家族の中に少しは入れたかな?
そんなこんなで始まった食事会で、パンドラは緊張のあまり食事が喉を通らずにいた。
ハデスの父と兄、姉とともに食卓を囲んでいるのだが、流石に夫の家族ともなると緊張してしまう。
なるべく態度に出さないよう努めつつ、ステーキを一切れ口に含んだ。
絶対美味しいはずなのに味がしなくて少し悲しい。
とはいえハデスの言うとおり家族仲が悪いわけではないのだろう。
ちなみに兄であるゼノと姉であるヘスティアは、ハデスにそっくりの美形である。
こんなに美しい人たちに囲まれているなんて、なおさら緊張が止まらない。
あまり食事が進んでいないパンドラに気づいたのか、ヘスティアが声をかけてきた。
「パンドラちゃん? 大丈夫かしら?」
「――大丈夫です! すみません……!」
「見知らぬものに囲まれては、緊張もするだろう」
そう言うのは国王だ。
兄弟みな母親に似ているのだろう。
立派に蓄えたヒゲを撫でつつ、国王は笑う。
「気負う必要はない。家族の食事だと思って、気軽にしてくれ」
「ありがとうございます……」
とはいえパンドラは家族の食事を知らない。
粗相をしたりはしていないだろうか?
本当に大丈夫だろうかと焦っていると、兄であり王太子であるゼノが口を開いた。
「そういえば祖国は大丈夫かい? 聞いた話によると、不作が続いているとか」
「――不作、ですか?」
「……聞いていなかったようだね。失礼」
ハデスよりも長い金髪を揺らしながら、ゼノが謝罪してきた。
パンドラは何度も首を振りながらも、しかしふと考えてしまう。
妖精に愛された国で、不作なんてことはあり得ないはずだ。
それがメイア国の強みでもあったのに。
「妖精がいるのにメイア国で不作なんて……」
「そうなんだけれどね。海も荒れていて、雨もほとんど降っていないようだ。……誰かが妖精の怒りでも買ったのかもしれないね」
ゼノのその言葉に、ヘスティアはふわふわとした長い髪をかきあげながら笑う。
「あの妖精姫ではなくて? 結局ハデスの呪いが解けなかったのも、あの女が妖精に愛されていない証拠では?」
「さあ。真相はわからないが……」
ゼノはふと考えるように視線を横へとずらした。
「僕としても、あの妖精姫は少し調べたほうがいいと思うよ。もちろん父上さえよければ、だけれど。メイアとは一応国交はあるわけだしね」
「…………ふむ、確かにそうだな。……ハデスはどう思う?」
国王からの問いに、ハデスは赤ワインの入ったグラスをテーブルに置いた。
「私としてもあの妖精姫についてはいくつか疑問があります。なので調べるのでしたらご自由になさってください」
「そうか。パンドラ、君はどう思う?」
「わ、私は……アリーシャが妖精姫だと信じて疑わなかったので……」
ああ、うまく返すことができないことがもどかしい。
言い淀むしかできないことを心の中で嘆いていると、国王は優しい眼差しを向けてくれた。
「大丈夫だ。君が嫌でなければ、この話は進めさせよう」
「い、嫌ではありません。お気遣いありがとうございます」
「ならばゼノ。うまく進めてくれ」
「かしこまりました」
どうやらうまく話が進んだようで、パンドラはほっとした。
自国のことであるのに、パンドラはあまり詳しくない。
それが恥ずかしかった。
無知だと思われてはいないだろうか?
もう呪われた女だと知られているだろうけれど、ハデスの家族には少しでもよく見られたいと思ってしまうのだ。
「それにしてもパンドラちゃんがいい子そうでよかったわ。本当は素顔をちゃーんと見たいけど……。無理強いはダメよね」
「そうだね。まああのハデスが一緒にいたいと願うような子だから、あまり心配はしていなかったけれど」
「妖精姫とやらが来なくて逆によかったのかもしれないな!」
ガハハと豪快に笑う国王に、ハデスは鼻の頭に皺を寄せた。
「妖精姫が私の妻になっていたら、今ごろメイアと戦争になっていたかもしれませんね。……彼女は私に触れられない。けれどあの性格では……」
「無理矢理にでも触れようとして死んでたかもね。……まあ自分の幸運に感謝なさい。いいお嫁さんが来てくれたんだから」
「わかっています」
「――そんな! 私のほうこそ感謝です……!」
感謝するのはパンドラのほうだ。
こんなに素敵な旦那様に出会えて、しあわせでしかないのだから。
「息子夫婦の仲がよくてけっこう! これなら思ったよりも早く孫に会えるかもしれないな!」
盛大に笑う国王に呆れた顔をしつつも、ヘスティアがパンドラのほうに少しだけ椅子を近づけた。
「パンドラちゃんはハデスに触れるんでしょう? こんなの運命よね! 知り合いに物書きがいるんだけれど、情報提供してもいいかしら?」
「えっと……?」
「ダメに決まってるでしょう」
ハデスがズバリと言ってくれたことに安堵したが、ヘスティアは不服そうに唇を尖らせた。
「えー! 世論ってとっても大切よ? 今から世論を味方にしておけば、いろいろ安泰なのに……!」
「結構です」
ヘスティアもそうだが、ハデスも気やすい感じがする。
これが家族の会話なのだろうか?
だとしたらとっても素敵な空間だなと、パンドラは静かに微笑んだ。




