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パンドラ王女と死神王子の呪われた婚姻  作者: あまNatu


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夫として妻として求めないでくれ

 そうして初めて見る祖国を抜けて、隣国マグリアへとやってきた。

 妖精の加護がない国。

 その昔、メイアとマグリアは同じ国だったという。

 しかし玉座を狙い骨肉こつにくの争いをし、敗れたほうが現在のマグリアまで逃れ国を建てたらしい。

 その時のせいなのか、はたまたほかに理由があるのか。

 ――この国に妖精はいない。


「……本を読んでいてよかったです」


 嫁ぐ国のことをなにも知らないのは失礼にあたる。

 最低限の知識だけでもあってよかった。


「……それにしても私が妖精姫なんて」


 自分に真似なんてできるだろうか?

 一瞬しか見れなかったけれど、アリーシャは美しく自信に溢れた女性だった。

 もしバレてしまってはアリーシャや、相手の死神王子にまで迷惑をかけてしまう。

 そうなっては申し訳がなさすぎる。

 せめて求められていることだけでも果たさねばと、パンドラは背筋を伸ばした。

 心の中にアリーシャの姿を想像し続けるのだ。


「――よし」


 決意をあらたにした時だ。

 馬車が目的の場所についたのか、ゆっくりと止まった。


「…………っ」


 ついたのだ。

 死神王子の住まいに。

 王宮に向かうのだと思っていたが、馬車から降りたパンドラを待っていたのは大きなお屋敷だった。

 花々が咲き誇る庭の先、太陽の明かりを受け光り輝く噴水の向こう側に彼はいた。

 金色に輝く髪に、刃のように鋭い赤い瞳。

 肌は雪のように白く、薄い唇は真一文字に紡がれている。

 近寄りがたい雰囲気の男性が、十人ほどの使用人と共にパンドラを待っていた。


「…………」


 この人が死神王子。

 もっと恐ろしい人を想像していた。

 なんだかこの間ラルフからもらった本に出てきたヒーローに似ている気がする。

 女性が夢見る王子様とは、こういう人のことをいうのではないだろうか?

 彼は馬車から降りてきたパンドラを一瞥すると、形のいい唇を開いた。


「妖精姫。あなたには悪いと思っているが、私はこの結婚を望んでいない。ゆえにあなたを妻として求めない。だからあなたも私に夫を求めないでもらいたい」


 初対面でこれはなかなかなのではないだろうか。

 つまり死神王子はパンドラを妻として求めてはおらず、この結婚も誰かに勝手に決められたようだ。

 致し方なく結婚したのだろう。

 彼はパンドラに妻としての仕事をなに一つ求めていない。


(無理やり結婚させられてしまったのでしょうか……?)

 

 形だけの夫婦であること。

 それを彼が望んでいるのなら、パンドラはそれに付き従うのみだ。

 己の胸に手を当てると、軽く頭を下げた。


「かしこまりました。旦那様のご命令のままに」


「――…………」


 ひゅっと息を吸う音が聞こえた。

 だが頭を上げるのは失礼にあたるだろうとそのままにしていると、足音が聞こえ遠ざかっていく。

 死神王子がいなくなったのだろう。

 しばし待ってからゆっくりと顔を上げる。

 するとパンドラの前にいたのは、同じ顔をした男女だった。


「はじめまして。奥様の身の回りのお世話をさせていただきます、エルと申します」


「同じく、奥様の護衛を仰せつかりました。アルと申します」


 これほど容姿が似た二人となると、たぶん双子なのだろう。

 耳の下あたりで綺麗に切り揃えられた深い青色の髪。

 女性のエルは前髪が右下がりに切り揃えられ、男性のアルは左下りに切り揃えられている。

 独特なデザインだがとても似合っており、パンドラは感心しつつも頭を下げた。


「よろしくお願いします。パン――……アリーシャと申します」


「…………」


 自己紹介をしたのだが、返答がない。

 なにか変なことをしただろうかと焦ったが、エルとアルはお互いの顔を見合ったあとにっこりと微笑んだ。


「妖精姫なんて呼ばれてるお姫様だから、もっと横柄な人かと思ってた!」


「アル! 失礼なことを言わないの」


「ごめんなさーい」


 しまったと、パンドラは顔を青くした。

 確かに彼らの言うとおり、王族ならばもっと威厳を持って接しなくてはならないはずだ。

 あわあわと慌て出したパンドラに小首を傾げつつも、エルとアルは胸に手を当てると頭を下げた。


「なんなりとお申し付けください。殿下より、奥様になに不自由なく過ごしていただけるよう、尽力するよう仰せつかっております」


「外に出られる際は私めにお声がけください。御身をお守りいたします」


「あ、ありがとうございます……」


 どうやらバレてはいないらしい。

 ほっと安堵しつつも、優しい言葉をかけてくれるエルとアルに心が温かくなるのを感じる。

 死神王子と対峙した時はどうなるかと思ったが、パンドラが苦労しないよう使用人たちにも声をかけてくれているようだ。

 ならその恩に答えるためにも、彼の望む通りの妻を演じなくては。

 妻としての仕事はしない。

 夫として彼を求めない。

 それくらいなら、パンドラにだってできるはずだ。


「ご迷惑をおかけしないようがんばります!」


 決意を新たにするパンドラを見て、エルとアルはこっそりと互いに耳打ちをする。


「…………やっぱり変なお姫様だ」


「…………そうね」


 当のパンドラは、まさかそんなことを言われているなんて気づきもしなかった――。

 

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