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ep8 その後のことは、

 運転する横顔を見つめる。


「……今度、一緒に墓参りでもいくか。」


 そっけなさそうに言う割に内容はひどく優しい。

 断っても大丈夫なように言ってくれているのだと思えばくすぐったさが優った。


「ぜひ。」


 この優しさは素直に嬉しい。

 淳がさらにそっけない口調で重ねてきた。


「一緒に、住まないか。」


 ぱっとみた頬は朱がさしている。


「……格好悪いが、一人であの辺りを彷徨いて欲しくない。柳瀬のような男もいる。家で待っていてくれないか。」


 まじまじと横顔を眺めた。

 ちょうど信号で止まって、端正な横顔がこちらを向いた。


「……何か言え。不安になるだろうが。」

「いえ、あまりに――」


 この人の前では泣きすぎているから、今日は泣かないと決めていたのに。


「……あまりに、嬉しすぎて。」


 もしかしたら、宝くじに当たるくらいの幸運を使い切ったかもしれない。

 人と人が出会って恋が出来る確率は、どれくらいだろうか。


「淳さんに出会えてよかった。」


 気づいたら駐車場に着いていた。

 手を引かれて、隠す余裕もなく淳の顔を見た。

 きっと、涙でぐしゃぐしゃでひどい顔をしている。


「過去形にすんな――そんな嬉しさなんて、ずっと更新してやる。」


 その言葉があまりに格好良すぎて笑った。


 

 ****


 同居を初めて一ヶ月。

 淳は不規則な生活なのだからと食事などの家事を引き受けたのは湊だった。

 

 正直なところ淳の方が料理は上手だと思うのだが、美味いと喜んでくれる姿を見るのが何より嬉しい。

 野菜が不足気味だと言っていたから、普段は野菜や魚料理が多めだ。


「最近身体の調子がいいんだよなあ、やっぱビタミンって大事なんだろな。」

「疲れてるでしょ、そこそこで寝て大丈夫だよ。」

「んー……。お前の飯は食いたい。」


 半分寝ぼけたような顔で言いつつ箸を動かす淳は付き合ってからも律儀だ。

 最近疲れ気味なのは、どうやら真澄の彼氏がまた変わって、常連とともに愚痴に付き合わされているらしい。

 

 湊を出せという要望が嫌で付き合ってるのだと聞いた時は笑ってしまった。

 今度ここに真澄を呼んで話を聞こうと思う。


「ご馳走様でした。」

「おそまつさまでした。」


 毎度頭を下げてくれる淳にこちらも頭を下げる。


「食器、そのままで寝ていいよ。本当に眠そう。大丈夫?」

「あー……いつも悪いな。」


 今にも船を漕ぎそうな顔で、淳が「あ。」と思い当たったように声を上げる。


 首を傾げると不意打ちのようにキスをされた。


「食事もいいけど。――調子がいいの、お前のお陰だわ。」

 

 にやりと笑われて、頬に熱が集まった。


「ほら、可愛い。癒されるわー。」


 ふは、と両手を肩に乗せられて、首筋にキスをされて肩が跳ねた。


「可愛い恋人にプレゼントがあるんだけど。」


「え?」


「ほれ。」


 何でもないように渡された箱に既視感を覚える。――これって。


「あの、僕も……」


 重いかもしれないと思って、いつ渡そうかと迷っていた箱を渡す。

 流石に予想外だったのだろう。

 何となく、無言でお互いの箱を開けた。


「ぶは、被ってんじゃねーか。お互い指輪かよ。」

 

 けらけらと笑う淳に、湊も笑った。


「ほんとに。驚いた。」


 ふふ、と笑いながら恥ずかしくなった。何だか照れてしまう。


「チェーンでも買って、二つとも通すか。どうせ仕事中は着けられないからな。」


「うん、そう、だね。」


 手のひらで顔を覆ったまま肩が震える。


「ツボってんじゃん。」

「だって、まさか指輪で被るなんて。何の予定もなかったのに。」


「気が合うってことですかねー?」

「ふ、そうかもしれない。……幸せです。」


 抱き上げられて、驚いて顔から手を離した。


「は。真っ赤。」

「言わないで」


「“かもしれない”じゃなくて、そうなんだよ。」


 優しい瞳に心臓が鳴った。


「湊。愛してる。一生傍にいてくれ。」


 とんでもなく格好よく言われて、でもすぐに淳の眉が下がった。


「――って、格好よく言いたかったんだが、まさか、被るなんてなあ。」


 言葉に笑いがぶり返して、淳の肩に顔をうずめた。


「くすぐってー。」

 けらけらと笑う淳はいつも明るくて、幸せな気分にさせてくれる。

 

「どんな淳さんでも、格好いいです。」


「そ?」


「はい。――一生、見ていたいです。」


「すげえ殺し文句。」

 

 ああ、早く寝てもらわないと淳さんの体調が、と頭の片隅で思うのに、長いキスは拒否できなかった。


「湊。」


 荒くなった呼吸の合間に呼ばれる声が好きだ。

 

 晴のかけらは残しても、俺は消えない。

 俺は俺として、生きて、幸せになれる。


 あなたが名前を呼んでくれるなら、何度でも。


「……泣きたいくらいに、愛してます。」


 優しい顔がこちらを向いて、瞳を閉じた。

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