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パンドラ王女と死神王子の呪われた婚姻  作者: あまNatu


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問題発生

「――え? また……ですか?」


「…………ええ。また、です」


 そう言って眉間に皺を寄せ、ジーンは一枚の書類をパンドラへ差し出す。

 そこには地方にある街、シュレーンから食料を催促する内容が書かれていた。


「いくらなんでも多すぎます。……これでは、あのボンクラどもではないですが、さすがに渋らざるをおえません」


「……ですが、民が困っているのなら」


「……これでは本当に国が滅んでしまいます」


 ため息混じりの言葉に、パンドラは目を細めた。

 確かにジーンの言うとおりだ。

 支援が必要なのはシュレーンだけではない。

 ほかのところにも気を配らなくてはならないのに、これではどちらの民も苦しんでしまう。


「……シュレーンの様子はどうなのですか?」


「女王陛下からの指示で人を送りましたが、確かに難民を助けてはいるようです。……そして食料も足りてはいないと」


「そんな……」


 どうするべきだろうか?

 渡してあげたいとは思うが、これ以上シュレーンに送ってはなにを言われるかわかったものではない。

 黙り込むパンドラのそばで、ジーンはメガネを上げた。


「シュレーンは確か……ドミニク辺境伯へんきょうはくがいらっしゃるはずですね」


「ドミニク辺境伯?」


「ええ、とても優秀なかたです。確か二代前の国王陛下より、その地位をたまわったとか。……現在は年若いかたが家督かとくを継いでいらっしゃるはずですが」


「…………そうですか」


 パンドラふと窓の外を見る。

 本当に自分はこの国のことをなにも知らないのだなと、痛感してしまったのだ。

 自国であるはずなのに。

 閉じ込められていた日々に、パンドラはなにもしてこなかった。

 あれだけの時間があったというのに。

 まあまさか、自分が女王になるなんて思ってもいなかったから、仕方ないといえばそのとおりなのだが。

 今のパンドラの地位では、仕方ないなんて言ってられない。


「――ふむ。もっと身近な人を送るしかないでしょうね」


「身近……ですか?」


「ええ。情報収集に長けて、信頼のおけるものです。……下手に懐柔かいじゅうされては、こちらの情報を抜かれてしまう」


 ジーンの言葉に、パンドラ顎に手を当て考える。


「……ジーンさんはドミニク辺境伯がなにかしているとお考えですか?」


「可能性の話です。地方にいるということは、国の目が届きにくい。そのための辺境伯なのですが、なまじ権力があるが故に悪さをする人もいる。……人は善人だけではないですから」


「……そう、ですね」


 地方になればなるほど、国の目は届かなくなる。

 そんな地方を国家に代わり見張るのが辺境伯の勤めだ。

 それゆえに地方では大きな財を成し、政治的にも強い力を持つ。

 しかし逆を言うのなら、その辺境伯の同行にすら国は気づきづらいということだ。

 ドミニク辺境伯とはどのような人物なのだろうか?


「……知りたい」


「なにをですか?」


 パンドラは窓の外を眺めながら、ふと肩をすくめた。


「いえ、そのドミニク辺境伯とはどのような人なのかを知りたいなと思いまして」


 そうすればもっと地方のこともわかるだろう。

 どんなことに困っているのか、どんなことをしてほしいのか。

 知りたいと思うことは多い。


「ならば呼び寄せますか? 話くらいはできると思いますが……」


「…………いえ。それでは意味がないかと」


 王宮にきて女王の前に出れば、誰だって素顔は見せないだろう。

 ドミニク辺境伯の素の姿を見たいのなら、この王宮で、女王としてでは無理だ。


「シュレーンの民からどう思われているかも見ないと、彼がどんな人なのかはわからないかと……」


「まあそれはそうですが……」


 ジーンのメガネがきらりと光る。

 一瞬寄せられた眉間の皺に、パンドラは気がつき苦笑いを浮かべた。


「わかっています。そんなことが無理なことくらいは」


 だからただの願望だ。

 己の目で確かめられれば、いろいろなことがわかる気がした。

 人を見極めるということも。

 ふう、と大きめなため息をついたパンドラに、ジーンもまた小さくため息をこぼす。


「……聞きましたよ。アース卿がまたくだらぬことを言い出したとか」


「――…………ええ」


 その話題はできればしたくなかった。

 だがジーンは思うところがあるのか、話を続ける。


「確かに女王陛下にとって、お子を成すというのは大切な義務です。これは絶対になさねばならぬことです」


「……はい」


「ですか」


 ジーンはメガネをクイッと上げる。


時期尚早じきしょうそうです。今あなたに休まれてはこの国が成り立たない。王としてもっと国を安定させてからにしてください。……あなたがしていることは正しいのですから胸を張りなさい」


「……ジーンさん」


 ジーンの言葉に胸が軽くなるのがわかった。

 そのとおりだ。

 今パンドラが休んでは、誰がこの国のために動くというのだ。

 あんな人たちの言葉を、鵜呑みにする必要はない。


「……スカーレット卿といい、みなさん優しい言葉をかけてくださって……本当に感謝です」


 シリウスにも改めて礼をしなくては。

 そう心に決めているパンドラの隣で、ジーンがああ、と納得したように頷いた。


「スカーレット卿とアース卿の仲の悪さは有名ですからね」


「そうなのですか?」


「アース卿は若くして重鎮に顔を連ねるスカーレット卿が気に食わないんですよ」


 やれやれと肩をすくめるジーンに、パンドラはそうなのかと頷いた。

 二人の不仲は有名なことらしい。

 確かに仲悪そうにしていたのを思い出す。


「もっといろいろなことを知らなくては……。私は女王なのですから」

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