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パンドラ王女と死神王子の呪われた婚姻  作者: あまNatu


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妖精の泉

 地下へと続く階段を降りたパンドラを待っていたのは、美しい花々に囲まれた泉ようなものだった。

 妖精の羽が生えた女性の像が真ん中にあり、その足元から水が湧き出しているのだ。

 そしてその周りを、無数の妖精たちが飛んでいる。

 だが残念ながら、パンドラには小さな光の玉にしか見えない。


「……私、シェレティア以外の妖精を見ることはできないのでしょうか? ここにいる子たちはみな、光の玉のように見えていますが……」


「ううん、パンドラにはちゃんと姿が見えるはずだよ。ただここにいるのは生まれたばかりの妖精だから、姿形が決まっていないんだ」


 生まれたばかりの妖精。

 こんなにたくさんいるのかと、あたりを回した。


「妖精は死なない。正確にはなにかの拍子に消えてしまうことはあるけれど、魂はここに戻る。そしてまた生まれ、姿形ができていくんだ。――人間とはちがうだろう?」


「はい。……とても不思議です」


「そうかもね。でね、ここは女王の清めの場所でもあるんだ」


「清めの場所……?」


 小首を傾げるパンドラの周りを、生まれたばかりの妖精たちがふわりふわりと飛んでいる。

 温かいその光がそばを舞うのは、とても居心地がよかった。


「パンドラはこれから、体調が悪くなったらここにくるといい。……必ず治るから。君の妹がハデスによって手を殺されただろう? あれもここの水をつかって治したんだよ」


「そんなことができるんですか!?」


「清めの場所だからね。……でも内緒だよ。ここを悪く使おうとする人間がいるだろうから」


 確かに美しい場所だ。

 そして力の強い場所でもあるのだろう。

 自然も豊かで、日もないのに光が当たっている。

 この場所を穢されるのは嫌だと、パンドラ自身も思った。


「わかりました。……ですが旦那様にも内緒なのですか?」


「まあ、ハデスが悪巧みするとは思えないけど……。知っている人間は少ければ少ないだけいい。本来ならメイアの国王しか知らない場所なんだから。……君の妹はここをいいように使って、妖精姫なんて名乗ってたみたいだけどね」


 それだけこの場所は、シェレティアにとって大切な場所なのだ。

 あれだけ好んでいるハデスにも、知らせないようにしたいなんて。

 ならその意思を、組むべきだろう。


「わかりました。旦那様にも内緒です」


「――うん。ありがとう」


 なにやら嬉しそうに笑ったシェレティアは、そのままパンドラの指先を掴むと泉へ導く。


「妖精たちも喜んでるよ。女王がきてくれたんだもん」


「そうなのでしょうか?」


「もちろん! 僕も嬉しいよ」


 本当に嬉しそうに笑うシェレティアに、パンドラもまた微笑みを返す。

 なんだろうか?

 この間会ったばかりなのに、シェレティアのことはずっと昔から知っているように感じる。

 これはパンドラの魂が妖精女王、彼の母親だからだろうか?


「シェレティアもここで生まれたのですか?」


 パンドラの魂の息子。

 そんなシェレティアに聞いてみれば、彼は静かに首を振った。


「そうだけど違う。僕はここで、妖精女王によって産み落とされた。王と女王の子どもとして」


「――シェレティアだけ、生まれ方が違うのですか?」


「うん。だから特別なんだ」


 他の妖精たちは泉から生まれる。

 だというのに、シェレティアは女王から生まれたのだ。


「僕もね、人間のように生まれた。だからここまで感情があるのかも。ほかの妖精はあまり感情がないから」


「感情がない?」


「自然のようなものだからね。喜怒哀楽はあるかもだけど、ほとんど表には出ないよ」


 それはつまり、シェレティアのように笑みを浮かべたりはしないということなのだろうか?


「あ、そうか。だから人間が嫌いなのかも」


「――え?」


 急にどうしたのだろうかとシェレティアを見れば、彼は一人納得したように頷く。


「僕から母を奪ったんだ。――憎んだっておかしくはないだろう?」


 そう口にしたシェレティアの瞳が鈍く光る。

 本心なのだろうその言葉に、パンドラは小さく息を呑んだ。


「だからその張本人の血筋であるハデスなんて、嫌いだと思ってたんだけどな。……パンドラがハデスを好きだからかな? 僕まで好きになっちゃったよ」


「――だ、旦那様は私のっ! 旦那様です!」


「今はねー!」


 ケラケラと笑うシェレティアは、そのままパンドラの肩へと止まる。


「ま、パンドラがこの国に帰ってきてくれてよかったよ。……僕もできるかぎり手助けはするから、よろしくね。――母様」


「…………!」


 パンドラを母と呼んだシェレティアは、少し寂しそうな顔をしながらほおを擦り寄せてきた。

 果たしてシェレティアがいくつの時に妖精女王が誘拐されたのかはわからないが、寂しい思いをしたのだろう。


「……はい。よろしくお願いします」


 正直まだ、自分が妖精の女王であるという自覚はない。

 けれど確かに今、パンドラの胸にはシェレティアを思う気持ちがある。

 彼の悲しい顔を、見たくないと思う。


「一緒にいましょう。……この国で、ずっと」


「…………うん。一緒にいよう。ずっと、ずーっと」

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