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パンドラ王女と死神王子の呪われた婚姻  作者: あまNatu


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願いよ届け

「絶対奥様に怪我させないように立ち回りなさいよ。……殿下が無事に帰られても、奥様が怪我してたら承知しないから」


「そうなったら殿下にもぶん殴られるの確定しているから、絶対守り抜くよ」


「安心できないから言ってんのよ!」


 なんて双子のやりとりを終えて、パンドラは生まれてはじめてズボンを履いて馬に乗っていた。

 最初はもっと怖いかと思っていたけれど、アルが後ろから支えてくれているため、不安定さは感じない。

 なにより馬はとても可愛いし、吹き抜ける風がとても心地よかった。


「殿下はたぶん、マーレ国との間にある川を渡るため、港町で監禁されていると思います」


「なるほど……。例えばですが、王太子殿下の名の下に、マーレ行きのすべての船に乗る人を探ったりはできないものなのですか?」


「難しいでしょうね。そもそも殿下を普通に連れていくわけがない。積荷とかに隠すはず。……マーレの輸送船を勝手に探ったなんてことあれば、向こうに都合のいい借りを作ることになりますしね。マーレの国王は我が国に侵略する方法を探ってますから」


 普段ならそんなことはないのだろうが、今はどんなことであろうと弱みを見せたくないということだろう。

 確かに、マーレの輸送船を調べてハデスがいなかったらめんどうだ。


「なので俺たちの目的は、港町のどこかに監禁されているであろう殿下を探し、救い出すこと」


「わかりました」


 やるべきことは決まっている。

 なら一秒でも早く、ハデスの元に辿り着くまでだ。


「間に合いますでしょうか?」


「ギリですかね。殿下が連れ去られてから一時間は経ってる。馬車ならあと少しで港町に着く可能性が高い。早馬を走らせてるとはいえ、一時間の差はデカいっすから」


「…………急ぎましょう」


「もちろん」


 これ以上の無駄話は不要だと、アルは馬の足を早めた。

 風を引き裂くように颯爽と走る馬は、二人をあっという間に港町へと連れて行ってくれた。

 入り口で馬の手綱をくくりつけたアルは、草陰に隠れながらパンドラに声をかける。


「んで、どうっすか? 殿下の場所とかわかったりします?」


「いえ…………」


 さすがにそんなに都合よくはいかないだろう。

 アルはこう言ってくれているが、パンドラに特別な力なんて……。


「――いえ、やってみます」


 そんなこと言っている場合ではない。

 己を卑下するのはもうやめたのだ。

 ここでなにも起こらなくても、やらないよりずっといい。

 パンドラはいつものように両手の指を絡ませて、妖精に祈りを捧げる。


(妖精様……。どうか旦那様の居場所をお教えください……!)


 目を閉じて強く願う。

 この街のどこかにいるであろうハデスのことを想像するだけで、胸が痛くて仕方がない。

 寒くはないだろうか?

 怪我をしてはいないだろうか?

 とにかく無事でいて欲しいと願い続けるが、一向に彼の居場所がわかることはない。

 やはり無理なのか。

 自分ではハデスを救い出すことはできないのか。

 そんな考えが脳内をよぎる。


(旦那様……! 旦那様に会いたい……っ。無事に旦那様を見つけ出さなくては……!)


 力強く両手を握りしめる。

 どうか、どうか。

 ハデスに会わせてください。

 そんな願いは、しかし妖精に届くことはない。

 それでも諦めきれなくて、パンドラはまつ毛が涙に濡れるのを感じた。


(どうか、どうか妖精様。旦那様の場所に私をお導きください。……旦那様を失ったら私は……――生きていけないっ!)


 ここまで人のぬくもりを知ってしまった今、昔のように一人には戻れない。

 ハデスを失いたくない。

 彼のそばにいられないのなら、それは死んだも同じだ。

 これから先もずっと、ハデスのそばにいたい。

 彼とともに未来を歩いていきたいのだ。

 だからこそ心の中でそう叫んだ時だ。

 閉じているはずの視界に、きらりと光るなにかが見えた。


(え――?)


 まるで暗闇の中でロウソクの火が灯ったように、視界に色が現れる。

 世界は相変わらず暗闇なのに、人や物の輪郭が、虹色の線によって描かれているのだ。


(どういうこと……?)


 ここは一体なんなのだろうか?

 なぜ自分は目を閉じているはずなのに、時の止まった世界を見ることができているのだ?

 走り回る子どもたちも、客寄せをする商人たちも、みな一切の動きを止めたまま、輪郭だけが光り輝いている。


(これはいったい……?)


 パンドラが意識下で小首を傾げた時だ。

 顔の横を、虹色に輝く蝶が一匹とおりすぎる。

 ふよふよと飛ぶ蝶は、そのまま港町の中を進む。

 暗闇の世界の中にその蝶だけが色があるからか、どこに行ったのかがすぐにわかる。


(……)


 なのでパンドラはついていった。

 体を動かしている感覚はない。

 なのに意識下でのみ、足を進めている。

 不思議な感覚だが、恐ろしさは全くなかった。

 蝶はとある宿屋の横にある小道へと入り、二つほどのブロックを抜けた先を右に曲がる。

 そのまままっすぐ向かい、次は左に曲がった。


(ここは……)


 そして見つけたのは屈強な二人の男が守る、ひっそりと隠された扉だった。

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