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お隣さんは問題人?


「なぬっ!?饅頭はっ、もっと饅頭っ!!」

「いや、もうこれだけですし……」

「そんなぁ…私、こんなにお腹空いてるのにぃ…」

「それを僕に言われても…」

「お願いっ!料理を、私に何か食べ物をっ!!」


――こんなはずではなかった。


僕が夢見てた一人暮らしは、もっと快適なはずだった。

実際、今いるこのアパートは賃貸ながら悪くない。

綺麗なつくりだし、新たに通い始める大学から程遠くない場所にある。


ここまでは完璧だった。

そのはずだった、つもりだった。

だが、それが一気に去っていった。いや、壊されたのだ。

誰に? 何のために?

そんなの理由は知らない。そういう人なのだ。

ただ、一つだけ。いえる事がある。


「瀬戸千歌」――201号室、大学2年生


それがこそが、僕の目指してた快適一人暮らしライフを

不安だらけの一人暮らしライフにさせた本人であり

同時にアパートの隣部屋であり、そして

――大学のひとつ先輩でもあった。



「わかりました、わかりましたからっ!奢りますから、早く行きましょう」

「やったぁ!!」

正直、そんな最初から手元の金を使いたくはなかった。

だが、人としての礼儀を果たそうと僕は自分の住む部屋の

両隣の人に饅頭を渡した。

それはちょうど、今から一時間前ぐらいの話だ。


203号室の河合さんは、非常に気さくな人だった。

一人暮らしの40代ぐらいであろう女性で

ここにいるのも、仕事のために来てるらしい。

饅頭を渡すと非常に喜んでくれた様子を見て

非常にいい人と思う。こんな安い饅頭なのだが。

「これからもよろしくするわね」

そういった笑顔は40代を思わせなかった。


そして次に問題の201号室の瀬戸さんへと向かった。

当然、何もしらない僕は普通にインターホンを押す。

するとどうであろう。

中から飛び出したではないが、人が。

瀬戸千歌が。


「いやぁ、あの時は食べ物のにおいがしたものだから、ついつい」

笑顔で語っているものの

やっていることは、非常に恐ろしい。

「それにしても、驚いたなぁ。同じ大学だなんて」

「同意見ですよ、まさかこんな先輩がいたとはね」

「こ、こんな先輩って!」

少し言い過ぎたか?と、思って横を振り向くと

そこには満面の笑みがあった。

「いやぁ、それほどでもないよぉー」

決して、褒めてはないとなんて口が裂けまくっても言えなかった。


「いらっしゃいませ」

しょうがないので、近くのファミレスで済ませようとした。

今は夕方と言えども、夕食の時間帯なので

客でにぎわっていた。

「えっとね、私はこれと、これと……」

席へと着いた途端に瀬戸さんはメニューを広げた。

そして、おそらく頼むであろう注文を呟いていく。

「これぐらいかな?」

この言葉が出るまで、たぶん十ぐらいのメニューを注文しただろう。

これを店員に言うのか?

というか、これ全てを僕が支払うのか?

「あのー…もう少し減らしてもらってもいいですか?」

さすがに、こんなに払うのはきつかった。いや、普通にきつい。

バイトはしようとしているものの

それでも一人分がやっとなのだ。

ここで、他人の分で大量に支払うのは非常に痛いことだった。

「あ、そうかー…そうだよねぇー…」

すると、瀬戸さんはうつむき、そして目を急速に潤めた。

「私、昨日から何も食べてないんだけど…

 だよね、しょうがないよねぇ…だってこれ奢りだもんね……」

しばらく、沈黙が続いた。

瀬戸さんはそれでも潤めた目を僕に向けてくる。


僕に、この僕に!


「っ…わかりましたよ、わかりました!払いますからっ!」

僕もなんでこんな返答をしてしまったのだろうと思っている。

でも、しょうがない。しょうがないのだ。


だってあんな潤めた目で直視されるんだぞ?

瀬戸さんの大きな瞳で、しかもうつむき目線で

潤んでいる……

誰もあんな事をされたら、払わざるをえない。

と、思う。

決して僕が女性に弱いとかそういうのではない。

と、思う。





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