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パンドラ王女と死神王子の呪われた婚姻  作者: あまNatu


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触れることすら許されず

「これは奥様! わざわざこのようなところまでお越しくださりありがとうございます!」


「こんにちは、シェフさん。娘さんのお加減はいかがですか?」


「それが奥様からいただいた花を娘の部屋に飾ったら、次の日にはあっという間に治っていたんです! これも全て奥様のお心のおかげでございます」


「まあ、それはよかったです」


 きっとパンドラを喜ばせるための嘘だろうけれど、その心が嬉しかった。

 パンドラのためと美味しいご飯を作ってくれるシェフ。

 彼の娘が少しでもよくなってくれているのなら、それに越したことはない。

 今日も今日とて庭に咲いた花をエルから渡してもらえば、シェフはペコペコと頭を下げた。


「今日もありがとうございます! 奥様にいただいた花を厨房に飾っていると、不思議とみな調子がいいんです。本当にありがとうございます!」


「そんな! このようなことしかできず、誠に申し訳ございません」


「そのような! 我々のようなものに奥様は優しくしてくださって……。本当に感謝しております」


「……こちらこそ、ありがとうございます」


 不幸を呼び込むパンドラに、彼らはしあわせを与えてくれる。

 感謝しても仕切れない。


「そういえばこの屋敷もだいぶ明るくなりましたよね」


「奥様の花のおかげかも? ここ最近使用人たちも元気なんだよなぁ」


「元気が一番です!」


「それはそうっすね」


 シェフとアル、エルと共に声に出して笑う。

 本当に楽しい時間だ。

 まさか身代わりとして結婚させられたのに、こんなにしあわせな時間を送れるとは思わなかった。

 妻として求めていないと言われた時はどうなるかと不安になったが、結果としてよかったのかもしれない。

 もちろん役割を果たせていないという罪悪感はあれど、こればかりは死神王子の気持ちもある。

 パンドラだけでどうこうできるわけではないので、焦る必要はない。

 ひとまずこうして楽しい日々を送れればそれでいい。

 そんなことを思っていた時だ――。


「――妖精姫はいるか」


「…………旦那様」


 マグリアにやってきた日以来はじめて、パンドラは死神王子の姿を見た。

 相変わらず冷め切った瞳をパンドラに向ける彼は、真っ黒な手袋越しに花を持っていた。

 あれはパンドラが切ったピンクの薔薇だ。

 彼はそれを持ってくると、パンドラに向けて突きつけた。


「余計なことはしないでくれ。私には一切関わらなくていい」


「――あ……!」


 ヴェールの下で、パンドラの顔が赤く染まる。


「――殿下、それは私が……!」


「いえ! ……私がお願いしたことです。申し訳ございませんでした」

 

 彼の部屋に花を飾ってくれとお願いしたのはパンドラだ。

 よかれと思ってやったことだったが、彼からしてみれば不愉快なことだったのだろう。

 失礼なことをしてしまったと、パンドラは慌てて頭を下げた。


「全て私の責任です。誠に申し訳ございませんでした。今後このようなことは致しません」


「………………わかればいい」


 許されたようでほっと息をついたパンドラが顔を上げると、目の前に薔薇がある。

 どうやら薔薇を返しにきたようだ。

 わざわざ返しにきてくれるなんて、優しい人なのだなと受け取ろうと手を伸ばした。

 しかし途中でピタリと手を止める。

 握りしめるように薔薇を持つ死神王子の手に、触れずに薔薇を受け取る方法がない。

 手袋越しとはいえ、己が触れるのはよろしくないのでは。

 そんな思いから伸ばした手を止めていると、前に立つ死神王子の手がピクリと動く。

 それと共に死神王子の顔に影がかかる。


「……そうか。そうだったな。妖精姫といえども、死神の呪いは恐ろしいか」


「――え?」


 どういう意味だろうか?

 呪いとは一体なんだ?

 わけがわかっていないパンドラの目の前で、死神王子は薔薇から手を離す。

 ピンクの花弁がひらりと舞い、床へと落ちていく。


「あ、あの……!?」


 死神王子はそれだけ言って、厨房から去ってしまう。

 彼の背中を見つめつつ、パンドラは思わず黙り込んだ。

 失礼なことをしてしまったのだろう。

 顔にかかる暗い影の中、傷ついたような瞳が見えた気がした。


「……私、失礼なことをしてしまったのですね」


「仕方のないことです。……殿下に触れられる人は、この世にいません」


 エルが駆け寄り、落ちてしまった薔薇を拾ってくれる。

 それを慌てて手伝いつつも、パンドラはまたしてもピタリと手を止めた。


「……あの、旦那様の呪いとはなんなのですか?」


「――へ? え? ええ……? 知らずに嫁いできたんすか!?」


 アルが驚きの声を上げる。

 それにエルとシェフまで目を丸くしたいるため、パンドラは今の質問が普通でないことに気づいた。

 当たり前だ。

 夫となる人のことをなにも知らないなんて、怪しまれてもおかしくはない。

 名前すら知らないとバレては、妖精姫ではないと気付かれてしまう可能性もある。


「あの、えっとですね……その…………」


「…………奥様のご両親はきっと、奥様を不安にさせないために言わなかったのかもしないっすね」


 アルからのアシストにパンドラは何度も頷いた。


「そ、そうかもしれません……! ですが仮とはいえ妻ですので、旦那様のことを知っておいたほうがいいかと思うのです!」


「…………そうですね。知っておいた方が回避できることもありますし、なにより秘密なわけではありませんから」


「ならお茶でも飲みながらお話するのはどうだろうか? ……気分が落ちる時は、甘いものが大切だろう?」


 シェフがそう言いながらクッキーを渡してくれる。

 エルがそれを受け取りながら頷いた。


「僭越ながらお話しさせていただきます。……どうぞ、こちらへ」

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