表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンドラ王女と死神王子の呪われた婚姻  作者: あまNatu


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/49

希望の箱

「とにかく、殿下を探さないと。エルは奥様と屋敷に戻ってくれ」


「わかったわ」


 こんなところで待つことしかできないこの身が歯痒い。

 男ならば、アルのようにハデスを助けに行けるのに。

 パンドラは拳を強く握りしめる。

 悔しくて悔しくて、また涙が溢れた。


「奥様、手をお離しください! 血が出ております……!」


 わかっていても力がこもるのを止められない。

 生まれて初めてこんなに力を入れた。

 奥歯がギチッとイヤな音を鳴らす。

 それくらい、悔しかったのだ。


「――無力なこの身が……くやしいっ」


 ハデスを救いに行きたいのに……。


「――……なら行きます?」


「……はあ!? あんたなに言って……!」


 パンドラはパッと顔を上げ、目の前でふくらはぎを伸ばすように動くアルを見る。

 彼は今にも怒りだそうとしているエルを止めると、だって、と続けた。


「俺さ、ずっと思ってたんすよ。奥様って妖精に愛されてますよね?」


「それは……」


「それこそ妖精姫なんかより、ずっと。そんな奥様なら、妖精も力を貸して殿下を見つけてくれるんじゃないかなって」


「……そんな感で奥様を危ないところにお連れしようとしてるの? ぶん殴るわよ」


 眉間に皺を寄せたエルは、言葉どおり拳を振り上げた。

 しかしそれをまあまあと止めると、アルは話を続ける。


「藁にもすがる思いってやつよ。俺たちの命は殿下に捧げてる。……ならなにをしたって、あの人を無事に見つけ出すより他にないでしょ」


「それは……」


「奥様も同じ思いでは?」


 その通りだ。

 この身がどうなろうとも、ハデスを救い出したい。

 けれど……。


「私がいては、また災いが……」


 ハデスを救い出せなくなってしまうかもしれない。

 自分はやはり、彼のそばにいないほうがいいのではないだろうか?

 足手まといどころか、とんでもない不幸を振り撒いてしまうかもしれない。

 そう思うと、パンドラはなにも言うことができなくなった。

 ハデスを救いたい。

 けれど己では……。

 黙り込んだパンドラの前にアルが立つと、両手でパンドラの頰をヴェール越しに優しく挟み込んだ。


「奥様。奥様の育ってきた環境を配慮して仕方ないと思ってましたけど、さすがにネガティブすぎっす。殿下の誘拐と奥様は一ミリも関係ありません」


「ですが……」


 まだ言い訳をしようとするパンドラに、アルは盛大なため息をついた。


「ならなおさら一緒に行きましょう。これで殿下を救い出せれば、奥様はパンドラの箱なんかじゃない。殿下にとっては幸運を呼ぶ……妻? っす」


「あんたいい例が思いつかなかったんでしょ。――希望の箱、でいいんじゃない? パンドラの箱に唯一残ったのが、希望なんだから」


「んじゃそれで」


 アルがエルを指差すと、すかさずエルがその指を掴み反対側に折ろうとする。

 慌ててそれを止めるアル。

 そんな二人のやりとりを見ていて、パンドラはふと肩から力が抜けるのがわかった。


「……希望の、箱」


「奥様がいらっしゃって、殿下はしあわせそうですよ」


「俺たちだって日々楽しいっすよ。それは全て、奥様が運んできてくださったものっす」


 そうだろうか?

 そう思っても、本当にいいのだろうか?

 自分なんかが、本当に――?


(――いいえ)


 自分なんかがなんて、思うのはもうやめよう。

 ハデスもアルもエルも、こう言ってくれているのだから。

 自分のことは信じられなくても、この人たちのことなら信じられる。

 ならもう、答えは決まっていた。


「私、行きます。旦那様を迎えに」


「――奥様……」


「わかりました。なら、エルと服を変えてください。ドレスじゃ動きにくいっしょ」


「はぁ!? あんた……っ、ほんとに! 帰ってきたらぶん殴ってやるんだからね!」


 エルはそう言いつつも、ジャケットを脱ぐ。

 そういうことならと、パンドラもアクセサリーを外しているとアルが部屋の隅に移動しながら言う。


「そうだ、奥様。顔のヴェールも外してくださいね。そんなのつけたままじゃ、目立つし探しにくいでしょ」


「――……そう、ですね」


 パンドラはゆっくりとヴェールに手をかけた。

 心の中では本当にいいのかと、問う自分がいる。

 そんな感情に無理やり蓋をして、意地でヴェールを取ろうとした時だ。


「奥様。俺たちにとって、一番の不幸は殿下を失うことっす。今それが起こってしまってるんだから、今更奥様から不幸をもらうなんてことないっすよ」


「殿下を救い出すこと。……どうか奥様の手で、しあわせを掴み取ってください」


「……お二人とも……。――ありがとうございます」


 その通りだ。

 ハデスが隣にいないこと以上の不幸なんてない。

 今が一番最悪ならば、あとは上がっていくより他にないだろう。

 パンドラは震えの止まった手でヴェールを掴むと、ゆっくりと脱ぎ去った。

 真っ黒なヴェールが床に落ち、視界がクリアになる。

 もう、卑屈になるのはやめよう。

 希望の箱になってみせる。


「旦那様を救い出しましょう」


「……」


 目の前にいるアルは、パンドラを見て大きく目を見開いた。

 しばしの沈黙。

 その後アルはへにゃりと笑う。


「奥様って、全部綺麗っすね。……殿下が羨ましいや」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ