前途多難
メイア国の騒動は、一日で鎮火した。
元を辿ればすべての原因は、妖精たちの加護がなくなったからだ。
パンドラが女王としてメイア国に残れば、妖精たちはまた手を貸してくれる。
とはいえ、元どおりにとはいかない。
今回の件で亡くなった人は百人を超え、倒壊した家屋も数えきれないほどだ。
それほどの被害に見まわれながらも、メイア国の国民たちの顔には笑みが浮かんでいた。
わかっているからだ。
この国の未来は明るいと。
「ようせいさまどこにいるのかなー?」
「どこだと思う?」
「んー? おしろかなぁ? じょおうさまがいるんだよね?」
「そうよ。……妖精の女王様が、この国を守ってくださるのよ」
そんな声が国のあちこちで聞こえ始めていることを、王宮にいるパンドラは知らなかった。
元どおりに戻った王宮にて、パンドラは国の廷臣たちを集めた会議に参加している。
重々しい空気の中、国の今後を話し合っていた。
「……国王陛下及び、王妃様が亡くなられました。妖精姫ことアリーシャ様は一命を取り留められましたが、現在も療養されております」
パンドラの隣に立つのは、メイア国宰相、ジーン・ロイズ。
眼鏡の奥にある冷たい瞳を輝かせながらも、彼は淡々と話を進めた。
「さらには当時王宮にいた者たちの話を総合し、妖精様たちに手助けをしていただく条件も合わさり……。ここにいる第一王女、パンドラ・メイア様を女王と致します」
その宣言を聞いた廷臣の一人が、テーブルを力強く叩いた。
「ふざけるな! 女が君主になるなぞ、メイア国の恥だ! しかもその女は呪われた存在で、他国に嫁いだんだぞ!?」
「そうだそうだ! せめて妖精姫の回復を待つべきだ。そうでなければ他国に馬鹿にされるぞ!」
ざわめきは大きくなる。
大多数が否定派の室内では、パンドラを否定する声ばかりが響く。
そんな部屋にこだまするのは、一つの咳払いだ。
「他国の前に、自国の心配をしたらどうです? ――パンドラ様が女王にならなければ、この国は妖精の加護を失います。そうなったらどうなるかは……ほんの数日前に体感したでしょう」
眼鏡を上げながらジーンが単調な声で告げる。
それに唸り声を上げたのは、最初にパンドラを否定した男だ。
「そもそも本当にその女のおかげで妖精の加護が戻ったと? 妖精姫は妹君だろう」
「その妖精姫がいてもあれだけのことが起こった。そしてパンドラ様が戻られて、妖精の加護が戻った。……これが全てです」
「しかし――!」
ドンっと、今度はパンドラの真隣で大きな音がする。
何事かと横を見れば、ジーンが拳をテーブルにぶつけていた。
「ぐだぐだとやかましい。あんたのくだらない欲が満たされないからってギャーギャーわめくな。豚か、貴様らは」
「――なっ……!?」
「今は国のことを考えろ。その結果私がパンドラ様を女王とすると言ったんだ。文句があるのならさっさと出ていけ」
「――っ、きっさま!」
まさに一触即発。
騒いでいた男が立ち上がり、座っていた椅子が大きな音を立てて倒れた。
双方睨み合いを続ける中、パンドラは静かに立ち上がった。
「やめてください。……今はまだ、私を認めてくださいとはいいません。ですがこの国は安全とは言えません。妖精たちに力を借りるためにも……よろしくお願いします」
頭を下げる。
今すぐ認めてくれとは言えない。
言ったところで無理なのもわかっているから。
けれど今パンドラが女王となるより他に、この国が豊かになる道はない。
だからこの人たちに、認められるような女王にならなくては。
「――……わしは認めんからな」
「私もだ」
ガタガタと音がする。
椅子から立ち上がり、去っていく人々の足音もした。
パンドラはその音がなくなるまで頭を下げ続け、静まり返ってから顔を上げる。
そして部屋の中に誰もいないことを見てから、ふう、と大きく息を吐き出した。
「――やめなさい」
「――っ!? あ、ロイズ宰相様……」
「王が、簡単に頭を下げるものではない。それでは舐めてくれと言っているようなものです。私のことも、様付けしないよう気をつけなさい」
「……すみません」
ジーンがいることに驚きつつも、その後の叱責にはさすがのパンドラも項垂れてしまう。
まさにそのとおりすぎて、ぐうの音も出ない。
「……あの、ありがとうございます。私を女王にと認めて――」
「認めたわけではありません。それしか選択肢がないのだから、諦めるより他にないだけです」
ズバズバと言ってくるなと、思わず胸のところを押さえてしまう。
さすがに少し傷つくと、思わず下を向いてしまった。
「――あなたがすべきことは、王として認められるように努力することです。……以前の王よりは、国民のためにと行動している姿は賞賛に値しますが」
「…………あり、がとうございます」
「――今は耐える時です。……そのために支えるくらいはしますよ」
「……ありがとうございます」
まさかそんなことを言ってもらえるなんて思わなかった。
二度目の礼を伝えれば、ジーンは大きくため息をつく。
「謝るのと同じくらい、礼も簡単に言うものではありませんよ。……まあ、悪い気はしませんがね」
それでは、とジーンも部屋を出ていった。
誰もいなくなったそこで、パンドラは今度こそ大きくため息をつく。
「……うまくいくといいのですが」
本当に、前途多難だ。




