて聞きたくなくって、わたしは慌てて笑いかけた。

「それより、百瀬さんはどうしたの。」

彼女の表情は読めないままだけど、ちょっと動揺が滲んだ気がした。

「......モモでいいよ」

「え?」

ばつが悪そうに目を伏して言われた言葉に、逃げられた、という気持ちと驚きに気づく。

「名前....みんな、モモって呼んでるんでしょ? 佐々川涼もそうだと思ったんだけど。わたし名前きらいなの。」

彼女の珍しく取り繕うような人間くさい態度に、また驚いてうれしくなった。

「へぇ....じゃあ、モモって呼ばせてもらうけど、わたしもフルネーム呼びはちょっと嫌だな。」

「....涼」

はずかしそうにつぶやく彼女を、わたしはかわいいと思った。

今まで抱いてたどこか無機質な感想じゃなく、質量も温度もある感情だった。

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