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パンドラ王女と死神王子の呪われた婚姻  作者: あまNatu


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願えばかなうこと

「――奥様!」


「――っ、はい!」


 真っ暗な世界から、アルの声で戻ってこれた。

 ぱちりと目を開けたパンドラは、二度三度と瞬きを繰り返す。

 なんだかぼーっとする頭を、首を振ることで正常に戻した。


「……どう、でした? なんかわかりました……?」


 藁にもすがるようなアルの表情に、パンドラは先ほど見た扉を思い出した。

 隠されるように奥まったところにあるそこに、門番の如く仁王立ちする屈強な男。

 怪しくないわけがない。

 しかし今見たことが真実なのかもわからない。


「あの……」


「大丈夫っす。ひとまず話してもらえますか?」


 自信のなさが顔に出ていたのか、アルは力強く頷いた。

 その優しい言葉に諭されて、パンドラは意を決して話始める。


「――夢のようなものを見ました。裏路地に隠されるように扉があって、そこに大柄な男性が二人、まるで見張りのように立っていたんです」


「それ、どこっすか?」


「案内します!」


 こんな嘘みたいな話を信じてくれるなんて、それほど切羽詰まっているのだろう。

 きっと船の出航時間が近いのだ。

 パンドラは街の中へと入り、先ほど夢で見た宿屋へと向かう。

 その時だ。


「――?」


「どうしました?」


「あ、いえ。少し背中が……」


 肩甲骨の間がチリっと熱を帯びた気がしたのだ。

 肩に触れつつも首を傾げたパンドラは、はじめて馬に乗ったから筋肉が緊張しているのかもしれないと思った。

 軽く肩をさすりつつも、すぐに視線を元に戻す。

 本当に宿はあるだろうかと不安に思いながらも進めば、夢見た場所にそれはあった。


「……ここの隙間に入ります」


「俺が先導するので、案内お願いします」


「かしこまりました」


 アルの指示どおり、彼を先頭にして蝶に導かれた道を進む。

 裏路地はわかりにくいかとも思ったが、夢が夢だとは思えなかったからか、パンドラはしっかりと覚えていた。

 あっという間に例の扉と屈強な男二人を見つけて、アルとともに身をひそめた。


「……正解っぽいっすね」


「――本当ですか……?」


「あんなわかりやすく見張り立てて、なにもないはずないっすから」


 どうやらハデスの居場所を特定できたようだ。

 なら次にするべきことは、彼の身柄を確保すること。

 しかしそのためには……。


「二人かぁ……。やれなくはないけど……中にも仲間がいる可能性を考えると、騒ぎは起こせないな」


 アルはいろいろ頭の中で算段を立てているようだ。

 しかし二人相手で騒ぎを起こさないようにするのは、いささか難しいらしい。


「どっちかがトイレにでも行ってくれれば楽なんだけどなぁ……」


 ハデスをうまく救い出すには、男が二人揃っているのは厳しいようだ。

 パンドラは右側の男を見ながら、思わず心の中で祈る。


(お願いします……! お手洗いでもなんでもいいので、その場から離れてください――!)


 もちろんそんなことを願いながらも、そんな都合よくはいかないよなと唇を噛み締めていた時だ。

 右側の男が急に体を震わせた。


「ちょい、便所行ってくる」


「はあ!? お前さっきも行ったじゃねーか!」


「酒飲んでっからよー」


 そう言いながら右側の男が去っていき、それを見ていたアルがポカンと口を開いた。


「………………マジ?」


「よ、よかった……です?」


 まさかのことが起きた。

 一体なにが起こったのかはわからないが、いなくなってくれたのならちょうどいい。

 パンドラはぐっと両手を握りしめた。


「旦那様を助けに行きましょう!」


「……俺、奥様連れてきてガチでよかったわ。この選択したあの時の俺を褒め称えよう」


「私なにもしていませんよ……?」


「幸運の女神様やぁ」


 なにもしてないのに拝まれてしまった。

 まあ悪い気はしないので微笑みながら、パンドラもペコペコと頭を下げる。


「んじゃ、とりあえず一人仕留めてくるので、ここで待っててくださいね」


「お、お気をつけて……!」


 アルの実力というのを知らないパンドラは、心臓がドキドキと高鳴っていく。

 怪我をしたりしないだろうか?

 もしあの男に勝てなかったら、パンドラはどう動けばいい?

 どうしたらアルを助けられるだろうか?

 ……なんて、不安に思っていたのに。


「――っし、オッケー。奥様、来てください」


 アルはパンドラの隣から一瞬で屋根の上へと向かい、屋根伝いに見張りの上へと向かい、その真後ろに音も立てずに降りた。

 見張りの後頭部を剣の柄頭を使い、力強くぶん殴る。

 巨大が崩れ落ちるのを支えつつ、近くの小道に転がす。

 その時間わずが十秒ほどだった。


「…………すごいです。アルさん、とってもお強いんですね」


「まあ奥様の護衛ですから。でも俺より殿下のほうが強いっすよ。俺もエルも殿下に剣の使い方を教わりましたから」


「…………帰ったら旦那様に剣術を見せてもらいます」


「そうしましょ。んで四人で外でピクニックでもしましょう。うまい飯もってさ!」


 アルの元へと向かいながら、一瞬そんな風景を想像してみた。

 真っ白な花が咲く丘に、シーツを敷いて四人で座っている姿。

 サンドイッチを美味しいと食べてくれるハデスに、紅茶を入れるパンドラ。

 クッキーの奪い合いをするアルとエル。

 鮮明に想像できたその景色に、パンドラは深く頷いた。


「ならなおさら、旦那様を無事に救い出さないとですね」


「俺も奥様も、もちろん殿下も怪我一つ負わずに。クッキー忘れないでください。エルの大好物なんで」


「お肉も用意します!」


「俺の大好物っす」


 そんな軽口を叩きながら、アルは扉に耳を押し当てた。

 どうやら中の音を聞いているようだ。


「…………とりあえず、近くに人はいなさそうですね。奥様、俺の後ろについてください」


「はい」


 アルの背中の方に移動して、姿勢を低くする。

 パンドラの準備が整ったのを確認してから、アルはそっと扉を開いた――。

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