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『モモ』
奇妙な少女だった。
百瀬萌香というそのひとは、稀有な存在だった。
いるだけで空気を変えるのに、本人はそれを嫌い、あまりひととかかわらない。
みんながわいわいと楽しげに騒ぐのを否定するでもなく、かといって直視することはなく、ただ音だけを聞くような。
長く黒々と艶やかな黒髪をそぉっと垂らして、真っ白で柔い線の鼻を下に向け、大きな潤いのある目を囲む睫毛ごと、伏して。
きゅう、と引き結ばれた唇だけが紅い。
まごうことなきその美しさは毒であった。
彼女を憎むものはいても、ほんとうの意味で嫌うものはいなかった。
すべての感情をねじ伏せてしまうような、無機質で儚い彼女の存在の前では、誰もが息を飲むだけだったから。
『モモ』
彼女はそう呼ばれ、籠の中に閉じ込められた小鳥のように、みなに遠巻きに愛でられ、憎まれていた。
わたしはどうでもよかった。
いずれ別れ忘れ消えるそんな美少女の存在も、それを憎み恐れ愛し羨む多くの存在も。
しかしわたしはこの考えを撤回する。
籠の中を覗き込んで手を伸ばして触れて見たら、彼女はただの、かわいそうな少女だった。