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パンドラ王女と死神王子の呪われた婚姻  作者: あまNatu


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もどかしい気持ち

「パンドラ様、紅茶のおかわりをどうぞ」


「ありがとうございます」


「エル、俺にもくれ」


「自分で入れろ」


 アルの目の前にティーポットが乱暴に置かれる。

 しょんぼりしながら自分のカップに注ぐアルの目の前に、お肉がたっぷり入ったサンドイッチがハデスの手によって置かれた。


「ほら、食べろ。腹いっぱいになったらそれだけで元気になるだろう?」


「なるっすね! いただきます!」


 どうやら一瞬で機嫌がよくなったらしい。

 アルはすぐにサンドイッチに手を伸ばすと、豪快にかぶりついた。

 その様子を見ていて、パンドラは思わず笑ってしまう。

 なんて楽しい時間なのだと笑っていると、隣に座るハデスがパンドラのほおを優しく撫でる。


「寒くはないか? 上着を持ってこさせようか?」


「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


 日差しが心地よいため、そこまで寒さは感じない。

 ゆえにハデスからの気遣いに礼を伝えれば、そんなやりとりを見ていたアルがサンドイッチを急いで飲み込んだ。


「そいやよかったんですか? 呪いが解けたことを、公式に発表しなくて」


 そう、ハデスの手にはいまだに真っ黒な手袋がはめられていた。

 それは彼がいまだに、死の呪いが解けたことを公にしていないからだ。

 それに反応したのは、ハデスの肩に乗るシェレティアだった。


「そうだよ! せっかく僕が祝福にしてあげたんだから、もっと大々的に公表すべきだよ。ハデスは僕の寵愛を受けてるんだって!」


 ぶすっと唇を尖らせるシェレティアの前に、ハデスがクッキーを差し出した。

 それにシェレティアは喜んで飛びつく。


「わーい! クッキー美味しいよねぇ」


「私に呪いがあると思われていたほうが、都合がいいこともある。パンドラを守るための牽制けんせいにも使えるだろう?」


 確かにハデスの呪いはみなが知っている。

 そんな彼が隣にいることで、牽制できていることも間違いではない。


「でもそれなら僕の寵愛って言うのも、牽制に使えるんじゃない?」


「この国でならそうなのかもしれないな。だが他国のことも考えると、呪いが常にあるほうがいいだろうと思ったんだ」


「そうだけど……。せっかく祝福したのにー」


「感謝してるさ」


「――そう? んふふ。ならいいやー」


 感謝していると伝えられたシェレティアは嬉しそうにクッキーを頬張っている。

 そんな姿を見つつも、パンドラは少しだけ視線を下げた。


「ですがそのせいで、この王宮でも旦那様のことを恐れるものもいると聞きます。……旦那様は大丈夫ですか? おつらくは、ないのですか?」


 妖精に愛されたこの国で、妖精の呪いをその身に宿しているとされるハデス。

 そんな彼の存在を恐れるものは多い。

 誰も彼もがハデスに近寄らないようにしている。

 それにパンドラにハデスのことを悪く言ってくるものもいるのだ。

 あんな呪われた存在と一緒にいるべきでないと。

 あなたに相応しいものは他にいると。

 よりにもよって、その【呪い】という言葉に苦しめられていたパンドラに、だ。

 もちろん聞く耳は持たないし、そんなことを言ってきた人はちゃんと覚えている。

 思い出すだけでも腹が立つと、パンドラは唇をへの字に曲げた。


「私のことは私がどうにかいたしますので、加護のことを話してくださっても大丈夫なのですよ? ……この国では旦那様に心地よく過ごしていただきたいのです」


 ただでさえ、他国から王配としてやってきたハデスのことだ。

 きっとパンドラにはわからない苦悩があることだろう。

 だから少しでも心穏やかに過ごして欲しいのだが、彼は静かに首を振った。


「いい機会だとも思っているんだ。呪いがあるからとあれこれ言ってくるやつを見定められる」


「確かに。誰が敵で誰が味方かまだわかってないですからね。見定めるのには都合がいい気もするっすね」


「ご安心ください。ハデス様の悪口を言ったものは、全て顔と名前を覚えておりますから」


 なるほど。

 確かにそういう使いかたもできるのかもしれない。

 パンドラとハデスは同じなのだ。

 誰が敵か味方か、現状はわかっていない。

 そこを見極めるために、ハデスは呪いのうわさをそのままにするつもりのようだ。


「パンドラを守るためだけじゃない。私としても都合がいいからこうしているんだ。……だから大丈夫だ」


「……わかりました。ですがおつらくなったら教えてください。可能なかぎり対処いたしますので」


「ありがとう」


 しかしもどかしい気持ちもある。

 この国は今やパンドラが統べているというのに、王配であるハデス一人守ることができないなんて。

 もっと自分に力があれば、彼に要らぬ苦労をさせる必要もなかったのではないだろうか。

 そんな思いからパンドラは、人知れず眉間に皺を寄せた。

 こんな状態ではダメだ。

 やはりもっと早く動かなくては。

 廷臣たちとの話し合いでは、可能な限り発言して自分の意見を伝えよう。

 賛同されるかどうかは、やってみなくてはわからないのだから。


「――よし、そうしましょう」


「パンドラ? どうかしたか?」


「いえ、なんでもありません。旦那様、よろしければこちらのサンドイッチもいかがですか?」


 そう言ってハデスにサンドイッチを渡すパンドラ。

 そんな彼女を横目で見ていたシェレティアは、一人小さく呟いた。


「本当に人間って面倒だな」

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