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パンドラ王女と死神王子の呪われた婚姻  作者: あまNatu


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パンドラ女王と死神旦那様の呪われた婚姻

 穏やかな日差し。

 太陽の光は優しく、人々の頭上に降り注ぐ。

 小川は陽の光を浴び、ダイヤモンドのように輝く。

 花々は力強く咲き誇り、小鳥たちは美しい声でさえずる。

 子どもたちは走り回り、大人たちはそれを見て微笑む。

 しあわせな日々。

 それもこれも全て、この国を守護する妖精たちのおかげだ。

 人々は時折見える光の粒に祈りを捧げては、日常へと返っていく。


「ようせいのじょおうさまにはいつあえるの?」


「え? まあ、オマエったら! 女王陛下にそう簡単に会えるわけないじゃない」


「そうよ。女王陛下は王宮で、しあわせに暮らしているんだから」


 二ヶ月前メイア国に起こった、大地震。

 家屋は崩壊し森は燃え、湖は干からびた。

 それらは全て、妖精の怒りを買った王族のせいだと聞く。

 誰も彼もが王族に怒りを覚えた。

 憎しみをぶつけた。

 しかしそれが間違いであったと、すぐに気づいたのだ。

 なぜならその妖精たちを導き、この国を救ってくれたのも王族だったからだ。

 王女パンドラ。

 禁忌の存在と呼ばれ、不幸を撒き散らすと言われていた女性。

 そんな人が国を救うため、立ち上がってくれたのだ。

 だから国民たちはみなわかっている。


「女王様が統べる国は、きっと素敵な国になるはずだわ」




 夢を見る。

 夢だけはパンドラをしあわせな場所へと運んでくれるのだ。

 そしてその景色はいつだって、たった二ヶ月だけ暮らしていたあのマグリアにあるハデスの屋敷だった。

 ただ屋敷の中を歩く。

 窓から見える庭園を見ては微笑んで、また足を進める。

 今度は厨房にやってきた。

 そこに人はいないけれど、温かな食事が準備されている。

 それがどれほど美味しくて、優しいかをパンドラは知っていた。

 だから夢なのに、まるで記憶を辿るように匂いすら感じられたのだ。

 不思議な気分だが、無意識に深呼吸を繰り返していた。


「…………」


 くるりと踵を返して、また別の部屋へと向かう。

 次に行くのはハデスの私室だ。

 結局一度も入れてもらえなかった場所。

 その扉の前に立つと、パンドラは静かに扉を眺める。


「――旦那様。パンドラです」


 声をかける。

 するとすぐに扉が開く。

 中から、ハデスが出てくるのを待つ――。

 

「パンドラ様。おはようございます」


「……おはようございます」


 ぱちりと目を開ける。

 カーテンの間からこぼれる太陽の光を浴びて、パンドラゆっくりと上半身を上げた。

 今日もまた、一日が始まる。


「さあさ! 準備をしてしまいましょう!」


「……エルさん、なんだか元気ですね?」


「今日の朝ごはんはひき肉入りのオムレツなんです! 朝からお肉……! 今日は最高の一日になりそうです」


 お肉が好きらしいエルは、朝にお肉が出ると一日嬉しそうだ。

 その陽の気にでも当てられたのか、パンドラも楽しくなってしまう。


「そうですか。私も朝食が楽しみです」


「ですよね! なのでさくさく準備致しましょう!」


 そういうことならと、パンドラもベッドから降りる。

 エルの手助けを借りて、身支度を整えていく。

 毎日毎日、綺麗なドレスを着る。

 髪を結いあげ、美しい王冠をつける。

 手袋はない。

 ヴェールももう、つけていない。

 これがパンドラの日常になっていた。


「……相変わらず、王冠が重たいです」


「豪華なものですものね? ……公的な場以外では着けなくてもよいと言われていますが……」


「……そう、ですね」


 王冠も杖も、普段から着けるようなものではない。

 行事の時などにつければいいと、そう言われているのは知っている。


「……私がいけないのです。まだまだ未熟だから」


 視線を下げれば、前髪に目が隠れる。

 顔に影がかかり、しかしすぐに頭を上げた。


「何事も努力です!」


「え? まあ、そうですね?」


 グッと両手に力を入れたパンドラは、エルの手を借りて立ち上がる。

 今日もまた、女王としての仕事を全うしなくては。


「では参りましょうか?」


「――はい」


 この王の私室で眠るようになってから、毎日の日課となっている。

 朝起きて身支度をして、王宮にある庭園へと向かう。

 パンドラが王宮にきてから、妖精たちの力なのか、花々が咲き誇り続けている。

 そんな庭園に向かう時、パンドラは己の頰が高揚していることに気づいていた。

 気づいていても、止められないのだ。


「――旦那様!」


「――おはよう、パンドラ」


 庭園にはハデスがいる。

 アルとともに、毎日待っていてくれているのだ。


「おはようございます、パンドラ様! 今日の朝食はひき肉入りオムレツらしいっすよ。……って、もうエルに聞きました?」


「さっそくお伝えしたわ。だってひき肉ですよ、ひき肉。これで朝から元気いっぱいになれるってもんですよ」


「食い意地張ってんなー」


「お前が言うな!」


 エルがアルの頭を叩く。

 それを見ていたパンドラとハデスは揃って笑う。

 代わりない日常。

 しあわせな空間。

 手放したくないと必死になった、大切なもの。


「ほら、お前たち。そこまで言うなら、さっさと食事に行くぞ」


「オムレツにチーズをかけてもらうのはどうでしょうか?」


「最高! お腹すいたー!」


「口がもうひき肉オムレツです!」


 パンドラは歩む。

 ハデスとアル、エルとともに。

 しあわせな日々を、これからもずっと――。

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