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パンドラ王女と死神王子の呪われた婚姻  作者: あまNatu


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あたしが最高一番なの!

 マグリア王国王宮にて、その日豪勢なパーティーが行われていた。

 春の訪れを祝うパーティーでは、人々は淡い色で装いを合わせる。

 まるで水々しい花々が咲き誇るかのように、ドレスの裾がふわりと浮く。

 そんな中、人々の注目を浴びているのはもちろん、隣国メイア国からやってきた妖精姫だ。

 妖精に愛された少女、アリーシャ・メイア。

 そしてその婚約者に人々の視線は釘付けだった。


「なんて可愛らしい女性なんだ」


「笑顔が花のように輝いて見えるわ。……まさに妖精姫ね」


 そんな人々の言葉が耳に入り、アリーシャは人知れずニヤついていた。

 自国での賞賛も美味しいけれど、他国だと違った味わいがあってなおよい。

 心地よさに酔っていると、アリーシャの隣を歩くラルフが耳打ちしてくる。


「アリーシャ……。それで、パンドラは……?」


「またその話? あんたもっと面白いこと言えないわけ?」


 死神王子なんて呼ばれている男に嫁ぎたくなかった。

 アリーシャの未来はもっと輝かしいものでなくてはならないのだから。

 自分は生まれながらに全てを持っているのだ。

 人々が羨ましがる美貌も、王女という地位も、妖精姫という名の名声も。

 ならそんな生贄のような結婚はごめんだと思うのも、普通だろう?

 だから一応姉と呼ばれている、顔も知らない女の婚約者を奪ってやった。

 アリーシャの代わりに嫁がせるのに、これほど都合のいい存在が他にいなかったからだ。

 一応王族の血筋なのだから、いざ替え玉がバレたとしてもマグリア王国からの怒りを多少は抑えられるはず。

 呪われているもの同士でお似合いだろう?

 だからこの男を奪いアリーシャの婚約者にしてあげたのに。

 あれだけきっぱり言い放って捨てた元婚約者に、なにやら罪悪感を抱いているらしい。

 なんて情けない男なのだと、アリーシャは鼻で笑う。


「あのね。こんな人がいるところにあの呪われた女が来れるわけないでしょう? 人前に姿を現すことさえ大罪なのよ?」


 まさにパンドラの箱。

 そんな存在が大勢の前に現れるわけがない。

 それに嫁いだ先でアリーシャではないとバレて、無事でいられるはずがないのだ。

 おおかた死神王子と呼ばれる男に、命を奪われているのではないだろうか?

 そうなったら少しは世界も平和になるというのに。

 なんて心の中で思っていた時だ。


「――見て! 死神王子よ……」


「あら、珍しい。普段パーティーになんてこないのに」


「これないの間違いでしょう? 呪われた妻まで連れて……」


「お似合いじゃない」


 どうやら件の死神王子と一緒にパンドラがやってきたようだ。

 まさか人前に姿を現すなんて、なんて恥晒しなのだと眉を顰める。


(あたしが不幸になったらどうしてくれるのよ)

 

 うわさ話をする人たちを見るに、やはり死神王子は嫌われているようだ。

 そんなやつに嫁がなくて本当に良かったと安心しつつ、アリーシャは人々の注目が集まる場所へと向かう。

 ちょうど国王に挨拶を終えたらしい、死神王子と美しいドレスを身に纏った女がいた。


(ふーん。……あれが死神王子? 見た目だけならかなりいいじゃない)


 金色の美しい髪を靡かせて歩く死神王子は、見た目だけならアリーシャが理想とする王子様のようだ。

 実際マグリアの王子なのだから、呪いさえなければ嫁いであげてもよかった。

 本当に残念である。

 さらに残念なのはその隣にいる女、パンドラだ。

 ドレスだけは最高級品を着ているのがわかるが、顔にヴェールをつけているせいで台無しである。

 あれならアリーシャがあのドレスを着たほうがずっといい。

 死神王子に嫁いだら好きなだけ最高級品のドレスを着れるのだろうか?

 それなら嫁ぐだけ嫁いで、よそに愛人を作るでもよかったかもしれない。


「――あ、そうか。あたしが呪いとやらをといてあげればいいのか」


 呪いさえなければ死神王子はただのイケメン王子になる。

 そうなったらアリーシャに似合う存在になれるのだ。

 死神王子としてもパンドラなんて触れられもしない女より、絶対アリーシャのほうがいいに決まっている。

 それに呪いまで解いてあげるのだから、彼はきっとアリーシャにメロメロになるはずだ。


「ほら、会いたがってた不幸女よ。挨拶に行きましょう」


「ああ……。そうだな」


 そうなったらこのいまいちパッとしない男は、パンドラに返してあげよう。

 交換するのならなんの問題もないはずだ。

 みんなしあわせな結末になるのだから、アリーシャに感謝してほしいくらいである。

 とにかく死神王子の呪いを解くためにも、一旦メイア国に連れて行かなくては。

 メイアの王宮地下にある、王族にのみ伝わる妖精の泉。

 その水に触れさえすれば、死神王子の呪いは解けるはず。

 なにもアリーシャがなにかする必要はない。

 というよりなにもできないのだ。

 妖精の姿を多少見ることはできても、意思疎通なんてできない。

 その力を使うこともできないのだ。

 それでも妖精の姿が見えるだけでじゅうぶんすごいことである。

 だからこそアリーシャは妖精姫ともてはやされているのだから。


「お久しぶりね。……元気? 義姉様」


「……パンドラ。…………久しぶりだね」


 死神王子はさぞやアリーシャとの初対面に喜ぶだろうと、そう思っていたのに……。


「お前が妖精姫か? そしてそっちが…………。なるほど、面白いことになりそうだ」


 そう言って笑う死神王子の顔は、嫌味な笑顔を浮かべているのに、悔しいくらい整っていた。

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