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パンドラ王女と死神王子の呪われた婚姻  作者: あまNatu


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祈りを捧げる少女

「――なんっって最低な人たちなんでしょうか!?」


 ハデスの脅しが効いたのか、パンドラたちは何事もなくメイア国王宮を抜け出すことができた。

 馬車に乗り込んだパンドラの顔色が悪いことを、気遣ってくれたのだろう。

 ある程度進んだ先で、少しだけ休憩を入れてくれたのだ。

 そこでついてきてくれていたアルとエルに事情を話せば、彼らは顔を真っ赤にして怒ってくれた。


「なるほど。ならやっぱり俺らが睨んだとおり、奥様こそ妖精姫だったんだな」


「そうよ! なのに平然と嘘をついていたなんて……っ!」


「そうと決まればこんな国に、長居する必要はないっすね。今すぐ帰りましょう」


「そうね。奥様の体調がよくなったら、速攻帰りましょう」


「……お気遣いありがとうございます」


 双子の気遣いがありがたい。

 パンドラとしても今はこの国にいたくないと思ってしまう。

 ひとまず気分も落ち着いたので、早くマグリアへ帰りたい。


(……ああ。本当に、私の居場所はここにはないのですね)


 帰りたいと思うのがマグリアとなった今、この国に未練はない。

 パンドラが大切だと思うものは全て、あの国にあるのだから。


「……もう大丈夫です。今すぐに帰りま――」


 ならばここでぐだぐだしている必要もない。

 さあ帰ろうと、立ちあがろうとしたパンドラは、大きな揺れを感じた。

 足元がぐらりと揺らぎ、倒れ込みそうになるのをハデスが支えてくれる。


「――な、なんですか、これは……っ!?」


「地震だ。……大きいぞ」


 地震なんてはじめて感じた。

 妖精が守護するメイア国で、こんなこと今までなかったからだ。

 パンドラはハデスに支えられながら、大きな揺れに耐え続ける。


「――これも、妖精様の力なのでしょうか……?」


「…………可能性は高いな。これでは……っ、建物も崩壊するぞっ!」


 ハデスの言うとおり、少し離れたところでなにかが崩落するような大きな音が響く。

 人々の悲鳴がこだまし始めたころ、やっと揺れがおさまってきた。


「……大丈夫でしょうか?」


「どうだろうな。とはいえ、ここにいて巻き込まれるわけにもいかない。ひとまず離れよう」


「はい」


 差し出されたハデスの手に答えて、パンドラが馬車に乗り込もうとしたその時だ。

 一際大きななにかが崩れる音がした。


「――…………あれ、は……」


「……王宮の方だな」


 遠くの方にいる、美しい白亜の城。

 目を凝らして見てみれば、確かに右端が少し欠けているように見えた。


「まさか、城が崩落を……?」


「……可能性はあるな」


「見てきましょうか?」


「いや……」


 パンドラは触れたままだったハデスの手を、思わず握ってしまう。

 それに気づいているハデスが、パンドラを心配そうに見つめている。


「……パンドラ。気になるか?」


「…………旦那様。私は――」


 気になるかと聞かれれば、気にはなってしまう。

 あの王宮にいい思い出なんて一つもない。

 むしろあそこは、つらい記憶しかないのに。

 なのにどうして、こんなにも胸がざわつくのだろうか?


「…………わたし、は」


「――王宮へ戻ろう、パンドラ」


 ハデスの言葉に、パンドラは下がっていた視線を上げた。

 優しいハデスの笑みに、パンドラは静かに頷く。


「ありがとうございます、旦那様」


「いいんだ。私としてもこの状況は気になる。……無事だといいのだが」


 またしても大きな崩落の音が聞こえる。

 人々の悲鳴や嘆きの声も大きくなっていく。


「エル、馬を貸してくれ。……なにがあったのか調べる」


「あれだけの地震です。道中も道が安全とは限りませんので、私とアルで先導いたします」


「よろしくお願いします」


 馬車に安全なところで待つよう告げ、ハデスはアルが乗っていた馬にひらりと乗り上げた。

 身のこなしから、馬に乗るのが慣れていることがわかる。

 手綱を軽く引きながら、ハデスはパンドラへ手を差し出した。


「乗れるか? 馬車では通れない道があるかもしれない。……不自由をかけてすまないが、馬で行こう」


「私のわがままなのですから、どうぞ謝らないでください。……ありがとうございます、旦那様」


 ハデスの手に触れれば、軽々と引き上げられる。

 エルの手助けもあり、パンドラはハデスの前に座る形で馬に乗った。


「では私たちが先に行きますので」


「お気をつけて」


 同じようにアルの馬に乗ったエルに別れを告げ、パンドラの乗る馬も走り出した。

 後ろからハデスが支えてくれているからか、それとも馬に乗るのが二回目だからか。

 そこまで不安もなく乗ることができた。


「……ひどいな。パンドラ、向こうが見えるか?」


「――火が……っ!」


「地震のせいで火事も起こっているようだ。雨も降らず空気も乾燥している。……火が広がるのは想像よりも早いかもしれないな」


 逃げ惑う人々。

 嘆き、苦しみ、傷つく者たちの叫び。

 燃え上がる炎と、崩れ落ちる家屋。

 まさに地獄のような後悔が、眼下に広がっていた。


「……ひどい……っ」


「王宮が崩れているのなら、救援には時間がかかるだろうな。あいつらが己が身を犠牲にしてまで、国民を助けるとは思えない」


 崩れた家の前で立ちすくむ男。

 息耐えた赤子を胸に抱く母。

 いなくなった親を探し涙する子ども。

 あの自然豊かで美しいメイア国が、こんなふうになるなんて誰が想像しただろうか?


「……こんなのっ」


「――妖精様! 妖精様! どうかお助けください――っ!」


 パンドラが嘆きの言葉を紡ごうとした時、一際大きな声が耳に届いた。


 ――それは、妖精に祈りを捧げる少女のものだった。


 右腕に大きな火傷痕を残した少女は、天に向かって両手を組み祈っていた。

 大粒の涙を流し、灼熱の炎を吸いながらも何度も声を上げる。


「妖精様! 妖精様……! お願いいたします、妖精様! どうか、どうかお怒りをお鎮めください!」


 パンドラはその姿を、息を呑んで見つめた。

 見つめることしか、できなかったのだ……。


「――パンドラ、行こう。今の我々にできることはない」


「…………はい」


 ハデスが馬を走らせる。

 その間もずっと聞こえていた少女の声は、どんどん掠れていき、やがて聞こえなくなった。


「…………っ」


「大丈夫か?」


「……はい」


 胸が苦しい。

 少女の祈りを聞いた時から、胸が締め付けられるような感覚に陥った。

 切なる願いを聞いたからだろうか?

 それに……。


(また……。また、背中が痛い……)


 肩甲骨の間が、また燃えるように熱かった――。

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